表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2話連作】セレクトー無人の世界で唯一届くのは、 自分を暴く詐欺メールだった  作者: 常に移動する点P


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

セレクト<前編>

 雨の音だけがやけにクリアに聞こえる。一粒一粒がベランダのコンクリートをリズミカルに叩く。昼間は自然光だけで、与えられた仕事を昼までには終わらせる。制作部のグループチャットには次の日までかかりそう、とだけサバを読んだメールをおくっている。


 最近返事が来ない。嫌味な上司は最近結婚したらしく、俺へのアプローチをやめたようだ。やたらとプライベートなお誘いが来るものだから、同期飲みの酒の肴にしてやった。


 口の軽い同期ばかりなのが災いか幸いして、上司からのお誘いはピタリと止まり。彼女は婚活に走った。こう言っては何だが、女に困ったことはない。


 同期8人のうち女性は3人。全員とヤッた。同時進行すぎて、誰といつなんて覚えていないが、上司から誘われている話をすると3人とも独占欲丸出しだった。奪われそうになるとキープしたくなるのは、女ばかりではないのだろうが。


 3人のうちショートカットで、浅黒く、唇が魅力的なアサコとは、いまでも続いている。こっちは身体の関係だと思っているが、週末になると甲斐甲斐しく世話を焼きに来る。


「実家の母親みたいだな」、なんていうと、「リョウスケは母親とヤッちゃうの?」なんて切替してくる馬鹿さ加減が、うざったい。どっちもデリカシーのかけらもない二人だ。



 アサコが来なくなって4週間経つ。会社からのグループチャットも既読がつかない。リモートワークを選んだおかげで、自由な時間を手に入れたが、給与は少し下がった。そんなの違法だ! と喚きたてる老害先輩や産休と子育てを繰り返すママさん社員は、つくづく頭が悪いと思う。



 何かを手に入れるには、何かを犠牲にする


 それは何かと何かを交換するといってもいいだろう。信頼のもとに貨幣と食料、を交換するという仕組み。それは、相手の時間的自由すら交換に値することもある。心の自由ですらそうだ。


 俺が失ったのは、ほんの少しの給与と会社で女を手に入れる機会ぐらい得たものは、余りある自由と会社以外の女。


 俺ばかりモテて不公平だと、同期の男どもは喧嘩腰に言うが、チャンスは平等にあるはずだ。それを活かしたら、公平の均衡が崩れるというだけじゃないか。


 それにしても、アサコだけじゃない、バーで知り合った女も、コンビニの女も、レンタカーの受付の女も、あちこちいたヤラせてくれるだけの女たちが消えた。



 妙だ。


 電話番号を交換しない、全部ラインだけだ。既読にもならない、電話もつながらない。ブロックされているのか? 俺はスタンププレゼントでブロック確認をした。全員ブロックしてやがる。さっき淹れたばかりのコーヒーがすっかり冷めていた。


 会社のメールは送信できる。返事がない。リモートという自由を手に入れたものとしては屈辱的だが、昼から出社することにした。


 マンションのエントランス、いつもいるはずの管理人がいない。駅までの通り道、幼稚園が静かだ。コンビニは無人だ。車が走っていない。電車が動いていない。ホームに誰もいない。



 だれも、いない。



 駅前に乗り捨てられていた自転車を拝借した。会社まで5キロ、行けない距離じゃない。途中、ゾンビでも出てくるのかと思ったが、そんな話ではなくただただ、誰もいないのだ。


 おかげで快適に会社までのサイクリングができたものの、エレベーターを上がり、久々のオフィスの扉の前に立つ。ゲートキーを要求される。たしかにセキュリティーは効いている。社員証が反応した。


 扉を開く、誰もいない。予想通り。さっきまで予想してなかったことをこのわずかな通勤時間で予想して、それが実現しているかたち。



 あぁ、どういうことだ。



 俺は、急いで会社を出た。このままここにいたら危険なのでは、と感じたからだ。道中無人のコンビニで水とレトルトカレーやごはん、缶詰や歯磨き粉、手あたり次第日持ちのする物資をリュックと前かごに詰めた。万引きだ。いや、これは窃盗か。


 自宅に戻るまで、誰にも会えなかった。むしろ会えた方が怖い。お互い警戒し合って、殺し合うのかもしれない。


 無人の街。死体すらない。生命が消失したのか。どうして俺だけが生きているのか。


 食料も日持ちするものなら、食いつなげるだろうが、10年・20年となれば話は別だ。缶詰だってそこまで持たない。


 パソコンを開く、ネットにはつながる。そもそも電気が通じていて、ガスも水道も今まで通り。Wi-Fiも飛んでる。ここより外のどこかには、人がいるってことか?


