4.1回裏
華やかなコスチュームに身を包んだチアガールたちがナインをベンチで迎えた。
「まさか、かみむらさんがあんな投球が出来るとは思ってもいませんでしたよ」
チアガールたちに囲まれて鼻の下を伸ばしている齋藤が言う。
「そんなことはない!」
本当のことを言った地の文に切れる名前だけの監督の斎藤です。
「さあ、反撃するぞ」
いつもと違うキャラ設定に張り切るりきてっくすです。
なろうファミリーのトップバッター呂彪がスタンバイする。酔いどれ軍団は名取がマウンドに上がった。名取の投球は腕を回転させて投げるウインドミルではなく、スリングショットによるものだった。ウインドミルほどのスピードはないが、コントロールはよさそうだ。
「相手投手はコントロールがよさそうだから、いい球が来たら初球から振って行け」
「鉄人、了解しました」
監督の斎藤はもはや指揮官と言うよりはキャバクラにはまったただのスケベ親父に成り下がっています。
「男がスケベで何が悪い!」
完全に開き直った齋藤です。
名取の初球。アウトコースギリギリに入る。二球目。今度はインコースで呂彪を追い込んだ。その後、呂彪は際どい球をカットしながら3-2まで粘る。そして、8球目。名取の球が真ん中に入って来た。呂彪はピッチャー返しでセンター前に運んだ。
無死一塁。バッターは2番大橋。その初級。呂彪が走った。相手捕手日下部が二塁へ絶好球を送ったがショート中の島が後逸。呂彪は三塁を陥れた。無死三塁。大橋は次の二球目をライトへ運んだ。ライトは酔いどれ軍団唯一の女性である須藤今日子。高く上がった打球の落下点に今日子が入る。呂彪はタッチアップに備える。今日子が打球を補給すると同時に呂彪がスタート。悠々セーフだと思われたが、なんと呂彪はホームの1メートル手前でタッチアウト。打球が高く上がった分、ライトの守備位置まで来ていたセンターの小暮が今日子の代わりに矢のような送球をホームに返したのだ。
二死ランナーなし。バッターは三番のりきてっくす。
「りっきー、私まで回さなかったら承知しないからね」
「はいはい! 当たってでも出塁しますよ」
そして、これ見よがしに豪快な素振りを見せるりきてっくす。それを見た酔いどれ軍団バッテリーは警戒を強めた。キャッチャーの日下部がサインを出す。名取が頷いて第一球…。左バッターボックスに入ったりきてっくすは打つと見せかけて三塁線へバントをした。三塁手の井川は当然、一歩も動かず。しかし、投げてすぐ三塁側へ走っていた名取が簡単に打球を処理してスリーアウト。
「くそっ! 見破られていたのか」
「りきてっくすさん、あんな見え透いた素振りをやっていたんじゃ誰だって気が付きますよ。それに素振りは右なのにわざわざ左打席に入ったじゃないですか」
相手の日下部に言われてじだんだ踏んで悔しがるりきてっくすをチームメイト日下部が慰めた。
「ドンマイですよ」
「次は上手くやるよ」
「そう願いたいものね。私もそろそろ肩が温まって来たから次からは全力で行くわよ」
そう言った律子の目は某野球漫画の主人公のようにメラメラと燃え上がっていた。
「りったん、怖いにゃん…」
あまりの恐怖にお漏らししたのだけれど、キャッチャーボーグをしていて良かったと胸を撫で下ろすりきてっくすです。
「漏らしてないにゃん!」
本当のことをばらされて化け猫の本性をあらわにして逆切れするりきてっくす。
さて、1回の攻防を終えて1-0.酔いどれ軍団のリードで2回に入る。