第4話
記憶が戻ったことで、私は、昔の友人たちともまた会うようになった。彼女たちは皆、事故以来、私からまったく連絡がないので、随分と心配してくれていたらしい。
バーナルドに冷たく当たられたことで、記憶喪失時の私は神経質になりすぎて、友人たちとの接触を避けていたが、今にして思えば、『ちゃんと元気にやっているわ』と、連絡くらいはしておくべきだった。
自分の思慮の浅さを恥じ、私は皆に「心配をかけてごめんなさい」と頭を下げた。
そんな私の態度を見て、友人の一人が、こう言った。
「エリザベラ、なんだか変わったわね。明るくて元気なのは昔のままだけど、その、なんて言うか、ちょっと落ち着いて、大人っぽくなった感じ。以前のあなたなら、そんなふうに自分から頭を下げたりしなかったと思うわ」
そうかもしれない。
以前の私は、我が強い分、少し意固地なところがあったから。
私は苦笑して、言う。
「今の私、変かな? 昔の方が、良かった?」
友人は、首を左右に振り、笑った。
「全然。今の方が、やたらとはしゃいでた昔より、いい感じだよ。エリザベラみたいに大人っぽくなれるなら、私も記憶喪失になってみようかな」
笑えない冗談だが、笑っておくことにした。
……『今の方が、やたらとはしゃいでた昔より、いい感じだよ』か。
嬉しい言葉だ。
記憶を失っていた間の経験が、私を少しだけ変えてくれたのだろう。こんな私でも、人間として成長できたなら、色々思い悩んだ甲斐もあるというものだ。
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記憶が完全に戻ってから、しばらく経った、とある休日。
私は家のベランダから、ぼおっと路地を眺めていた。
時間は、お昼過ぎ。
瞳を閉じ、柔らかな日差しを顔いっぱいで受けると、とても気持ちいい。
しばらくそうしてから、目を開けて、また路地を眺める。
ぎょっとした。
路地にいつの間にか、かつての婚約者、バーナルドが立っていたからだ。
いや、『かつての婚約者』という表現は、正しいようで、正しくない。気持ちはすっかり離れているが、まだ正式に婚約を解消したわけではないので、決まりの上では、バーナルドは今でも私の婚約者……ということになっている。
バーナルドは、信じられないくらい明るい笑顔で大きく両手を振り、私に言う。
「エリザベラ、聞いたよ! 記憶が戻ったんだって!? どうして教えてくれなかったんだい!?」
ああ、なるほど。
私の友人たちから、口伝えで、記憶が戻ったことを聞いたのか。
……私は、バーナルドを無視した。
日向ぼっこも終わったし、一度背伸びをして、小さくあくびをかくと、何事もなかったかのように、ベランダから部屋に引っ込む。バーナルドはその後、しばらく何かを喚いていたが、すぐに静かになると、今度は私の家の呼び鈴を鳴らした。
まあ、そうするわよね。
私は、二階にある自室を出て、玄関に向かう。
そこには、父と母が、心配そうな様子で立っていた。
バーナルドに対する、『今の私』の思いを知っている父が、「ワシが代わりに話そうか?」と言ってくれたが、私は首を左右に振った。それから、力強い微笑を浮かべて、言う。
「ありがとう父さん。でも、自分のことよ。自分で決着をつけるわ」
そして私は一人、玄関ドアを開け、外に出た。