 新着メールが来た。スパムだ。詐欺メール。クレジットカードが止まると脅して、メール本文の問い合わせサイトをクリックさせて、個人情報を引き出すフィッシング詐欺の典型。


 自分以外の外部からの連絡に、俺は色めき立った。俺はメールに返信を試みた。



「どこからメールしているのですか? 私は三田亮介と言います。S県A市在住です。急に誰もいなくなりました。少なくとも自宅周辺のS県A市一帯、会社のあるS県F市は無人です。コンビニにも誰もいません。店員もです。あなたは誰ですか? お返事ください!!!」

<Re:クレジットカード停止のお知らせ>



 詐欺メールに返事する大人がいるだろうか。モニターの前をじっと見つめる。外はまた雨が降り出してきた。雨特有の土の匂いがしない。微生物がいないということか。鳥もいない。虫も。


 コンビニから盗んできた缶詰をあける。サバ缶だ。マヨネーズとカラシを。水道水は少し不安なので、ミネラルウォーターで米を炊く。設備の整ったビジネスホテルぐらいの感覚であればいい、そう思い込むも、誰もいないということが現実化すると、夜の深まりとともに不安さは膨らむ。


 メールの着信音。パソコンから音が出るように設定を変えた。普段はしない。メールは無視、すぐ読まないが信条だ。



「三田様 お返事ありがとうございます。こちらカスタマーサポートセンター吉岡です。クレジットカードに不正な海外使用を検知いたしまして、停止処分としております。再開する場合は、先ほどのメールにもありますようにこのリンクをクリックいただき、三田様しかご存じない情報を入力していただくこととなります」

<Re:Re:クレジットカード停止のお知らせ>



 なんとも、さっきのメールよりより詳細ではないか。不正利用? 海外の使用? そもそも俺はクレジットカードを持っていない。



「吉岡様、そちらはどこですか?こちらはS県ですが先ほどのメールのとおり人っ子ひとりいなくなりました。あなたの住んでいるところは、人がいますか?教えてください」

<Re:Re:Re:クレジットカード停止のお知らせ>



「三田様、リンクの中に情報を入力いただかないと、クレジットカードのご利用が再開できません。速やかに入力ください。」

<Re:Re:Re:Re:クレジットカード停止のお知らせ>



 相手にすらしてもらえていないようだ。相手は俺のケツの毛をむしり取りたいらしい。いいさ、どうせクレジットカードなんて持ってもいないし、むしろ個人情報が知れた方がいい。そうした方が誰かが俺を助けに来てくれるかもしれないから。だが、俺が個人情報を打ち込んだらどうなる?もう連絡してこなくなるんじゃないか?とはいえ、このままだと不毛なメールのやり取りだけが続く。


 俺は、氏名・年齢・性別・住所・クレジットカードの番号(架空)・銀行口座番号(虚偽)・趣味・職歴・家族構成・年収・病歴などありとあらゆる情報をフォームに従って入力した。


 クレジットカードの利用再開にここまでの情報は必要ないとわかってはいたが。


 案の定、3日経っても返事はない。詐欺メールとはいえ、もっと骨の髄までしゃぶりつくして欲しい。


 不思議なことに、新しい詐欺メールが来た。同じような内容だが、担当者は花岡と言った。リンクのフォームに入力を促すばかりで、進展はないが、内容は少し過激だった。これまでに犯罪に近いことをしたことがあるか? といった内容まで聞き及んできたのだ。スピード違反や信号無視とお茶を濁すと、メールのやり取りは終わった。


 新しい詐欺メールは、直列で順番待ちのように、行儀よく送られてくる。同時に2件の詐欺メールとやり取りはない。犯罪については、車で当て逃げをしたことを書くと、納得してもらえたのか、クレジットカードの再利用まで少々お待ちくださいと返事をしてきた。


 だが、それ以上のやり取りは発生しなかった。俺にも実害はなく、なんといってもクレジットカードを持っていないことが、空虚なやり取りになっているのだろう。


 詐欺側にもノルマがあるのか、クレジットカードに対してどうこうよりも俺の個人的な情報をただただ引き出したいだけとなっている。より過激に、性的な嗜好はとうの昔に答えた。より具体的なプレイにまで話は及び、俺もその熱に煽られ、あることないこと書き連ねた。ストレスが溜まっていたのだ。


 30件近くやり取りを終えた時、備蓄していた食料も底を尽きた。コンビニをめぐり、スーパーをはしごし、食料や暇つぶしに小説も入手した。


 帰宅すると新しいメールが届いていた。詐欺メールだが、それはいつものとは少し違った。


 メールの件名は、「セレクト」というものだった。本文には選ばないと、死ぬ、とだけ書かれて、その下にリンクが貼られていた。


 死ぬだって? もうずいぶん前から死んでいるに近かったし、その本文に驚きすらなかった。この詐欺メールでしか、誰かとつながっていない、その誰かも誰かはわからない。死んでるに等しい。


 いつものようにリンクをクリックすると、そこにはいつもの入力フォームではなく、画像が埋め込まれていた。どれも俺が関係をもった女たちばかりだった。アサコにほか同期の女たち、バーで知り合った女も、コンビニの女も、レンタカーの受付の女も、ざっと30人ほど。




 セレクト


 と記されている。ラジオボタン(ウェブ上によくある複数の中から一つだけ選ぶ選択肢)が配置されており、どれか一つしか選べない。


 覚えてなどいない。アサコは瀬戸麻子というのか、知らなかった。他の女もフルネームを初めて認識するレベルだ。同期の他の女の名前も、こんなだっけ? というレベル。


 さて、何をセレクトすればいいのか。


 本命の女か? わからない 意図が。


 俺は、アサコをセレクトした。瀬戸麻子。


 ラジオボタンをクリックし、保存ボタンを押す。


 メールがすぐに返って来た。リンク先をクリックする。




 暗がりの画像が1枚。そこには、アサコの姿が。それは血まみれだった。


 驚いてパソコンを閉じる。電源も落とした。


 俺は一体、何を見せられたのだ? 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