77.あまったれなのは性分なのですが
ダイアモンド様の笑顔は魅力的だけど、私の声はこわばる。
いやほんとさー、異世界で生きていこうなんて、そう簡単に思いきれないんだよね。
私はあまったれだもん。
日本国内でも、遠方で就職するとか、遠方の人と結婚するとかも考えられないってタイプの人間なんだよ。
実家から数時間以内で通えるところっていうのが、就職でも結婚でも、絶対条件なの。
そんな私に、異世界生活を送る覚悟なんて、きめられっこないっての。
だけど、現実としては、考えなくてはならないのかもしれない。
このまま元の世界に帰れないって可能性は、頭の中から消えはしない。
だけど、今はまだかんがえたくない。
せめて、今夜だけは。
ダイアモンド様も、深くは追及するつもりはないみたいだった。
「まぁねー。今はまだ可能性だけでいいから、考えといて。…強引って思われるだろうけどさ、レイがね、ほんと美咲さんのこと気に入っているからさぁ」
「それもダイアモンド様の買いかぶりですよ。レイは私のこと、多少は気に入ってくださっているかもしれませんが、結婚なんて考えられるほどじゃないでしょう。珍しいのと、頼りないので、放っておけないだけじゃないでしょうか」
レイは優しいからなぁ。
ある程度の好意はあるだろうって感じる。
それは私の想い過ごしじゃないはず。
だけど、それ以上は期待したくない。
だいたい結婚って、一足飛びすぎるよ!
だけどダイアモンド様はきっぱりと首を横に振った。
「それはないって」
「断言しちゃうのは、レイとダイアモンド様が双子だからですか?」
ダイアモンド様はレイの考えていることはわかるっておっしゃっていた。
そういう神秘的なことは信じるほうだ。
とはいえ、頭から信じられるほどおめでたくはない。
「それもあるけど、それだけじゃないよ。レイはさ、聖騎士だし、家もこんなだし、本人の能力もあるからねー。頼られることには慣れているんだよ。だけどさ、だからこそ他人にはあんまり肩入れしないんだよ」
「……そうなんですか?ずいぶん親切だなと思いましたけど?」
「だからそれが、美咲さんが特別だと思う理由なんだって!レイから、ざっくり二人の出会いについては聞いたけどさぁ。ふだんのレイなら、魔獣からは助けるだろうし、街までは連れてくると思うよ。だけど、家までは連れてこないよ。まして泊めるなんて、絶対しないって」
「それは、私が異世界の人間で、頼る宛がないからで……」
「だとしても、家に連れてきたりはしないって。まず相手に対して、男の一人暮らしのとこに連れて行くなんて悪いよなって考えるでしょ?今日は私が来ていたけど、そんなのレイは知らなかったんだし。で、邸の人間に対しても、身元の確かじゃない人間を泊めるなんて、危険を招くかもしれないから絶対にしないよ。普段のレイならね」
ダイアモンド様はひとつひとつ指折り数えながら、私につきつける。
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