1-1 目覚め
「ピピピピ」
電子音が聞こえる。聞こえるということは僕はコールドスリープから目を覚ましたようだ。どれくらいの月日、いや年数が経ったのだろう。自分の感覚では1日良く寝た程度のものだが。目が開けられない。重いという次元のものじゃない、ピクリとも動かない。
どうやら動かないのは瞼だけではない。手足も動かないようだ。生きているのか死んでいるのかも分からない。そんな感じ。ただ、こうして思考が働くということは、恐らく生きているのだろう。瞼越しに光も感じる。失われているのは各筋肉組織のようだ。
そのまま3時間ほどのたうち回っているうちに漸く視界が戻ってきた。真っ白いその部屋は安藤の感覚でいう数分前のその部屋だった。ただし、部屋は散乱し、風化と言って良いほど退廃していた。蛍光灯も数本辛うじて生き残っている程度、ステンレス製の棚も机も倒れ変形していた。1番見たかった時計も全く時刻は表示されていない。
(いったい今はいつなんだ・・・。)
声が出ない。これまでに経験の無い乾き。自身に流れるこの点滴がそのうち潤してくれるか。時間は分からないでは場所は?設定では地球に再接近したときのはずだが。
点滴が終わり、漸くなんとか手足が動くほど回復した・・・ように感じる。コールドスリープのベッドから転げ落ちるように出ると、履いながら操縦ブロックへ向かう。必死の思いで辿り着くと目の前には青い星が広がる。
「ち・・・きゅう?」
疑問形だったのは安藤が知る地球は様子が違っていたからだ。青いその天体はパッと見ると地球に見えた。しかし、白の雲の隙間から見えるその大陸は数時間観測してもどの地球上の大陸とも形状が一致しない。大陸移動説に地球は最終的にはアメイジア大陸という単一の巨大な大陸になるという話があるが、あれは数億年先の話だ。流石にコールドスリープでそこまで肉体が保つとは思えない。
(まさか、外宇宙・・・太陽以外の恒星系か?)
それも奇天烈な理論だ。恒星間の移動も数千から数万年かかる計算だった気がする。だがまだ現実的な数字だ。それも1%以下程度の生存確率だが。
(俺は数学者ではない。ありのままに現象を観察するのみ。)
まずは、エウロスをこの惑星の安定軌道に乗せる。エウロスは凄まじいほどの長期間航行によってボロボロで気密性を維持出来ているのが不思議な状態だったが、ソーラーパネルが無事だったこともあり、1部の動力が生きいた。そのお陰でなんとか安定軌道に乗せることができた。
それから目の前の惑星の観察に入る。大陸は2つ。うち1つは氷に覆われ、本当に大陸なのか海上の氷塊なのかは判断できない。地球に比べ海の面積比率が高い。大陸には中央にT字型の山脈があり大小の川が見えた。一見する限り緑も多くなにかの生物が生息している可能性がある。その辺がこのエウロスが地球と誤認した原因だろう。取り敢えず体力の回復を待つ間、観測を続けることにした。
このときすでに安藤はある覚悟を決めていた。
この惑星に着陸するという覚悟を。