8.3回裏
この回のなろうファミリーの攻撃は2番の大橋から。酔いどれ軍団は井川に代わって左京がサードに入った。
一巡してなろうファミリーも名取の球に慣れてきた。大橋は高めの球をセンター前へ運んだ。無死一塁。
3番はりきてっくすに代わってファーストに入った北野君。初球を三塁線にバント。際どい打球にサード左京はそれを見送った。打球はラインを割ってファール。
北野君は二球目もバントの構え。左京が猛然と前に出てくる。すると大橋は一塁側へバントをした。意表を突かれたファーストの浦田は出足が遅れた。名取が打球を処理して一塁ベースカバーに入ったセカンドの青田へ送る。それを見た大橋はガラ空きの三塁へ向かう。一死三塁。同点のチャンスだ。
「大橋さ~ん、ナイスラン!」
なろうファミリーベンチではチアガールたちが飛び跳ねて喜んでいる。
三塁ベース上で大橋が(もっと若い子ならよかったのに)と思っているのは内緒です。
「思ってな~い!」
本当の気持ちを代弁してあげた地の文に切れる大橋です。
「しなくていいから!」
そして、4番の律子がバッターボックスに入る。キャッチャーの日下部が立ちあがった。どうやら酔いどれ軍団は敬遠策を取るようだ。名取の東京が外の高めに外れていく。1-0。
「ちょっと! 男なら勝負しなさいよ」
律子にそう言われて、ビビる名取。
「気にするな」
頷きながらも、名取の二球目は中途半端なボール球になった。
「ラッキー!」
律子はその球を思いっきり引っ張った。打球はレフトの後方へ。しかし、レフト志田は今度は目いっぱい深く守っていた。それでも打球は志田の頭上を越えて行った。フェンスオーバーの2ランホームラン。三塁ランナーの大橋がホームイン。そして律子がゆっくりベースを回ってホームイン。4-3。なろうファミリーが逆転した。
5番センター水無月。
「面倒くさいランナーが居なくて助かった」
水無月の心の声を代弁する地の文です。
「思ってないから…」
慌てて訂正する水無月です。
水無月は気落ちした名取の初球を右中間に運んだ。打球は今日子と小暮の間を抜けてフェンスまで達した。水無月は悠々二塁へ達した。一死二塁。追加点のチャンスだ。
バッターボックスに日下部が入ると、酔いどれ軍団のキャッチャー日下部が再び立ち上がる。
「今度は中途半端なボールを投げるなよ」
日下部の言葉に名取が頷く。日下部が歩いてなろうファミリーは一死一・二塁。
続く7番寛忠は3-2のフルカウントからセンター前へ。バックホームに備えて前進守備をしていたセンター小暮が素早く打球を処理して二塁へ送球。一塁ランナーの日下部がフォースアウト。二死一・三塁。
続くまゆはサードへのゴロ。飛び出した三塁ランナーの水無月が三本間に挟まれた。サードの左京がキャッチャー日下部へ投げた送球がランナーの水無月の後頭部に当たった。ボールがファールグランドを転々とする間に水無月がホームイン。5-3。ランナーもそれぞれ進塁して二死二・三塁。
「こらー! 何やってんだ!」
ベンチから井川が左京に向って叫んだ。
「サード交代だ」
「えっ? 誰に?」
「俺がリエントリーするに決まってるじゃねぇか!」
左京に代わって井川がサードに戻り、試合再開。
続く葵は初球を変わった井川の前へバント。
「なめんなよ!」
井川は猛然と打球を処理して一塁へ。一塁審判が右手を大きく上げた。
「スリーアウトチェンジ!」