第14話 捜索
俺とドロシーさんは、風の精霊さんに受験生の方々の居場所を次々と教えてもらった。
森を進み、受験生を発見しては、
「試験は一時中断となりました。キャンプ地に戻ってください」
と伝え、すぐにまた別の受験生のもとへと走る。
受験生の中には信じてくれない(陥れようとしてるんじゃないかと警戒してた)ひとも何人かいたけど、「死霊使いがゾンビの群れを連れて森を移動しているみたいです」とお伝えしたところ、顔を真っ青にしてキャンプ地へ全力疾走していった次第だ。
俺が考えてる以上に、『死霊使い』の存在っておっかないみたいだな。
いままた、受験生の男女ペアがキャンプ地へと逃げ帰っていく。
その後ろ姿を見送ったあと、俺はドロシーさんに声をかける。
「ドロシーさん、いまので7人目でしたよね?」
「ええ。これで残りはあと3人になりましたわぁ」
「よーし。もう一踏ん張りしちゃいますか」
俺はほっぺたをパシパシ叩いて気合いを入れ直す。
あと3人。
俺は目をつむり、本日何度目かとなる風の精霊さんに呼びかける。
『風の精霊さん、風の精霊さん。いら――』
『呼ンダ?』
短時間でなんどもお呼びさせていただいたからか、風の精霊さんのレスポンスはめっちゃ早かった。
『呼びました! 何回も同じことを頼んで申し訳ないんですが、またこの森にいる人族の場所を教えてもらっていいですか?』
『イイヨ』
『ありがとうございます。では早速、ここから一番近い場所にいるひとはどちらにいますか?』
『アッチ。アッチニ三人イルヨ』
風の精霊さん曰く、残りの3名は同じ場所にいるとのこと。
昇級試験を受けるにあたって、俺とドロシーさんみたくパーティを組んだのかな。
『おー! 三人まとまってるなんてついてるぜ!』
『ヨカッタネ』
『風の精霊さん、教えてくれてありがとうございました。じゃー、ちょっと行ってきますね。アッチでいいんですよね?』
俺は右を指さし、確認する。
風の精霊さんはこくんと頷く。
『ソウダヨ。アッチ。デモ気ヲツケテ。良クナイ気配モ一緒ニイルカラ』
『……良くない気配? それってまさか……』
『死者ダヨ。死者ガ動イテルノ』
『やっぱり!』
『アレハ危険。行クナラ気ヲツケテネ』
『ご忠告感謝します! では、行きますね!』
『イッテラッシャイ』
風の精霊さんとの会話を終えた俺は、ドロシーさんに真剣と書いてマジと読む感じの顔を向ける。
「ドロシーさんっ!」
「は、はいっ」
俺の顔がマジすぎたせいか、ドロシーさんが軽く飛び上がる。
驚かせてごめんなさい。
「残りの受験生の場所を教えてもらいました。でもそこには……」
「……そこにはぁ?」
ドロシーさんが先を促してくる。
「ゾンビも一緒にいるみたいです」
「あらぁ、それは困りましたわねぇ」
「念のため確認です。ゾンビとの戦闘になる可能性がすっごく高いですけど……一緒に来てくれますか?」
ここで待っててください、なんて野暮なことは言わない。
なぜなら俺たちは『仲間』だからだ。
ドロシーさんはなぜか嬉しそうな顔をして、そこからきりりと表情を引き締め、優雅に頷く。
「もちろんですわぁ」
「ドロシーさんならそう言ってくれると思ってました。じゃあ行きましょう!」
「ええ。貴方となら何処までも」
俺とドロシーさんは森を進む。
風の精霊さんが示した先を目指して。
◇◆◇◆◇
森を走ること、10分ばかり。
前方から戦闘の音が聞こえてきた。
「さがれアウダ! ここは私が引き受ける!」
「なに言ってんだよラシード! お前こそ俺なんか置いてアフマドと一緒に逃げやがれ!」
「なりませんぞふたりとも! 逃げるなら3人いっしょですぞ! このアフマド、3人いっしょでなければここを動くつもりはありません!」
絶好調にゾンビしてるゾンビの群れに囲まれた、青年3人組。
押し寄せるゾンビの群れから逃れようとあがいてはいるみたいだけど、前後左右をゾンビに囲まれた状態ではそれもままならない。
「ヤバいな……。でもギリギリ間に合ったって感じか。ドロシーさん、」
「わたくしの準備は整ってましてよぉ」
隣のドロシーさんを見ると、ブロードソードを鞘から抜き、いつでも飛び出せるように下肢に力を溜めている。
獲物がレイピアではなくブロードソードなのには、ちゃんと理由がある。
刺突武器のレイピアではゾンビとの相性が悪く、ムロンさんが「これを持っていけ」と言って、ドロシーさんに自分のブロードソードを貸したのだ。
使えるか訊いてみたところ、ドロシーさんは剣術なら一通り修めているらしく、
「わたくしに扱えぬ剣などありませんわぁ」
とのことだった。
「初手から全力でいきましょう。まずはハイ・ブースト」
俺は小声で肉体強化の魔法を行使する。
まずはドロシーさんに、続いて俺自身に。
「死霊使いの姿は……」
「ここからでは見えませんわねぇ」
「ですねー。目がいい俺でも見つけられません。どっかに隠れてるのかもしれませんね」
「……警戒しないといけないようですわねぇ」
