12.5回裏
なろうファミリーの攻撃は8番まゆから。
「もう、ばれちゃったからいいよね?」
ベンチを出るまゆが日下部に声を掛けた。日下部はウインクをしてまゆを見送った。
バッターボックスに立った魔法使いの女の子を好奇の目で見つめる名取です。
「魔女はどんなセッ○スをするんだろう」
そう思っているのは内緒です。タネウマの欲求はMAXです。
「思ってないし、最近は減退気味なんだよ!」
正直に心の声を代弁した地の文に切れて、誰も聞いていないことまでカミングアウトする名取です。
「あ…」
「グダグダしてないで早く投げなさいよ」
まゆの言葉で我に返った名取が第一球を投じた。ボールはど真ん中へ。それをまゆが打ちに行く。
「やられた!」
しかし、まゆの打球はボテボテのピッチャーゴロ。
「な~んだ。てっきり魔法でホームランにするのかと思ったよ」
名取がグラブを差し出すと、ボールはグラブをよけて名取の股間を抜けて行った。
「な! そっち系?」
バックアップのセカンド青田がボールを手にしたときには既にまゆは一塁ベースを掛け抜けていた。
続く9番の葵は手堅く送りバント。しかし打球が正直すぎた。ピッチャーの名取が素早く反応しセカンドベースカバーに入った中の島へ。理想的なダブルプレーかと思われた。
しかし、中の島がボールをキャッチしようとした瞬間、ボールはグラブをすり抜けるようにセンターへ抜けて行った。それを予測していたセンター小暮がバックアップしていたのだけれど、一塁、二塁オールセーフとなる。中の島は自分のグラブを見つめて首を傾げていた。
「おい! こんな試合があるか!」
酔いどれ軍団ベンチから井川が怒鳴る。
「部長さん、女の子だから許して」
二塁ベース上からまゆが投げキッスする。
「許す」
鼻の下を伸ばしてあっさり引き下がる井川です。
無死一・二塁で打順がトップに戻る。バッターボックスに1番呂彪が入る。今日、2安打と好調の呂彪は初球をバント。一塁線へ転がる。名取が打球を処理して一塁へ。一死二・三塁。
迎えるバッターは2番大橋。大橋は2-1からの4球目を左中間へ。三塁ランナーのまゆがホームイン。8-3。続いて二塁ランナーの葵も返って9-3。大橋は三塁へ達した。なろうファミリーベンチはお祭り騒ぎだ。
「これはもう楽勝ですね」
斉藤はチアガールに囲まれてご満悦だ。
「監督、こっちに来て一緒に飲もうよ」
律子が手招きする。
「い、いや…。私、お酒はちょっと…」
尻込みする齋藤の口に律子はどこから取り出したのかロートを差し込み焼酎の一升瓶を手に取った。
「これはお酒じゃないからね」
「そうなんですか」
引き攣った笑みを浮かべる齋藤に焼酎を一気に流し込んだ。
無死三塁。バッターは3番りきてっくす。千鳥足でバッターボックスへ向かう。初球、2球目と空振り。
「こりゃカモだな」
名取がそう言って投げた3球目、でたらめに振ったバットにボールが当たった。打球はふらふらと上がって行った。しかし、ショート中の島の頭上を越えてレフト前へポトリと落ちた。三塁ランナーの大橋がホームイン。10-3。しかし、バッターランナーのりきてっくすはまともに走れず、アウト。一死ランナーなし。
そして、律子に代わって4番に入った赤塚君。大量リードされて開き直った名取の前に敢え無く三振。二死ランナーなし。
「こらー! ○×※#$%△◇」
赤塚君を罵倒する律子は既にろれつが回っていない。
続く5番水無月が三遊間を抜いてレフト前。しかし、日下部はキャッチャーフライを打ち上げてチェンジ。日下部がベンチに戻ると、律子に捕まった。
「鉄人、試合はもういいから一緒に飲もうよ」
「そんなわけには…」
「そうしておやんなさい。代わりに私が出ますから」
赤ら顔の齋藤がキャッチャーミットを手に取った。




