13.6回表
6回表。酔いどれ軍団の攻撃。バッターは4番の日下部。
なろうファミリーのピッチャーはまゆから大橋に変わった。まゆはサードに入り、サードの弥欷助がショートへ回った。
「齋藤さん、行きますよ。大丈夫ですか?」
「まあ、なるようになるでしょう。さあ、いらっしゃい」
大橋は頷いて第一球を投じる。ふわりとしたボールが真ん中に入ってくる。バッターの日下部はそれを見逃さなかった。
「行ったか!」
酔いどれ軍団ベンチから身を乗り出して打球の行方を追う井川。打球はライト葵のはるか頭上を越えて行く。センター水無月がボールに追いついた時、バッターランナーの日下部は既に三塁ベースを回っていた。10-4。
キャッチャーの齋藤がマウンドへ駆け寄る。
「今のは忘れましょう」
本当はボールを取り損なわずに済んでホッとしているのは内緒です。
「えっ? そうなんですか?」
地の文の暴露に蒼ざめる大橋です。
「ばれちゃいましたね。まあ、なるようになりますから」
開き直って笑顔全開の齋藤です。
続くバッターは井川に代わってサードに入った竹山。
大橋は半信半疑で投球を続ける。一球、二級とストライク。追い込んだ。けれど、齋藤は逸らしはしないもののボールをミットに収められずにポロポロしている。三球目竹山はバットを強振した。空振り。しかし、齋藤はボールを取り損ねて見失った。竹山はすかさず。一塁へ走った。振り逃げ成立。無死一塁。
「律子さん、やっぱりボクが戻りますよ」
「大丈夫よ。あと2回でしょう。点差もあるし。それよりこれ見て!」
律子はクーラーボックスから取り出した高級シャンパンを手に満面の笑みを浮かべた。
続く6番ファースト浦田の打席、一塁ランナーの竹山は齋藤がボールを取れないのを見越して盗塁。二球で三塁まで到達した。無死三塁。その間のボールカウント2-0。浦田は三球目をキャッチャー前へバント。
「三塁ランナーを牽制して一塁!」
大橋が指示を出す。ところが齋藤はボールを掴むとそのまま一塁に送球した。三塁ランナーの竹山はそれを見てホームに走る。しかも、齋藤が投げたボールが悪送球となってバッターランナーの浦田まで二塁に進んだ。
続く7番志田の初球。浦田は難なく三塁を陥れた。そこで齋藤が立ちあがった。
「タイム!」
斉藤はタイムを要求し、ベンチを見た。
「律子さん、監督が変われと言っています」
「えーっ! 誰かいないの? ほら、そこにもう一人居るじゃない」
律子が指した方を見ると、確かにひとり選手が居た。
「あれは…」
志田は二球目を三遊間へ引っ張った。それを見て三塁ランナーの浦田はホームへ突っ込む。ショート弥欷助は横っ飛びで打球を掴むとサードのまゆへトス。まゆが素早くバックホーム。難しいショートバウンドをすくい上げてランナーにタッチ。
「アウト!」
間一髪アウト。そして、送球の間に二塁を陥れようとするバッターランナーの志田を矢のような送球で刺した。これで二死走者なし。
「閉伊さん、ナイスプレイです」
その男、閉伊卓司。なろうファミリーの切り札として律子が投入した。
「おい! そんなのおかしいだろう! そいつとあのりきてっくすというやつは同じじゃねぇのか!」
言おうとしたことを先に井川に言われて不貞腐れる地の文です。
二死走者なし、続くバッターは8番中之島。中の島は大橋の初球を普通にセンター前ヒット。二死一塁。
「こら!」
自分のクレームを何事もなかったかのように話を進める作者にキレる井川です。
打順は9番今日子。サービス精神丸出しで大橋が投げた緩いボールが逆に全くタイミングが合わず、今日子は空振りの三振。スリーアウトチェンジ。
ベンチに戻ったナインを齋藤監督は拍手で迎えた。
「ところで、閉伊さん、今までどこに隠れていたんですか?」
閉伊に聞く。
「さっき、りったんのお腹の中から生まれたのさ。父親は…」
そこにお約束のロケットパンチ。
「さあ、突き放していきましょう。寛忠さん、頼みましたよ」
「了解です!」
見て見ぬふりをする齋藤監督と寛忠です。
 




