第19話 決定打
バシュ! バシュ!
花丸がレイブラスターを放つと、大蛇の悪霊はそれを回避して穴から穴へ移動しながら2人の動向を伺う。
花丸
「絶妙な距離感だぜ。あまり近付くのをよく思っていない様だ」
光はオコゲを持って真言を唱え始める。
光
「曩莫三曼多嚩日囉赧…」
オコゲ
『や、やめーい!』
オコゲがバタバタ暴れ回る。
光
「ど、どうしちゃったの??」
オコゲ
『不動明王の力で燃やす気じゃろ! アレは熱いからやめて欲しいのじゃ、、!』
オコゲはイヤイヤと体を震わせながら拒否する。
光
「うーん、そういわれるとやり辛いなぁ、、」
廻子
『ふ、無理矢理従わせたらいいだろう。元は祟り神なんだからな』
光
「そうはいかないよ。折角手伝ってくれるんだから、嫌がる事はさせたくない」
津雲
『優しい御方ですね』
花丸
「しかし火が弱点なら、有効打を与える為に火を扱う必要があるな。こうも逃げられちゃ面倒くさいったらない」
周囲の温度はみるみる冷えていく。肌寒くなり、鳥肌が立ち始めた。
廻子
『長居は無用だぞ。邪気に当てられ続けると精神的に消耗する。こちらの霊的エネルギーも侵食されてデバフが掛る』
津雲
『魔界は邪気で覆い尽くされています。ネガティブなエネルギーに触れ続けるといい事がありません』
光
「ならば!」
光はティンシャを取り出す。
光
「唵阿謨伽尾嚧左曩摩賀母捺囉摩抳鉢納麼入嚩攞 鉢囉韈哆野吽!」
光は真言を唱えるとリィーーーーーーン、リィーーーーーーンとティンシャを鳴らし始めた。
悪霊
『あうぅ、、』
周囲の邪気が浄化され、幾許か明るくなった様に感じる。
花丸
「あそこだ!」
花丸の指差す先の穴に悪霊の存在を確認する。ティンシャの音と波動でジンワリと焼け、苦しんで頭抱えているようだ。
エリック
『花丸先生、レイブラスターの射程を伸ばす為にカスタマイズを施しましょう』
花丸
「OK!」
バックパックからレイブラスターのパーツを取りだし組み立てる。瞬く間にライフルの様な姿に仕上がった。
花丸
「にひひひ。狙い撃つぜ」
花丸は悪霊に照準を定め、出力を上げて放った。
バシュン!!
悪霊
『ぎゃああっ!! チクショオ!!』
悪霊は頭を引っこめ、穴の奥へ潜っていく。
光
「更に奥へ行っちゃいましたね」
花丸
「どうするか。追い掛ける?」
廻子
『穴の中へ入れば何処から奇襲を受けるか分からない。オススメはしないな』
花丸
「それもそうか…。しかしタフだなアイツ。何度もレイブラスターを撃ったし、光くんも何度も攻撃を加えていたはずだが」
津雲
『蛙の悪霊を食べたのもありますし、黄昏時の魔の領域という事もあります。自然回復もし易い状態なのでしょう』
廻子
『楔だ。アレを破壊しなきゃお前達はジリ貧になる』
光
「やっぱりそうなんだ…。でも楔は食べられちゃったよね」
花丸
「僕に考えがある」
花丸は穴の中へ入ろうとする。
光
「教授!? 危ないですよ!!」
花丸
「大丈夫だ。僕を信じてくれ」
どんどん奥へと進んでいく。
エリック
『花丸先生、作戦をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
花丸
「内緒だ」
光が取り残される。すると別の穴から悪霊が現れた。
悪霊
『男は穴に入ったか。置いてけぼりにされた様だな、霊能者』
チロチロと舌を出して光の様子を観察する。
光
「卑怯者〜! 正々堂々と戦え!」
悪霊
『沢山罠を仕掛けていた君に言われてもね』
光
「雷公雷旡、雷母威声、五行六甲、百邪斬断」
光は形代を取り出し、真言を唱える。すると形代はバチバチ、ゴロゴロ、と轟き始めた。
光
「きえぇぇぇいいっ!!」
ズビュ! バジィィンン!
形代は雷を纏いながら悪霊の方へ飛んでいくと、強烈に帯電して悪霊に激突した。
悪霊
『うがっ、、!? クソ、今日は本当に忌々しい日だ。何一つ上手く事が運ばない』
悪霊はゲロゲロと蛭を吐き出す。すると蛭は人の形になり、ヒタヒタと光の方へ歩き始めた。
廻子
『地縛霊で作った出来の悪い簡易神使って所だな。形もグズグズに崩れてブサイクだ』
津雲
『雷神の真言も覚えたのですね。いやはや飲み込みが早いです』
廻子
『しかし焦れったいな。お前や郷造ならとっくに終わってる所だぞ』
光
「まだ陰陽師になって数日なんで大目に見てください!」
ややイラッとしつつも、蛭の使い魔を猫パンチで薙ぎ払っていく。
ビチュ!
光
「うっ、、」
肩に蛭が飛んでくっついてしまう。ジュルジュルと吸い上げようとする。
廻子
『生命エネルギーを吸おうとしているぞ。不動明王の真言で気を高めて焼き払え』
光
「むぅ、曩莫三曼多伐折囉赧、戦拏摩訶路灑拏娑破吒野、吽怛囉吒憾曼!」
素早く印を結んで気を高める。ぼぉ〜っと、全身から熱が出始めた。
蛭
『ジュリィ、、!』
蛭は堪らず地面に落下する。
悪霊
『隙あり!』
悪霊は真言を唱える光の隙を突いて噛み付こうとする。
ズギュン!
