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第15話 ネクロマンサー現る!

 俺たちの前にその姿を現した、ネクロマンサー(死霊使い)氏。

 声から察するに男。でも、ローブ(法衣)のフードを目深に被っているため顔は確認できない。


「術を用いてまで姿を隠していたのだがな。……いったいいつから私の存在に気づいていた?」

「最初からです。最初からあなたがそこに隠れていたことには気づいていましたよ」


 ウソです。

 かっこつけてそれっぽく言ったけど、大ウソです!


 冒険者は時にハッタリも大事、ってゴドジさんが言ってたからね。

 ここは盛大にハッタリをかまさせていただく。

 そんな理由から些細なウソをついてみたんだけど、その効果は全方位に向けて絶大だったようだ。


「わたくしでは気配を掴むことすらできませんでしたのに……さすがマサキさんですわぁ」


 仲間のドロシーさんからはお褒めのお言葉を頂戴し、


「私の隠形の術が冒険者風情に破られるとは……やってくれる」


 ネクロマンサー氏はネクロマンサー氏で、なんだかとても悔しそうなご様子。

 ならば乗るしかない。このビッグウェーブに。

 俺はネクロマンサー氏に不敵な笑みを向けたまま、どんと一歩前へ出る。


「あなたが使役するゾンビは俺たちがすべて倒しました。素直に降参してお縄についてくれませんか?」

「下級のゾンビを屠ったぐらいでずいぶんと調子に乗っているようだな? まさかとは思うが、この私を追い詰めたつもりでいるのか?」


「おーーっほっほっほ! 使役するアンデッドがいないネクロマンサーなんて怖くありませんわぁ。殿方の強がりは惨めでしてよぉ?」

「……女、私を愚弄するか?」

「あらぁ、そんなつもりはありませんわぁ。でもぉ……」


 ドロシーさんが口元を手で隠し、嘲るような視線をネクロマンサー氏に向ける。


「愚弄されたと感じたのならぁ、それは貴方の器が小さいからではないかしらぁ?」

「…………」


 ありゃ、ネクロマンサー氏が黙っちゃったぞ。

 ドロシー氏ったら、なかなかどきついツッコミするよね。

 もし言われたのが俺だったら、新橋のガード下で酔いつぶれるまで飲んでたかもしれない。


「おーーーっほっほっほ! どうしたのかしらぁ? 黙っていては認めているようなものですわよぉ。おーーーーーっほっほっほっほ!」


 ドロシーさんがたたみかけるようにネクロマンサー氏を挑発している。

 魔法の行使にはかなりの集中力が必要だから、ドロシーさんは挑発することでその集中を乱そうとしているんだ。

 …………たぶん。


「……女、殺す前に名を訊いておこうか?」


 ネクロマンサー氏が押し殺したような声で訊いてくる。

 殺意と怒りがごちゃ混ぜになった声だぞ。

 ドロシーさんの挑発が効き過ぎたんだ。


「あらぁ、普通は殿方から名乗るのが礼儀だと思うのだけどぉ、死者とお遊戯することしかできない貴方に礼を求めるのは酷なようですわねぇ」

「…………」


 ドロシーさんパねぇ。

 マジでパねぇ。


「まぁ、いいですわぁ。わたくしの名はドロシー・ロナ・チャイルド。栄えあるチャイルド家の長女にて、貴方を捕縛する者の名ですわぁ。覚えておきなさぁい」


 そうドロシーさんが名乗りをあげると、さっきまで恨み骨髄だったネクロマンサー氏の声音が、僅かに変わる。


「……ほう。チャイルド家の人間だったか。……くくく、それはいい」


 ネクロマンサー氏はそう笑うと、


「気が変わった。ここで殺すのやめだ。この場は退いてやろう」


 と言った。

 なんかずいぶんと上からな発言だけど、この状況で見逃せるはずがない。


