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第22話 信頼と失望

 アンディさんに、ヌイグルミ輸送の依頼を受ける、とお伝えしたところ、


「マサキさんなら依頼を受けてくれると信じていましたよっ!」


 大いに喜んでもらえた。

 なんでも俺が依頼を受けなかったら、アンディさんは自分が所属するシュタイナー商会専属の冒険者たちを呼ぶつもりだったそうだ。

 専属冒険者を呼び寄せた場合、報酬のことや商会内での立場など、いろいろとめんどくさいことになるので、できる限り商会には頼りたくなかったらしい。


「いやー、アンディさん、お待たせしちゃってすみませんでした。でも……待ってもらった時間は決してムダではありませんよ。むしろ、時間があったからこそ、完成したヌイグルミのなかから質の高い物を選ぶことができましたからね!」

「おおっ! 本当ですか!?」

「本当どえす!」


 孤児院のキッズたちが真剣に作り、一番上手にヌイグルミを作れるイベザラさんと、こっち(異世界)で最もヌイグルミにこだわりを持つリリアちゃんが選別したヌイグルミたちだ。

 きっと貴族の方々も気に入ってくれるに違いない。


「数は50個あります。足りますか?」

「そんなに……。じゅ、十分です! ありがとうございます!」

「よかったー。ヌイグルミの質はあとで確認してくださいね」

「分かりました!」


 アンディさんが鼻息荒く頷く。

 50個も準備できるとは思っていなかったのか、その顔は喜びに満ちている。


「続いて輸送についてなんですが……」

「わかっております。荷馬車の手配ですな? ちょうど商品の数に合わせて馬車を手配しようと考えていたところです。ヌイグルーミィが50個となると……ふむ。少なくとも荷馬車を一台は用意しないといけませんね。馬と飼葉に水桶と……。すぐに手配をしま――」

「おおっと、ちょっと待ってください」


 俺は駆けだそうとするアンディさんを呼び止め、その肩にポンと手を置く。


「アンディさん、安心してください。『荷馬車』は俺が手配しておきました」

「なんと!?」

「ふっふっふ、しかも勝手ながら『特別な馬車』を用意させてもらいました。まー、俺の私物なんですけどね。普通の馬車よりもずっと速く、そしてずっと安全にヌイグルミを運べる『特別な馬車』をっ!」

「馬車より速く安全……。そんな馬車をいったいどこで?」

「詳しくは言えませんけど、なんというか……古代遺跡的なとこから『ちょっと』、ね」

「……こ、古代遺跡」


 アンディさんが驚いた顔をし、言葉を失う。

 本当は横浜の中古車ディーラーから買ってきただけなんだけど、ここは含みを持たせることで車の神秘性を高めることにしておいた。

 こうしておけば自走する馬車(ヨロシク勇気号)を見ても、古代遺跡で手に入れたオーパーツ的な何かと勝手に解釈してくれることだろう。 


「そんでもって最後に護衛のメンバー(構成員)ですが、俺の他に腕利きの冒険者を3人揃えました。ドカンと大船に乗ったつもりでいてください!」

「おおっ! それは…………ん? マサキさん、その……いま『3人』、マサキさんの他に『3人』とおっしゃいましたか?」

「はい。そうおっしゃいましたよ」

「……いや、その、なんと申しましょうか……。商品の価値に対して護衛の人数がやや少ないような気が……。もう少し増やすことができれば……出来うることなら、あと5~6人は欲しいところですね。いかんせん積荷が高価なものですので……」


 やっぱ少なすぎたか。

 ロザミィさんから聞いた話だと、野盗とか山賊とかって、多いと数十人規模の団体さんで襲いかかってくるらしいからね。

 アンディさん的には、護衛が最低でも10人は欲しいとこなんだろう。


「どうですかマサキさん、……なんとかなりませんか?」


 護衛を増やした場合、当然ヨロシク勇気号の定員はオーバーしてしまう。

 そもそも4人乗りのところを無理やり5人乗せるんだ。

 ライラさんもロザミィさんもお尻が大きいから、シートに余裕なんてあるわけがない。


「アンディさん、」

「は、はい。なんでしょう?」

「アンディさんが心配するのは当然のことです。貴族の皆さまがお買い上げしてくれる商品ヌイグルミなんです。その価値は非常に高く、万が一があっちゃいけないですもんね」

「そうです! そうなんですよマサキさん!」


 アンディさんがぶんぶんと首を縦に振る。


「しかーし! だからこそなんです! より安全に! より迅速に商品を運ぶための少数精鋭なんです!」

「少数……精鋭……」

「はい。全員俺が厚く信頼している仲間たちです。それに小人数の方が運ぶ商品の秘密(・・)を守りやすいですからね。アンディさん、失礼を承知でお訊きますが、冒険者ギルドではなく、俺に直接依頼したのは情報の漏えいを防ぐ目的もあったんじゃないですか?」

