9話 1日目の終わり、フェアリーラビットの反応
トイレ問題が解決すると、リビングに戻ってきた俺達。そうして話しを再開させたが。
今日は自分の何があったのか分からず、記憶喪失になるは。この森の中で5本の指に入るような、力を持っているサンダーファングタイガーに襲われ、大変な1日だったんだから。今日、明日はゆっくり休めと。
また、他のことについては、2、3日ゆっくりしたら、また教えてくれると言われたので。俺はそれに甘えてゆっくりさせてもらう事に。
うん、そう、ゆっくりさせてもらったんだけど。でも、させてもらえなかったっていうか。
トールが、俺が記憶をなくしているならと、いろいろ教えてくれてさ。これは棚、これはイス、これはテーブルって。
さすがにそれは覚えているよ、と伝えようとしたけど。最初は俺のために、だった説明が、途中から子フェアリーラビットのためにも、に変わって。
人間の物について、子フェアリーラビットは初めての物ばかりだったからな。結局ずっと、子フェアリーラビットと一緒に、トールの説明を聞く事に。
それから、カーライルさんの作ってくれた夕食は、とても美味しかった。トマト風味で野菜たっぷりのスープと、魔獣肉のステーキとパン。それからデザートに、見たことのない果物をたくさん。
この世界の料理が、食べられる物で良かったよ。よくライトノベルだと、味がしないとか、お肉とパンが硬いとかあるからさ。
もしかしたらカーライルさんの料理の腕が、良いからかもしれないけど。まだ、他の料理を食べていないからさ。それでも、美味しいご飯に、気持ちもお腹も満腹になった。
そして食事の後は、部屋の説明をしてもらった。食事をする部屋、ゆっくりとくつろぐためのリビング的な部屋に、誰かが来た時に使う部屋や、物置的な感じで使っている部屋。全部で7つの部屋があった。
それから荷物置き場には、狩ってきた魔獣を保存しておく小屋と、仕事道具をしまっておく小屋が、家の裏に建っているらしく。また後日見せてくれると。
俺は2階の森の景色がよく見える、端の部屋を貸してもらえる事に。クローゼットと小さなチェスト。ベッドに、ベッド横にはサイドテーブル。それから小さなテーブルと、椅子が置いてある部屋で、客室の1つだ。
「良いか、今日はもう何もしないで、すぐに寝るんだぞ。まぁ、何も考えるなって言うのは無理かもしれないが。何しろ自分の身に起きたことも分からないし、記憶を失っていて、不安だろうからな。それでも、休まなければダメだ。これからの事は、またゆっくり考えれば良いんだから」
「はい。あの、本当のありがとうございます!!」
「ふん、子供は大人に甘えとけ。ああ、それと。洋服なんだが。サイズが合わないだろうが、この前知り合いが忘れて行った荷物の中に、新品の洋服があったから。それを使ってくれ」
「良いんですか?」
「ああ。連絡したらもういらなくなったから、こっちで処分してくれと言ってきてな。売っても良いし、孤児院に持って行っても良いと。どうするかと、そのまま置いてあったんだ。だから好きに使って良い」
「分かりました」
「灯りだが、まだ練習していないからな。今日はこの火を使っておけ」
カーライルさんが持ってきたのは、蝋燭だった。こちらの世界ではローと言うらしい。それを5つもつければ。部屋の中がかなり明るくなり、カーライルさんの光魔法は使わなくてもすんだ。
「それから、お前さんにはこれだ。リョウとベッドで一緒に寝ると思うが、1匹用のベッドも必要だろう。トールのお古だが、これを使ってくれ」
『ボクのベッド。今は新品。でもこれも寝心地が良い』
ペット用ベッドみたいな物を用意してくれて、それに喜んでゴロゴロするフェアリーラビット。
『きゅいきゅい!!』
気に入ったらしい。
「よし、じゃあおやすみ」
『うむ、ゆっくり寝る』
「おやすみなさい」
『きゅい!!』
カーライルさん達が部屋から出ていくと、俺は早速洋服を着替える事に。確かに言われた通り、少し大きかったが、着られないくらいでもなく。捲ったり結んだりすれば、普通に着ることができた。
そしてスーツを着ていたはずなのに、こちらの服に変化していた、今まで俺が着ていた洋服は、クローゼットにしまい。他の荷物も棚にしまったり、片付けたりしているうちに、結構な時間が経ったため。ちょうどひと息ついたところで、俺は寝る事にした。
歯磨きは、先に教えてもらったんだけど、歯ブラシそっくりな物があって。洗面所でそれを使い、歯を磨いたぞ。
寝る前にもう1度挨拶をと思ったが、もうカーライルさん達の姿は見えず。おそらくもう自分の部屋に行ったのだろうと、そのまま部屋に戻って。1つだけサイドテーブルのローを残し、全ての火を消すとベッドに潜り込んだ。
そんな俺の所へ、潜り込んできたフェアリーラビット。俺の腕に顎を乗せて、ニコニコしている。そんなフェアリーラビットの様子を見て、俺は話しはできないながら、フェアリーラビットに話しかけてみた。
「なぁ」
『きゅいぃぃぃ』
「お前さ、本当に俺と一緒にいて良いのか?」
『きゅいぃぃぃ』
「いやさ、お前。本当の家族がいるんだろう? 家族の元へ戻った方が良いんじゃないか? 俺はさ、俺を気に入ってくれて、ついて来てくれて嬉しいけどさ」
『きゅい!!』
と、その話をした途端、フェアリーラビットが俺の腕をパシパシ叩いた。
「何だよ。自分が好きでここに居るんだから、そんなこと言うなって?」
『きゅいきゅい!』
うんうん頷くフェアリーラビット。
「……お前、俺の言葉が分かるのか? ん? その前に俺は何で今、お前がそう言っているって思ったんだ?」
『きゅいきゅい、きゅうきゅう』
「何を言われても、俺の側に居るって?」
『きゅいきゅい!!』
「あれ? まただ。う~ん、何でそう思うんだろうな? ……あのさ、もしだけどさ。さっき話しを聞いて思ったんだけど。もし俺が契約する能力を持っていたら、お前俺と契約するか? いや、本当、もしもなんだけどさ」
『きゅいぃぃぃ!! きゅいきゅい!!』
途端に飛び跳ねるフェアリーラビット。それからグルグルと部屋の中を飛び回り。本当に俺の言葉が分かってる? うん、この反応。本当に喜んでくれているなら、とっても嬉しい。
それになぁ。子フェアリーラビットが、俺の所へ戻ってきてくれた時、何かを感じたんだ。それを説明しろと言われると困るんだけど。こう、この子フェアリーラビットに、絆を感じたっていうか。だから、もし契約できたらって思ったんだ。
「うん、やっぱり明日、タイラーに通訳してもらって、しっかりと話しをしよう。それからしっかりと進めれば良い。ほら話しは明日ゆっくりするぞ。今日はもう寝よう!!」
俺の呼びかけに、すぐに戻ってきて、また俺の腕に顎を乗せるフェアリーラビット。俺はその後すぐに、眠りについた。