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第19話 剣神、縛られる

「立会人は私、魔法戦術科3年カーライルが務めさせていただきます」


 決闘場リングの中央。

 木剣を携えたカナデと木杖を装備したスネイプが、立会人を挟むような形で対峙している。


 その様子を観客席から見守る僕と、


「カナデ・アオイ。アークと同じクラスの、旧知の女子。……か、かわいいじゃないの……ぶつぶつ……」


 隣で憮然ぶぜんとした表情を浮かべながら、リング上のカナデを睨みつけているメア。


 そして、


「メア様。嫉妬しっとの炎が渦巻いてますよ」


 ごく自然な形で、僕らと行動を共にしているゲッティもいた。


「なっ! ち、ちがうわよっ! ていうか、なんでアンタまでこんなところにいるのよ? アナタ、ここの学生じゃないでしょ?」


「私はアーク様の付き人ですので。いつでも一緒です」


「い、いつでも!? てかそれ、全然説明になってない!」


 さらっと真実をごまかすゲッティ。

 メアに監視を付けていることは、もちろん本人には内緒だ。


 知れると面倒そうだからね。

 余計な気を遣わせるのも申し訳ないから黙っている。


 ちなみに彼女たちには面識がある。

 僕とメアは互いに家同士の付き合いがあり、ゲッティは最近までずっとウチで僕の使用人をしていたのだから、当然っちゃ当然だよね。


 それにしても、メアはなにをそんなにカリカリしているのか。


 よくわからないが、今は黙って見ていてほしい。


「うるさい。始まるぞ」


 この勝負、まず前提としてわかっているのは、スネイプがカナデに勝てる見込みが万に一つもないということだ。


 あえて僕とカナデ以外でクラスの人間の実力を聞いたのはそのためだ。


 カナデはのちに剣神となる逸材いつざいだ。原作シナリオが改変傾向にあるとはいえ、そうそう実力で彼女を上回る者がホイホイあらわれはしないだろう。


 そしてそれは、スネイプ自身もおそらく理解していたはず。だからヤツが正攻法で攻めてくるは可能性は低い。


 実力差を埋めるためのなんらかの策をろうしているハズだ。カナデにはぜひ、その不確定要素を打破できる、臨機応変な対応力を見せてもらいたい。


土人どじんには虫唾むしずが走る。が、お前はなかなかイイ女だ。ありがたく思え。ブタの前にまず、お前から俺専属のペットにしてやろう」


「うわぁ……」


「なに?」


「そのニチャニチャした感じ……本当に、きもちわるい……」


 相変わらずの小声でキレのある毒舌っぷりを発揮するカナデ。


 いや、アレは単純に素直なだけなのか。


 カナデは、思ったことはただそのままストレートに相手へ言い放ってしまうタイプなのかもしれない。


土人どじんが……徹底的に、教育してやる必要がありそうだなっ!」


「無理」


 両者、互いに戦闘態勢に入る。


「それでは、勝負……始め!」


 立会人の号令が下り、決闘の幕は切って落とされた。


 先制攻撃はスネイプか。

 すでに練り上げていた魔力を解放し、杖の先で中サイズの火球を発生させていた。


 そんな中。


 カナデは高速で斬りかかるでもなく、ただスタスタと、まるで無防備とも思える平然とした様子でスネイプへと近づいていた。


「舐めやがって……くらえ、火球十字ファイヤークロス!」


 スネイプの杖先から放たれた火球は十字となってカナデに襲い掛かる。


 面白い魔法だな。わざわざ火の球を発動させてから二つに割り、それをクロスさせてから放つとか。


 まったくもって、意味不明だ。


反閃はんせん


 カナデが迫りくる炎に対してなにか言葉を発したのはわかった。


 声が小さすぎてなんとなくしか聞こえなかった。

 だが、その後に彼女が取ったアクションと起こった事実で想像はすぐについた。


 カナデは究極奥義八閃(はっせん)がひとつ、【反閃はんせん】を使ったのだ。


「なに!?」


 無駄にクロスした火球が、そのまま術者のスネイプへとかえっていく。


 この技の説明は非常に簡単だ。

 すなわち、魔法攻撃を超剣速でただそのまま跳ね返すというだけの技。


 言うのは容易たやすい。

 だが、これを13になる歳で使いこなせるカナデの才能はハッキリ言って異常。


 もしかしたら今の彼女……


 僕より強いんじゃね?


「くっ!」


 たまらず真横へ回避行動をとるスネイプ。

 だがすでに、目の前にはゆっくりと前進していたカナデがいた。


 あの間合いは完全に彼女の必勝領域だろう。

 普通に考えれば、これでスネイプの勝ち目は万に一つもなくなっているのだが。


 ヤツを買いかぶりすぎたか。

 策がなければ、ここでこの決闘は終結となる。


「すでに……勝敗は決しましたよ。おとなしく負けを認めれば、これ以上は攻撃しないけど……どうする?」


 いや、ちょっと。

 なんで叩きのめさないんだよ、カナデ。


 土人どじんとか言われてんだよ?

 そういうのは武力で一回黙らせてからにしようよ。


「……正直、ここまでの実力差があるとは思わなかった」


「それは、負けを認めるということ?」


「悔しいが……《《現時点の才能》》という点においては、な。だが勝負の世界は違う」


「!?」


 なにっ!?

 どういうことだ、コレは。


 なんの突拍子もなく、カナデの足元に高濃度の魔力源が発生したかと思うと、その足首は鈍く光る魔法輪リングにからめとられ、動きを封じられた。


 トラップではないんだ。


 僕はデュネイから教えてもらっていた【罠目トラップアイ】を発動し、事前に決闘場の様子や仕掛けを常に把握していたから。


 スネイプの魔力の流れもくまなく見ていたが、策をろうする様子もなかった。


 だとするならば、だ。


 一番姑息な手段として考えられるのは、《《協力者》》がいるということだ。


 すなわち……


「アーク様。気づかれましたか」


「ああ」


 どうやらゲッティも察したようだ。


 原作ではまったく絡みのないキャラだったから失念した。


 うまく魔力残滓(ざんし)痕跡こんせきをごまかしていたのですぐにはわからなかったが、僕の【魔色感知インサイト】はごまかせないぞ。


 魔法戦術科3年カーライル――


 立会人はどうやら、スネイプとなんらかの関係性を有する人物だったらしい。

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