第23話 女の戦い
なぜかちょっとだけ冷たいアンディさん。
そんなアンディさんを温めようと、あれこれと話題を振ってはみたけれど、
「そんなことより先を急ぎましょうか」
とのお返事をちょうだいしてしまった。
なんだか急速に距離を感じるようになってしまったぞ。
足早に進むアンディさんを後ろから眺めながら俺は思う。
どうやらいつの間にか地雷を踏んでしまっていたようだぞ、と。
いったいいつ踏んでしまったんだろう? と。
「う~ん……。ぜんっぜん心当たりがないぞ」
思い当たる節がまるでない。
しかも、それだけではなく、
「ちょっとマサキ、これはいったいどうゆうことなのっ? なんでキエルがいるの? どうしてライラ姉さんまでいるのよっ!?」
これまたなぜかロザミィさんもご立腹している様子。
「説明を要求するわっ!」
同行者がキエルさんとライラさんという、ロザミィさんのお友達で固めたにも関わらずこの反応。
サプライズを仕掛けようと、当日まで秘密にしてたのがよくなかったのかもしれない。
「説明……ですか。ふむ、『実力もあって信頼できる冒険者』という条件で探してみたら、このお二人がピッタリだったんですよねー」
自称魔法戦士の俺、治療師のロザミィさん、精霊魔法と弓の使い手キエルさん、戦士のライラさん。
おお、かなりバランスの取れたパーティなんじゃないかな?
「ふふ、よろしくお願いしますねロザミィ。わたしにとっては初めての依頼になりますので、マサキさまとあなたから色々と学ばせてもらいます」
「キエル……」
「ロザミィ、あんたなに怒ってんのさ? ひょっとしてマサキを独り占めしたかったのかい?」
「ち、違うわよ! へ、へへへ、変なこと言わないでよねっ、ライラ姉さん!!」
「ならなんの問題もないね。数日とはいえアタイらは仲間なんだ。仲良くしようじゃないか」
「そうですよロザミィ。仲良くしましょうね」
「ううぅ~~~~~~~っ!!」
ライラさんとキエルさんにたしなめられ、ロザミィさんが鳴きそうな顔で地団太を踏む。
俺としてもぜひ仲良くしてもらいたい。
じゃないとヨロシク勇気号車内が微妙な空気になっちゃうもんね。
冷めた顔で進むアンディさん。
口を尖らせ、拗ねてるロザミィさん。
ニヤニヤとひとの悪い笑みを浮かべるライラさん。
なぜかずっと貼り付けたような微笑を浮かべるキエルさん。
そして、そんなみなさまに気を使いながらカーゴトレーラーを引く俺が街を出たのは、それから20分後のことだった。
「それでマサキさん、荷馬車はどちらに置かれているのですか?」
感情を押し殺したような声でアンディさんが訊いてくる。
心なしか視線も冷たいぞ。
「あ、ちょっとここで待っててください。いま『持ってきます』から」
そう言うと俺は街の城壁に向かってダッシュ。
アンディさんから見て死角に入ると同時に錦糸町へ転移する。
「鍵を持って、っと」
部屋からヨロシク勇気号のキーを持ち出し、駐車場に移動。
運転席に乗り込み、そのまま再度転移魔法を起動。
「お待たせしましたー」
ヨロシク勇気号に乗り颯爽と登場してみたところ、
「「「………………」」」
ロザミィさんを除く3名がすんげえビックリした顔をしていた。
「ま、マサキさん……。これが……これが古代遺跡から見つけたという、と、『特別な馬車』ですな?」
「はい。俺はこの乗り物を『車』と呼んでいます」
「くるぅま……」
さっきまでの冷たい態度はどこへやら。
何度も「くるぅま」と口にするアンディさん。
「これは……鉄かい? なんて加工技術だよ。いったいどんな鍛冶技術があったらこんなものを……」
ライラさんはヨロシク勇気号のボディをペタペタ触り、感嘆の声をあげている。
ごめんなさいライラさん。コレ、異世界で作られてないんです。
「マサキさま、この乗り物はいったいどのようにして動かしているのですか? この乗り物からは魔力も精霊力も感じないのですが……」
「いやー、俺もよく分からないんですよねー。だってほら、古代遺跡的なとこから見つけてきたマジックアイテムですんで……ね?」
我ながら苦しい言い訳だと思う。
ヨロシク勇気号に視線が釘付けになってる3人の後ろでは、ロザミィさんが「あちゃー」とばかりに手で顔を覆ってるし。
でも、俺が錦糸町からきた異世界人だと知らない3人は、俺の言葉を信じるしかなかったのだった。
「馬もなく走れる馬車とは……そんなものが……」
驚きっぱなしのアンディさんたちをよそに、俺はカーゴトレーラーをヨロシク勇気号に連結させる。
「これで準備は終わりました。そろそろ出発しようと思うんですけど、」
俺はそこでいったん区切り、みんなの顔を見る。
「座る席どうしましょう? 俺は運転席――そこの『車』を動かす席に座りますが、みなさんは後ろに3人と前にひとりで別れて座ってもらいたいんですよね。そんじゃ、まずは前の席、俺の隣は誰が――」
「「「「はいはいはいっ! はいっっっ!!!」」」」
「……わーお」
助手席は大人気だった。
「こ、この依頼を出したのは僕です! 前の席はこの僕が――」
「依頼人が前の目立つ席にいていいわけないでしょ! ここはあたしが前に座るわ」
「なにいってんのさロザミィ。あんたはヒーラーだろ? ヒーラーは後衛が基本さ。ここは戦士のアタイが前の席に座ろうじゃないか」
「ライラさん……でしたかしら?」
「……なんだいエルフのお嬢ちゃん?」
「うふふ、エルフは人族よりも眼がいいので、危険があればすぐに気づけます。ですからここはわたしが前に座り、周囲を警戒するのがいいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「ふふん。半人前がいっぱしの口をきくじゃないか」
「そうよキエル! あなたにはまだ早いわ。だからあたしが――」
「二度は言わないよ、ロザミィ」
「っ……。ね、姉さんだって現役を退いて長いじゃない。だから前の席はあたしこそ適任なのよ!」
「……言ったね」
「い、言ったわ!」
「待ってください! 依頼主として――」
「あんたは黙ってな!」
「あなたは黙ってて!」
ライラさんとロザミィさんの気迫に圧され、ちぢこまるアンディさん。
アンディさんファイト。
「ふたりとも争うのはやめましょう。ここは間をとってわたしがマサキさまの隣に座るということでいいじゃないですか」
「キエル! あなたなにしれっと言ってるのよ!」
「エルフの嬢ちゃん、知ってるかい? 寝言は寝てから言うものなんだよ?」
女性の戦いに終わりが見えない。
そりゃー、車乗るなら助手席のが広いし前が見えるしで楽しいもんね。
争奪戦になるのは当然だと思う。
「ならいいわ! 前の席に誰が座るかマサキに決めてもらいましょうよっ」
「いいね。ならマサキに決めてもらおうじゃないか」
「マサキさま、わたしですよね? エルフは目がいいから遠くまで見通せますよ」
「ぼ、僕が――」
「だからあんたは黙ってな!!」
「だからあなたは黙ってて!!」
「…………はい」
3人に詰め寄られた俺は、
「わーお」
と返すのが精いっぱいだった。
けっきょく、助手席は交替で座るという平和的解決をみたのだった。
あけましておめでとうございます




