16.打上げ①
午後4:00。暖簾を出しに出て来た店長に井川が声を掛けた。
「暖簾は出さなくていい」
「えっ? あっ、井川さん」
「今日は俺が貸切る」
店長は井川の後ろに控えた面々を見る。20人以上は居るようだ。これなら貸し切りでも儲けになると踏んだ。ただ、井川が連れて来た客だと言うところに引っかかった。ご多分に漏れず、いつものメンバーが顔をそろえている。このメンバーが来ると、ろくなことにはならない…。ん!? あれっ、なんか若い女の子も居るなあ…。スケベ心が湧きあがった店主は思わず口を開いた。
「了解です! 喜んで!」
「今日はずいぶん物わかりがいいな」
「えっ? いや、いつもと同じですよ」
「お前、若い姉ちゃんに下心出したな?」
「とんでもない。いつもお世話になっている井川さんの頼みですから」
取り敢えず、交渉成立。
店長は井川達を奥の座敷へ案内した。座敷に収まらない数人はテーブル席に着いた。早速、瓶のビールとグラスが運ばれてきた。
「まずは乾杯と行こうか」
井川の号令で、それぞれがグラスにビールを満たした。全員のグラスにビールが満たされたのを見計らって井川が立ちあがった。
「前置きはせんぞ。乾杯!」
みんながグラスを掲げて井川に続いた。
「あとは適当にやってくれ。オヤジ、適当になんか出してくれ。みんなも好きなもん頼んでいいぞ」
こうして宴会が始まった。
面倒くさい連中が居る座敷を避けて齋藤はテーブル席に陣取った。楠木翡翠、刹那玻璃、山之上舞花、藤あゆみのチアガールの面々も面識のない酔いどれ軍団を避けてテーブル席へ。チアガールたちに囲まれて自分がモテているのだと勘違いする齋藤です。
「そんな勘違いはしていないよ。これでもちゃんと自覚していますから」
何とか齋藤の本性を暴こうとする地の文を窘める齋藤です。
「僕もこっちのほうが落ち着くな」
そう言って大橋が合流。
「山之上さん、はじめまして」
いつもに増して若作りの舞花にモーションを掛ける大橋です。
「してないから! それに、若いし」
「・・・・・・」
舞花の思い込みに言葉が出ない地の文です。
「刹那さん、楠木さん、藤さんはお久しぶりです」
「はい、温泉旅行以来ですね。また、大橋さんのカラオケが聞きたいです」
そう言って玻璃は微笑んだ。
「大橋さん、気をつけなさい。玻璃はこう見えて酒癖が悪いですから」
「まあ! 齋藤さんったら失礼ですよ」
「いや、藤さん、きっと今夜は思い知らされますよ」
「へ~、それは楽しみ」
「楠木さん! そんなことないですから」
赤ら顔で謙遜する玻璃は既に酔いが回り始めているようだ。