「はい。気をつけていきましょう。それじゃ……いきますよ?」
「ええ。よくってよぉ」
「なら――」
俺は右手をゾンビの群れに向ける。
囲いが薄く、受験生の3人に当たらない箇所に狙いを定め――
「フレイム・ランスッ!!」
炎の魔法を放った。
3メートルはある炎の槍がゾンビの群れに着弾し爆ぜる。
『ア……アア……ア―――……』
『ウゥゥ……』
「ア……ア……――――……』
土くれと一緒に舞い上がるゾンビさんたち。
その光景はなかなかにホラーだ。
「初弾命中! ドロシーさん! お願いします!」
「おーーーっほっほっほ!! 次はわたくしの番ですわぁっ」
木々の合間をすり抜けるようにしてドロシーさんが疾走する。
「お逝きなさぁい!」
ゾンビとのすれ違いざまブロードソードを一閃。
ぽーんと首が刎ね飛ばされる。
「ここは亡者がいていい場所じゃありませんわよぉっ」
続いてふたつ目がぽーん。
そんな感じでぽーんぽーんとゾンビさんのお首が刎ね飛び、囲まれていた受験生3人の後方に退路が作られていく。
「いまです! はやく逃げてください!」
俺が叫ぶと、アゴヒゲを生やしたガタイのいい青年が俺を見て目を輝かせた。
「助勢感謝する! アウダ、アフマド! 退くぞ!」
「ああ!」
「承知!」
俺の魔法とドロシーさんで作った退路を使い、受験生3人がゾンビの囲みから抜け出すことに大成功。
「あなたたちだけでキャンプ地まで戻れますか?」
「ああ、問題ない」
俺の問いにアゴヒゲの青年が頷く。
「よかった。ならこの場は俺たちに任せて、あなたたちはキャンプ地まで戻ってください。それとこれはおまけです。エリア・ヒール!」
範囲型の回復魔法を傷ついた3人にプレゼント。
ゾンビとの戦いで負ったであろう傷が、みるみると塞がっていく。
「すまない」
「いいえー。冒険者は助け合いですからお気になさらずに。それより早く!」
「ああ!」
アゴヒゲ青年は仲間と共に走り出そうとして――最後に一度だけ振り返る。
「私の名はラシードだ! 少年、君の名は?」
「しょうねん……ま、正樹です」
「そうか。君があの……。ではマサキ、次に会った時は酒を奢らせてくれ!」
「ぜひ!」
アゴヒゲ青年改め、ラシードさんたちはキャンプ地目指して走り去っていく。
童顔とはいえ『少年』扱いされるとは思わなかったけど、心はキッズのままだから間違いではないよね。
「さーて、俺もドロシーさんに続きますか」
ドロシーさんは、縦横無尽にブロードソードを振るい、ぽんぽんぽんぽん首を刎ね飛ばしている。
ハイ・ブーストの補助魔法がかかっているとはいえ、凄い剣の腕だ。
「いっくぞー。ここがお前たちの終着駅だぜ! ターン・アンデッド!! 破ぁぁぁっ!!」
アンデッドに絶大な効果がある、死人返しの魔法をゾンビたちに放つ。
キラキラと澄んだ光がゾンビたちに降り注ぎ、
『あ、あ、あ――――……』
『うぅぅぅうううぅぅ――――……』
『あ゛あ゛あ゛…………』
次々と崩れ落ちていく。
寺生まれプレイのはじまりだ。
「さすがですわぁ」
「なんのなんの、ドロシーさんこそ凄いですよ」
ドロシーさんがブロードソードをひと振りすれば、確実にゾンビが一体倒れ伏す。
素人目にもわかる、無駄が一切ない洗練された動きだ。
「おーっほっほっほ! おーーーっほっほっほっほ!!」
高笑いしながらゾンビを屠り続けるドロシーさん。
ハリウッドのゾンビ作品に出演できちゃいそうなぐらいノリノリだ。
そんな姿見せつけられちゃったら、ゾンビ好き勢としては負けてらんないよね。
俺は極めてかっちょいいポーズを取りながら、声高らかに叫ぶ。
「彷徨える亡者たちよ! ここにお前たちの安息の地などない! 本来あるべき……えと、いるべき……というか……そ、そうっ! 死者は死者の住まう世界に戻れと言うか、逝ったり来たりは推奨できないかも知れないしで……あー……つまり! 成仏せいやぁぁぁ!!」
どんなにかっちょいいポーズを取ってはいても、セリフを外してしまったらただの痛いひとでしかない。
俺は羞恥心から魔力を全開。
全力でターン・アンデッドの魔法を行使させていただいた。
『『『『『ア゛ーーーーーーァァア゛―ーーーーーあ゛ーーー――――……』』』』』
ゾンビが一気に昇天なう。
恥ずかしさから、ついついゾンビの群れをまるっと成仏させちゃったぜ。
「ふー。残ってるゾンビは……っと」
俺は周囲をキョロキョロ。
ドロシーさんも辺りを見回し、
「もういないようですわねぇ」
ゾンビが残っていないことを確認。
「ですね。それじゃ……」
俺は咳ばらいをひとつして、
「ネクロマンサーさん、そろそろ出てきたらどうです?」
あたりに響くよう声をあげた。
俺の隣では、ドロシーさんがすぐ動けるように身構える。
問いかけのお返事は、後方からだった。
「…………いつから私の存在に気づいていた?」
デンジャーな匂いがプンプンする魔法使いが、俺たちの前に姿を現したのだった。




