9.4回表
なろうファミリーベンチではりきてっくすが左手の治療に専念している。何とかリエントリーで試合に戻りたいと願っているらしい。
「どうですか?」
監督の齋藤に聞かれてりきてっくすは左手を差し出した。
「カオリンが愛をこめて手当してくれてるから」
「ずいぶん腫れは引いたようですね」
4回表。酔いどれ軍団は7番志田から。
マウンド上の律子の様子がおかしい。日下部が慌ててタイムを取ってマウンドに駆け寄る。
「律子さん、どうかしましたか?」
「飽きた」
「えっ?」
「ビール飲みたい」
「もう少し我慢できませんか?」
「無理」
日下部はベンチを見た。りきてっくすがしきりにアピールしている。
「解かりました。りっきさんと代わりましょう」
そうして、日下部は齋藤に事情を説明して選手交代を告げた。りきてっくすがリエントリーしたことによって、ファーストには赤塚君が入った。
マウンドに上がったりきてっくすは投球練習は不要だと言った。
「その代わり、返球はやんわりと頼むよ」
「えっ? じゃあ、その手は…」
ニッと笑ってりきてっくすは日下部を追い返した。
律子ほどではないが、りきてっくすもいい球を投げる。志田は打ち上げてサードフライ。続く中の島は引っ掛けてサードゴロ。ラストの今日子はセカンドゴロ。りきてっくすは酔いどれ軍団の攻撃をあっさりと3人で片付けた。
なろうファミリーナインがベンチに戻ると、ベンチの中は煙が濛々と立ち込めていた。
「どうしたんですか? この煙…」
「鉄人も食べる? 美味しいよ」
煙の中から目刺しやらするめいかをぶら下げた律子が現われた。
「律子さん!」
「いいじゃないか! そろそろ腹も減って来たし」
「りっきさんまで!」
「まあ、いいじゃないですか。あちらのベンチも盛り上がっているみたいですし」
「え~っ」
酔いどれ軍団はサードに前社長の竹山が入っていた。井川はベンチに引っ込んで馴染の女性たちと酒盛りをしていた。
「樹里ちゃんにスチャラカの姉ちゃんたちも存分に飲んでくれよ」
「さすが部長、太っ腹ねえ」
「そうなんですか?」
もはや敗戦濃厚のチームを見捨てた井川です。
「見捨てたわけじゃねぇ! まだこれからだ」
地の文の冷静な分析を否定して見苦しい言い訳をする井川です。