75.かわいげのある性格ではありませんが
まぁそんなのも、私の勝手な矜持かもしれないけどね。
生き方や世界のあり方がぜんぜん違うんだもん。
すべてが自分の感性で測れるなんて思えない。
だけどごちゃごちゃ考えれば、身動き取れなくなっちゃうから、とりあえず自分が最前だと思えることをするまでだ。
だいじょうぶ。
元の世界でだって、他人の様子をうかがって行動することは上手じゃなかったじゃない?
ましてや異世界なら、失敗するのが当然のはず。
ダイアモンド様はひとくちふたくちとお茶を飲むと、カップをソーサーに置いた。
「レイは今夜はもうここへは来ないって」
「そうですか」
意味ありげな視線は、さらりとかわした。
ダイアモンド様は「んー」とうなって、唇をとがらせた。
「気にならないの?」
お行儀が悪い仕草が優雅に見える人って、ほんとに育ちがいいんだろうなぁ。
私じゃ、こうはいかない。
「もう夜も遅いですし…。レイには、今日たくさん予定外の時間をいただきました。きっとご予定があるんでしょう」
「ものわかりがいいんだね?」
「そうですか?」
ダイアモンド様は不満げに言うけど、私のものわかりがいいとかの問題なのかなぁ?
今日会ったばかりの人の家に泊めてもらうことになってさ、いろいろ便宜はかってもらってて、これ以上なにを要求しろっての。
まだ若い年齢の子なら許されるだろうけどさぁ、こちとらもうすぐ30歳だよ?
適当にふるまえなかったら、ヤバいっしょ。
んー、でも、私が20歳かそこらの年齢だったとしても、いまと同じようにふるまっただろうな。
不満とか不安はあっても、相手の家族にそれをあらわにするのは、私の性格的にないわー。
図々しすぎって感じがする。
でもここでちょっとリクエストにお答えするのも、社交ってものかな。
「……そうですね。ほんと言うと、レイにおやすみなさいって言いたかったですけど。でも無理を言って嫌われたくないからいい子にふるまっているのかもしれません」
しょんぼりと俯きがちになって言えば、ダイアモンド様はきらっきらの笑顔でうなずいた。
「だよねー!!ま、レイもほんとは美咲さんともっと一緒にいたかったみたいだよ。でも美咲さんも疲れているだろうし、夜遅いから男の自分が部屋にいるのも悪いって言ってたの。私も早々に引き揚げろって念を押されちゃった」
「あら」
「だから私も、美咲さんがごはんを食べたら、出ていくからね。ささ、食べて食べて」
「ありがとうございます。いただきます」
私はスープに手をつけた。
とろりとしたポタージュ状の緑色のスープは、ポロ葱のポタージュスープみたい。
優しい味だった。
「おいしいです」
読んでくださりありがとうございます。




