19.打上げ④
座敷では井川が酔いつぶれていた。
「そろそろ、お開きにしましょうか」
酔いどれ軍団の日下部がなろうファミリーの日下部に言った。
「そうですね」
酔いどれ軍団の日下部は名取と小暮に井川を任せて立ち上がった。
「宴もたけなわではありますが、この辺でお開きにしたいと思います。既にお休みになっている方もおられますので、みなさん、そっと撤収してください」
それを聞いた面々は静かにその場を後にした。
店を出ると、火照った体に秋の空気が心地よかった。
「鉄人、次はどこに行くの?」
「今日はもう帰りましょう。律子さんもかなり酔っているようだし」
「じゃあ、ちょっとだけ酔い覚ましに付き合って。ねっ、鉄人」
「じゃあ、ちょっとだけですよ」
「私も行きたいな」
まゆが言うと、圭織も頷いた。
「じゃあ、美子さんのところに行きましょう」
「おっ! それなら私も」
齋藤がにっこり笑った。
「じゃあ、ボクもお付き合いしますよ」
大橋も微笑んだ。
「じゃあ、私たちはここで失礼します」
他のメンバーはそこで各々の家路に向かって歩いて行った。
駅前の通りを入ったところに美子が最近、開いた店がある。落ち着いた雰囲気の和風の喫茶店だ。カウンターと4人掛けのテーブル席が3つある。そのうちの二つのテーブル席に7人は…。あれっ? 7人?
「そうだにゃん。7人だにゃん」
なんだお前も居たのか。
「ボクが居なかったら始まらないにゃん」
どうでもいい奴ほどそう思い込んでいると思う地の文です。
「どうでもよくないにゃん!」
周りのすべての人の言葉を代弁しただけの地の文にキレる、りきてっくすです。
「いいから早く座りなさい」
まゆに怒ら、不貞腐れて一人カウンター席につく、りきてっくすです。
「河ちゃん、久し振りだにゃん」
「今日の試合はどうでしたか?」
「もちろん、ボクの大活躍で勝ったにゃん」
「それはおめでとう。もう、だいぶ入っているようね」
「だから、何か酔い覚ましになるようなものを頼むにゃん」
「わかったわ。ちょっとだけ待っていてね」
その頃、酔いつぶれた井川を押し付けられた名取と小暮は二人静に〆のラーメンを食べていた。塩味のあっさり系ラーメンは飲んだ後には持って来いのメニューだった。
「マスターのラーメンは最高ですね」
小暮の言葉に店主は満足気に微笑む。
「このラーメンが食べられたら、もう何も思い残すことはないなあ」
「名取、何を言っているんだ。部長をどうにかしなきゃならないんだぞ」
「このまま置いて帰りましょうよ」
「ウチはそれでも大丈夫ですよ」
二人のやり取りを聞いていた店主がそう言った。
「ほら! マスターもそう言ってくれていることだし…。アタッ!」
薄情なことを言う名取に天罰が下りました。目を覚ました井川が名取の言葉を聞いて、律子が置き忘れて行ったロケットパンチを発射したのです。
「まだまだ飲むんだよ! ほら、立て。もう一軒行くぞ。いや、あと三軒行くぞ」
井川に引きずられていく名取を小暮は見送りながらラーメンをすすった。




