プロローグ
「花丸教授。どうですか…?」
白衣の黒髪の女性が教授と思しき男性に話しかける。男性はヘッドセットとゴーグルを装着し奇天烈な機械のスコープを覗き込み、動かず女性の投げかけた言葉にも応答しない。
「…」
すると男性はすっと女性の方を向き答えた。
「光くん。見えたよ」
光
「ほ、本当ですか…!?花丸教授、見ても…いいでしょうか…?」
花丸は席を立ち光に言う。
花丸
「ああ、見ていいぜ。だけど、絶対に【目を合わせるなよ。取り憑かれるかもしれないぞ】」
光はその言葉にゾッとしキュッと身を縮めた。おどろおどろしい様子で席に座り、奇天烈な機械のスコープを眺める。
光
「…」
その機械は顕微鏡のスコープが付いており1つ目の目玉の様なレンズが付いている。まだ試作段階の為か機械のフレームは仰々しく大きい。何となく機関車の様な形状になっている。光は頭にヘッドセットを取り付けゴーグルを装着し、スコープを覗く。
光
「…うう、緊張で吐きそうです…」
花丸
「おいおい、機械に向かってぶちまけてくれるなよ。故障の原因になっちまうじゃねぇか」
光はじっと、機械を覗き込む。徐々に自分の意識が泡立つように散りばめられていくような感覚を覚える。機械のレンズの先。そこは大学のガラスの向こう、中庭であった。昼間の大学キャンパスにはキャッチボールをする学生や、昼食を摂る学生。次の授業のある教室へ向かう学生などが行き交っていた。
光
「…ああ、なんだか私の頭の中が組み替えられているような感覚を覚えます。例えるなら積み木のお城。その積み木を空中にバラバラに浮かせて別の建物に建て替えるような感じでしょうか。意識はあるんですが、今はパーツが空中のあちこちに散らばってる。そんな感じです」
花丸
「お、いいなそれ。その感覚…!文書に控えるからもう1回頼む!」
光
「…あ、後にしてください」
花丸はバタバタとメモ帳とペンを取り出し書きなぐり始めた。後ろの様子が想像できるのか光は苦笑いしながらスコープに集中する。
花丸
「…かぁ〜、わかってねぇなぁ。生の活きのいい意見が大事なんだよ。光くん、今から感じた事は全て口から明確な言葉にして発言するように!」
光
「…はぁ、見えなかったら花丸教授の所為ですよ?」
大学の中庭。スコープを覗く光には既に別の空間へと変貌していた。
光
「…これは…」
光にはなんとも表現し辛かった。色んな色の膜を纏った人の形をした輪切りのバームクーヘン。樹木の年輪のようなものが動いている。【それは】それぞれ形が違うものの、先程野球をしていた学生、昼食を摂る学生、移動する学生。全てがそのように見える。その中で【先程人がいなかった場所に違和感を感じる。】学生達はなにかの殻を纏ったような感じに思えるのだが、その年輪というか、バームクーヘンというか、【膜がなく中身がそのまま外へ露出している物体がふよふよと漂っている。】
光
「…バ、バームクーヘンが、…年輪が…」
花丸
「学生共のことか。バームクーヘンに年輪ね。もうちょいわかりやすい例え方したまえ」
光
「…この殻被ってないふよふよした塊、【もしかして幽霊、ですか?】」
花丸
「【ああ、そうだぜ。ソイツが幽霊だ!】」
光はその幽霊をじっと見つめる。幽霊は青ざめており食事を摂る学生をのそばにじっとたっている。
が、眼のようなものがあっちでもなくこっちでもなくキョロキョロと蠢き始めた。
光
「目が」
花丸
「やめだ。そこまで。光くん。外しなさい」
花丸は光のヘッドセットとゴーグルを取り外した。
光ははぁ、とため息をつき花丸をじっと見つめる。
光
「もう少しみさせて下さいよ…」
花丸
「ダメだ。どうなるかわかったもんじゃないし、まだ試行錯誤中の段階の機械だ。色々と危なすぎる。」
光は先程幽霊がいた場所を見る。しかし何もいなかった。
花丸
「見るな。次はまた今度だ。今日はおしまい。家に上がる前に肩に塩でも振っとけよ」
光
「また意味の無いような事を…私たちは科学的に幽霊を分析する為に研究しているんですからね?根拠に基づいた発言をお願いします」
光はむくれてしまった。
花丸
「ふっ、めんどくさいやつだ」
花丸は機械をケースに入れると鍵をかけて台ごと部屋の奥へしまった。光は目でその光景を追う。【あれは、あの機械は
、幽霊を見る為の機械。】