18.打上げ③
律子にハムカツを横取りされた名取の元へ店長がもう一皿ハムカツを持って来た。
「やった! さすがマスター」
「名取さんってハムカツが好きなんですね」
まゆに聞かれて名取は頷く。
「一つどうですか? ここのは肉厚で美味いんですよ。このウスターソースがまた合うんですよね」
満面の笑みを浮かべてハムカツを力説する名取だったが、まゆは苦笑してさらりと受け流す。
「揚げ物は控えているんで」
「私は大好きなので頂きます」
今日子が横から割り込んできた。
「須藤さんはキャベツを食べた方がいいですよ」
そう言って名取は付け合せのキャベツの千切りを今日子の取り皿に乗せた。そんな様子を見ていたまゆは思わず笑みを浮かべた。
「二人は仲がいいんですね。お似合いですよ」
「どこが!」
まゆの言葉に二人同時に声を上げる。これは完全に図星を突かれたと思う地の文です。
井川と律子の飲み比べはもはや泥仕合と化してきた。
「リッキー、バトンタッチ」
いきなりそのお鉢が回って来たりきてっくすはトイレに行く体を装ってその場を抜け出した。
「危ない、危ない…。おっ! 新顔が居るにゃん」
座敷を降りたりきてっくすの目に飛び込んできたのはテーブル席の面々だった。そして、不穏な空気を感じ取った齋藤は思わず席を立った。
「あれ? 齋藤さん、どうしたんですか?」
突然、挙動不審になった齋藤に大橋が声を掛けた。
「ちょっとトイレ」
それだけ言うと齋藤は素早くその場を離れた。齋藤がトイレから戻ると、りきてっくすがちゃっかり自分の席に座っていた。
「さて、どうしたものか…」
座敷の方を見ると、律子と井川がとぐろを巻いている。名取と今日子は何やら険悪なムードで、まゆがそれを必死になだめている。
「ん? おう、あそこなら平和に過ごせそうだ」
齋藤は座敷の端に居る水無月の隣に腰を下ろした。
「ああ、監督。今日はお疲れ様でした」
「水無月さんこそ。それはそうと、その監督というのはやめてくださいな」
齋藤が席を移したのを見て、店長が新しいグラスと、ペットボトルのお茶を持って来た。
「あ、これはどうも。店長さん、さすがですね。私が飲めないのに気が付いておられましたか」
「まあ、いろんな客を見てますからね。よかったらこれもどうぞ」
そう言って店長が出したのは渥美たくわんだった。
「そこまで判りますか!」
「勘ですけど」
テーブル席ではりきてっくすが舞花に絡んでいた。
「姉さん、静岡なんだってねえ」
「そうですけど…」
「日下部ちゃんとはどういう仲なの?」
「相互のお気に入り…」
「そうじゃなくて、日下部ちゃんがここ(なろうファミリー)に連れて来るってことはかなり親密なんじゃないかな? そう言えば、どうして今回は三人娘が来てないのかな? 大橋くん、何か知ってるかい?」
「えっ! 知りませんよ。そんなこと」
「そっか…。日下部ちゃん、好みが熟女に変わったかな」
「どういう意味ですか!」
その場にいたチアガールズに一斉に突っ込まれ、たじたじになるりきてっくすでした。




