14章【空白(ブランク)】Ⅱ
「もし、
また、お前らと笑って会えるなら。」
そんなの、1ミリも怖くない。
青白い光が、視界を飲み込む。
その瞬間、私は静かに1歩前踏み込んだ。
青白い光が弾ける。
次の瞬間、
私は固い石畳の上へ叩き出された。
「………っ、あ……!?」
知らない天井。
知らない空気。
冷たい石の匂い。
そして、目の前には
夢で見た、あの化け物がいた。
「───っ、」
黒い。
カラスのような羽根に包まれた体。
人のようなシルエットだが、人間じゃない何か。
ぞわりと背筋が粟立つ。
だが、
私の目を奪ったのは、その腕の中だった。
"魔王"は、誰かを抱いていた。
口から血を吐いている。
動かない体。
落ちないように、大事そうにその手で支えている。
「………、先生?」
思わず、そんな言葉が口からこぼれる。
その瞬間、
魔王の視線が、私に向いた。
黒い羽根が舞う。
その後で
殺気が襲った。
「ッ!?」
反射的に私は竹刀袋をつかんだ。
ずるりと中身を引き抜くのと同時に、振り下ろされた黒い爪へ叩きつける。
ガツン。そんな音でぶつかった。
「ぐ、ッ……!」
重い。
腕がしびれる。
電柱でも殴ってるみたいだ。
人間の力じゃない。
竹刀がミシリと嫌な音を立てた。
ヒビが入る。
折れる、
そう理解した瞬間、
体が勝手に動いた。
足が下がり、腰を整える。
魔力の流れを読むみたいに、自然と指先が動く。
……知らない。
こんなの、知らない。
なのに、
"どうすれば守れるか"身体が知っていた。
私の口が無意識に開く。
「───【庇護の領域】」
竹刀の前に、青白い半透明の障壁が展開される。
魔王の爪が止まる。
ピリリ、と殺気が強くなる。
「……………。」
魔王の目がゆっくり細まる。
抱えたままの女を片時も離さずに。
「テメェ。」
低い声が落ちた。
ぞわりと空気が軋む。
「そりゃセンセイの能力だろうが。」
羽が差し込む光にあたり、キラキラ反射する。
「それになんだァ?
さっきからよォ、」
魔王の視線が私を射抜く。
「お前、
センセイに馴れ馴れしいな。」
───殺気だ。
肌が裂けそうな圧力。
私は、
それでも竹刀を握り直す。
なぜだか俯くのは逃げるみたいで嫌だった。
だから、睨み返す。
「私は、」
喉が、震える。
夢で見るよりも、目の前の化け物が怖い。
本能的に恐ろしい。
でも、それ以上に、
彼ともう二度と会えなくなる方が、嫌だった。
「私は、継成高校2年生。」
深く息を吸う。
「木村 悠人と
松本 拓也のクラスメイト。」
現実で、夢で、何度も聞いたその名前。
もちろんそれだけじゃない。
病院で今も眠る、大事な人たちの名前。
「伊藤 弾の妹。」
まっすぐ魔王を見据える。
「そして」
一瞬だけ、魔王が抱いている女性に目を移す。
生気のない、動かない身体だ。
「望矢 弓子の教え子、」
もう、喉の震えは止まっていた。
「───伊藤 恵理だ。」