「……気づいておりましたか」

「まー、ヌイグルミは値段が天井知らずみたいですからねー。荷馬車で金銀財宝を運ぶようなものです。その情報が漏れでもしたら……。ははは、あんま想像したくはないですね」


 異世界こっちじゃひとの命は軽い。めっちゃ軽い。

 衛兵さんが常駐している街から一歩でも外に出ると、自分の身は自分で護らなくてはならないのだ。

 そんなイカレタ世界へウェルカムな場所であるがゆえに、カネになる物を運んでいると知れたらヒャッハーな方々に狙われること間違いなし。

 だからこそ俺は信頼できる仲間のみで護衛依頼を受けたのだった。


「これは驚きました……。マサキさん、やはり貴方は商人に向いていらっしゃる。情報の大切さ。なにより頭の回転が物凄く早い。どうです、この仕事がひと段落ついたら商人になってみませんか? ハーディ商会に僕が推薦しておきますよ?」

「ははは、嬉しい申し出ですけど、俺は冒険者の方が向いてますんで遠慮しておきます」

「うーむ。フラれてしまいましたか。残念です」

「すみません。でも、俺が商人になりたくなったら、その時は相談に乗ってください」

「わかりました。マサキさんが心変わりする日を気長に待つとしましょう」

「はははー、待たなくってもいいですからね?」


 一度咳払いをしてから、きりりと表情を引きしめる。


「それで話の続きですが、ヌイグルミとアンディさんは俺たち4人で護ってみせます。そもそもさっき言った『特別な馬車』は5人しか乗れないんですよ」

「ふむ。なるほど……」

「どうですかアンディさん? 俺と、俺の仲間を信じてはもらえませんか?」


 俺はまっすぐにアンディさんを見つめる。

 アンディさんは目をつむって腕を組み、熟考へとはいった。

 やがて――


「わかりました。マサキさん、僕は貴方を信じます。僕が信頼しているマサキさんが信頼している方たちだ。僕も信頼しましょう!」


 アンディさんが握手を求めてきた。

 俺は差し出された手を両手で握り、


「ありがとうございます! きっと期待に応えてみせます!」


 ぶんぶんと上下に振るのだった。


 それからは早かった。

 アンディさんは一つひとつヌイグルミを手に取ってクオリティを確認し(全部合格だった)、丁寧に木箱に詰めていく。

 俺は出発日時をアンディさんと決め、それをロザミィさんたちに伝える。

 出発は次の土曜日。3日後の早朝だ。


 そして、ついに出発を迎えた朝。

 俺はヌイグルミを積んだカーゴトレーラーを引きつつ、アンディさんに護衛メンバーを大紹介。


「アンディさん、この3人が護衛を受けてくれた俺の大切な仲間たちです!」

「ロザミア・ルフィネースよ」

「……キエルと申します」

「ライラ・レキサだ」


 ロザミィさん、キエルさん、ライラさんの3人を紹介したところ、あれあれ? なんかアンディさんが無表情になったじゃありませんか。


「…………マサキさん、」

「はい、なんでしょう?」

「……お美しい女性ばかりですねぇ」

「え? ええ、そうですね。みんな美人さんです」

「はぁ……。はいはい、あー、なるほどなるほど。そういう事でしたか」

「へ? どーゆーことです?」

「いやいや、いいんですよ。マサキさんが『そういう方』だったと、僕が知らなかっただけですから」

「え? ええ!? いや、ちょっとアンディさん?」

「ささ、行きましょう」


 アンディさんが街の出口を目指してスタスタと歩き出す。

 俺はカーゴトレーラーを引きながら、


「ちょっ、ちょっと待って下さーい! アンディさーん? どーしました!? もしもーし!!」


 慌ててアンディさんを呼び止める。

 しかしその歩みは止まらない。

 なんでか知らないけど、どうやら俺はアンディさんの信頼をちょっとだけなくしちゃったみたいでした。

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