82.着るものがほとんどないのですが
「ええ。よろしければ、ご一緒させていただきます」
皆様って、レイとダイアモンド様だよね。
お世話になりっぱなしの身でこんなこと言うのもなんだけど、あの二人、いいとこのお貴族様らしいのに、気さくだし言葉遣いも荒いし、気楽でいいや。
朝ごはん、なにかなぁ。
昨日からいただいているごはんは全部おいしかったし、期待できるかも。
異世界とはいえ、貴族のおうちでいただくごはんっておいしそうだよなぁ。
「そういえば、お洋服はこちらでいいでしょうか」
はたと思い当たって、メアリーさんに聞いてみる。
ヴィクトリアンな時代物の少女マンガや小説を読んでいると、貴族は朝昼晩と着替えていた気がする。
というかこのワンピース、ダイアモンド様が寝るときに着るものだし、パジャマみたいなものだよね?
ダイアモンド様にお借りしたものとはいえ、パジャマで朝ごはんの席につくのはあまりにも雑な気がする。
自宅だと日常茶飯事だけどね。ここは他人の家だし。
「この他というと、このワンピースしか持っていないのですが」
私は自分の持ってきたワンピースを取り出し、メアリーさんの前に広げる。
ワンピースは光沢のある黒い生地でできたシンプルな形のものだ。
膝丈までのAラインで、スカートの裾の上から同色のレースが縫い付けられている他には、飾りもない。
だけどカッティングが秀逸で、おまけにストレッチ素材でできているため、窮屈でなく体のラインを綺麗に出してくれて、お気に入りなんだ。
ダイアモンド様みたいなほっそりした体型じゃないけど、私は私でそれなりにゴージャスな自分の体が気に入っている。
はっきりいって、センスのなさをごまかすのにも使えるしね。
このワンピースはストレッチ素材だからぎゅうぎゅうに折っても皺にならないし、パジャマ代わりにも使えるし、ちょっとしたレストランにも対応できるので、かなりお気に入り。
とはいえ、こっちの世界の基準がわからないからなー。
メアリーさんの着ているメイド服は膝丈のワンピースだし、そうおかしい代物じゃないと思うんだけど…。
メアリーさんは私のワンピースをそっと手にとり、丁寧に見て、うなずいた。
「不思議な素材でできていますね。ですがとても綺麗なワンピースですし、お食事の際にお召しになるのにふさわしいと思います。ただ朝ですので、お色が黒というのはあまりふさわしくないですが」
「ダメかなぁ?」
「いえ。ダイアモンド様から、美咲様のお召し物が少ないのは当方の手配が間に合わないからなので、どのようなお召し物をお召しでも構わないと伺っております。ですから今お召しのワンピースでも構わないのですが、そちらはダイアモンド様がお休みの際に身に着けられるものですし、こちらのほうがよろしいでしょう」
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