「まさか、俺たちがこのまま黙って見送ってくれるなんて思ってませんよね?」

「くくく……当たり前だろう。だから――」


 ネクロマンサー氏が両手を空に掲げ、叫ぶ。


『生者を憎む魂よ! 我の命に従い召喚に応じよ!』


 一瞬だけネクロマンサーさんの掲げた両手から強い光が発せられ、


『あ゛……あ゛……あ゛……あ゛……』


『うううぅぅぅ……あうぅぅぅぅ……』


『ぽ……ぽ……ぽ……ぽぽぽぽ……』


 地面から、青白い半透明の霊体ちっくなものが無数に湧き出てきたじゃありませんか。


悪霊(レイス)をくれてやる。さあレイス共よ……あの者たちを喰らえ!」


 ネクロマンサー氏がそう命じると、無数のレイスたちが一斉に襲いかかってきた。


「マサキさんっ」

「さがってください。ここは俺が!」


 迫り来るレイスたち。

 俺はドロシーさんを背に庇い、


「出でよ聖盾!!」


 防御魔法できらきらと光る、円筒形をした光の盾を作成。

 呪詛をまき散らすレイスさんたちから身を守る。


『あ……あ゛……あぁぁあ゛あ゛……』


『ひぃうぅぅぅ…………ううぅぅうう……』


『ぽぽぽ……ぽっぽっぽ……ぽぽぽぽ………』


 俺の作った光の盾に、レイスが張りついてめっちゃ怖いぞ。


「くくく……レイス共から防御魔法で身を守ったことは褒めてやろう。せいぜい取り殺されぬように足掻くことだな」


 そう言うと、ネクロマンサー氏は回れ右して森の奥へと足を向けた。


「あ、こら待て! 逃げるなー!!」

「そうですわ! 戻りなさい! それでも男ですかっ!!」


 立ち去っていくネクロマンサー氏にブーイングを送るも、その足は止まらず、


「そう吠えるな。この程度で死ぬお前たちでもないだろう? 生きていればまた会うことになるさ。くくく……では、またな」


 ついには闇夜に紛れて姿が見えなくなってしまった。


「ちっくしょう。逃げられたか」

「マサキさん、いまはネクロマンサーのことよりも、目の前のレイスをどうにかした方が良さそうですわ」

「ですね」


 このまま聖盾を維持してても状況は変わらない。

 けっきょくのところ、倒すしかないのだ。


 俺は深呼吸し意識を集中。

 聖盾を維持しつつ、別の魔法を練り上げる。


「ドロシーさん、ムロンさんの剣を貸してください」

「わかりましたわ」


 語尾が伸びていないドロシーさんからブロードソードを拝借し、


「そーれ、エンチャント!」


 ターン・アンデットの魔法を付与する。

 ムロンさんのブロードソードが、一時的に破邪の魔法を帯びた魔法剣となる。


 レイスは実体がないモンスターなため、物理攻撃はほぼ通じない。

 攻撃魔法やターン・アンデッドのような神聖魔法、もしくは魔法を帯びた武器でなければダメージを与えられないのだ。


 そこで俺はブロードソードに魔法をエンチャント(付与)し、ドロシーさんでもレイスにダメージを与えられるようにしたわけだ。


「これでよしっと。ドロシーさん、その剣に魔法を付与しました。実体のないレイスも斬れるはずです」

「剣でレイスを……うふふ。本当にマサキさんの魔法は素晴らしいですわね」

「あはは、どもです」


 お褒めの言葉を頂戴し、ほっぺをポリポリ。

 すると、ドロシーさんがくすりと笑った。


「あら、照れなくていいですのに。マサキさんて、あんがい可愛いところがあるんですのね」

「やだなー、こんなおっさん捕まえて『可愛い』なんてやめてくださいよ。それに……可愛いのはドロシーさんのほうじゃないですか」

「っ……きゅ、急になにを言いますのっ。時と場所を考えてくださいましっ」


 ありゃ、ドロシーさんが顔を真っ赤にして怒ってしまった。

 日本じゃ「可愛い」もセクハラ発言に当たるから、またドロシーさんの地雷を踏んでしまったのかもしれない。