その背後の別の穴からレイブラスターを悪霊に向けて放つ。バシュン、と被弾すると顔を顰めて花丸の方を向き直った。
悪霊
『…どうやら先に相手して欲しいみたいだね』
花丸
「おうよ。直ぐ追ってくると思ったが、光くんにターゲットを絞ったようだな。お陰で中の構造は大体理解出来た。もうお前は何処にも逃げられないぜ」
悪霊
『なんだと? この短期間で?』
エリック
『スキャンすればあっという間にマッピング可能です。私がいれば、もう道に、いえ、穴に迷うことはありませんよ』
津雲
『普通、花丸先生を悪霊が追って食べられるのがベターな展開なんですけどね』
廻子
『向こうの攻撃を尽く防いで殴りまくってるし、警戒させ過ぎたな』
悪霊
『もう理解出来ているぞ。お前達の弱点は決定打となる攻撃がない事だ…。攻撃を防いで近付き過ぎなければなんてことは無い』
光
「分析する時間も与え過ぎちゃったね、、」
悪霊は花丸の入った穴に向けて吐瀉物を吐きかける。
ぶしゃあ!
悪霊
『触れれば邪気で腐り溶けるだろう。虚仮威しではないぞ?』
花丸
「なにぃ?」
穴の周りは緑色の吐瀉物塗れでじゅくじゅくに溶けている。悪霊は別の穴から入り込み、そして花丸正面に回り込んだ。
悪霊
『戯れはお終いだ。悪霊に楯突いた事を後悔させる暇も与えん!』
グパッ! と大きく口を開け、花丸を飲み込もうとする。
花丸
「うぉ、、!」
光
「花丸教授ッ!!」
穴の奥の様子が分からない。不要に中へ入る事は憚られるだろう。
オコゲ
『彼奴の気配が消えた。愚か者が、挑発し過ぎるからじゃ』
光
「そんな、、!」
光は項垂れ膝をつく。肩の力が抜け、ワナワナと震えている。
悪霊
『くく、くくくく…』
しゅるしゅると地面を這いずり悪霊が戻ってくる。
悪霊
『アイツは一飲みにしてやったよ。生意気でウザイヤツだったから清々した。次は、お前だ…』
オコゲ
『おい! 光! 早く体勢を立て直せ!』
光
「でも、でも、教授が、花丸教授が食べられちゃったなんて、、」
愕然としたまま、その場に座り込んでいる。唇が青ざめ、邪気によりネガティブなオーラに包まれる。
廻子
『…不味いな』
津雲
『どうしましょう? 私が行きましょうか?』
悪霊
『アイツは今頃胃酸で溶かされてグズグズになってるはずだ。私の一部となって、願望を叶える為の未来の礎になるだろう』
悪霊はガパァと口を開け、光を丸呑みにしようとする。
悪霊
『直ぐに会わせてやる。私の腹の中でな…』
バリ、パリパリパリパリ…。
何かが割れる音が聞こえる。
悪霊
『うん?』
周囲の魔界が剥がれていく。
バリバリバリバリ、ガシャアン、、。
悪霊
『ど、どういう事だ?』
花丸
『こういう事だよ』
バシュン! バシュン! スバッ!
花丸は悪霊の腹を裂いて飛び出てきた。手には小刀で一突きされた人形が握られている。
悪霊
『く、クソ、、。何故溶けていない!』
光
「は、花丸教授!」
光の表情がぱぁ、と明るくなる。
花丸
「このスーツのお陰だ。溶けるとか、燃やすとか、そういった現象を無効化させる仕組みが施されているんだ。上手くいくかは賭けだったけどな」
悪霊
『何が何だか訳が分からない、、』
花丸
「説明する義理も無いな。光くん、立てるか?」
光
「は、はい!」
花丸
「よし。それじゃあ一気に仕留めるぞ」
悪霊の体はボロボロと崩れている。楔は破壊され、内部からレイブラスターを撃たれているからである。徐々に崩壊しつつあり、筋組織や骨が露出し始めている。
悪霊
『なんて、なんて忌々しい、、。どうしてお前達の様な人間が存在出来るんだ。私達は死んで霊界を生きているのに、何故干渉しようとするんだ、、!』
花丸
「先に仕掛けようとしてきたのはそっちの筈だ。問題になり得るから対処する必要がある。至極自然な行いだと思うがな」
光
「観念しなさい。教授を食べた罰を受けてもらいます!」
廻子
「む?」
悪霊
『…っ!?』
天井の穴から廻子がヒョコっと顔を出した。
廻子
「何が起きている? どうして魔界が解除されているんだ?」
悪霊
『く、くくく。最後の最後で私はツイている様だな…!』
悪霊は廻子に向けてS字に体を曲げ、攻撃態勢を取る。
悪霊
『コイツを喰らって逃げ延びてやるッ! お前達に一生後悔させてやるぞーっ!!』
ぐわぁっ!! と悪霊は廻子に向かって飛び掛った。
花丸
「あっ!」
ガシ!
悪霊
『なっ、、!?』
グシャ! ブシュ〜〜〜〜〜〜〜、、、。。
光
「ありゃ、、」
廻子
「すまん。どうやら留めを刺してしまったようだ」
廻子の思業式神が悪霊の頭をキャッチし、軽く握り潰してしまった。ダラりと全身の力が抜け、グシャリと下に落下した。
花丸
「一応レイブラスター、撃っとくか」
花丸は悪霊の亡骸にレイブラスターを撃ち込み、データを収集した。
光
「こ、こんな終わり方って、、」