「す、すみません!」

「もうっ、それよりもいまは……」

「ええ、目の前のレイスに集中しましょうか」


 俺とドロシーさんは頷き合い、意識をレイスへと向ける。


「ドロシーさん、準備はいいですか?」

「いつでも」

「ならいきますよ。いち……にの……さん!」


 俺が聖楯を解くと同時にドロシーさんが駆け出す。


「やあぁぁ!」


 ブロードソードを一閃。


『あ……あ……あぁぁ……』


 霊体のレイスを斬り裂きゴーゴーヘブンする。

 次は俺の番。


「悪霊退散! 悪霊退散! ターン・アンデッド!!」


 俺の両手から寺生まれかと見紛うばかりの光が放たれ、怨念に塗れたレイスたちを浄化していく。


「逝ってしまいなさぁい!」

「去れ魍魎よ! 破ぁぁぁ!」


 ブロードソードの銀光が煌き、浄化の光が夜の森をうっすらと照らす。

 20分も経つと、すべてのレイスを倒し終えていた。


「お疲れ様ですドロシーさん」

「大したことはありませんわぁ。わたくしよりも何度も魔法を行使したマサキさんの方がお疲れではありませんのぉ?」

「心配してくれてありがとうございます。でも、魔力量は多いほうなんでまだ大丈夫ですよ」


 俺はドロシーさんに向けて力こぶを作ったポージングをしてみせる。

 魔法メインで闘ってたのに、すっごい脳筋な感じになっちゃったけど、ドロシーさんの反応は、


「まあ、あんなに魔法を使ったのにまだ元気だなんて……マサキさんの魔力は底なしですのねぇ」


 なかなかに上々だった。

 へへ、おっさんってば若い子にタフなとこ見せちゃったぜ。


「いやー、余力があるのはドロシーさんが一緒に戦ってくれたからですけどね。俺ひとりだったら、いまごろひーこら言ってましたよ」

「わたしくもマサキさんが支えてくれたからこそ、いまもこうして立っていられるのですわぁ」

「あはは、なんかこうして支え合う関係っていいですよね。『仲間』って感じがビンビンします」

「まったくですわぁ」


 俺とドロシーは顔を見合わせ笑いあう。

 お? 戦いを通じて友情が芽生えちゃった感じかな?


 キャンプ地では目を合わせてくれなかったドロシーさんが、いまは真っすぐに俺の目を見て笑ってくれている。

 

「さてっと……ネクロマンサーには逃げられちゃったみたいですね」

「ふんっ。逃げ足だけは速い殿方でしたわねぇ」

「なんかドロシーさんのご実家であるチャイルド家のことを知ってるっぽかったですけど、ドロシーさんは心あたりとかあったりします?」


 俺の質問にドロシーさんはしばし考え込み、首を横に振る。


「わたくしにはわかりませんわぁ」

「そうですか」

「わたくしたちチャイルド家は貴族。お爺様やお父様は領主として民に慕われておりますが、領民全てに慕われる領主など存在しませんし、他の貴族との駆け引きや派閥、権力争いなんかもありますわぁ」


「あー、なるほど。つまり、思い当たる事が多すぎて逆に『わからない』ってことなんですね?」

「ええ、マサキさんのおっしゃる通りですわぁ」

「わーお、それは大変ですね」


 一般ぴーぽーから羨まれるお貴族さまも、見えないところではしがらみだったり権力争いだったりと大変なんだな。


「さて、これからどうしましょうか?」

「そうですわねぇ……」


 時刻は真夜中。

 さすがにいまから追いかけるのはリスキーか。


「よし。ドロシーさん、一度キャンプ地まで戻りましょう。ムロンさんやみんなにネクロマンサーのことを伝えないとですし」

「わかりましたわぁ」


 こうして、俺たちはキャンプ地へと戻るのだった。

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