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終わり、そして――

「――おっと、エド君それはやり過ぎじゃないかな?」


「上級禁呪を使わせよって、貴様、あの小僧が死んでも構わないのか!」


「別にぃ、そこまで愛着ないし」


 近接格闘と魔法の勝負だが、意外にも互角にまで持ち込むことができていた。


天葬獄葬ヘブン・オア・ヘル――古くから起こっている天界と魔界の戦争の余波を持ち込む魔法、この場に呼べば大勢死ぬぞ!」


「安心して? 肉体を持つハクトは死ぬけど、私は死なない。君みたいな半端者は知らないけど」


「ふざけるな!!」


 エメリアは大ぶりのテレフォンパンチをかわし、まるで時間を稼ぐかのように逃げ回る。


「それで、君は唯一の友人をどうするつもりかな?」


「何ッ!?」


 見ればハクトは門を閉ざそうと身をもって、魔法陣の解呪に向かっている。


「待てハクト! その呪文は解呪不能だ!」


「ボクを見くびらないでくれ!」


 ハクトはエドワードと同様に、両手を組んで祈るような姿勢を取る。


 そして意識を天の魔法陣の方に集中させ、解呪を始める。


「――」


 しかし魔法陣から飛び出た光の衝撃波がハクトに襲い掛かる。


「チッ、あれでは間に合わん!」


「――おお深層よ、暗く深いあおよ、誘い招き入れよ。――章魚召喚オクトリオン!」


 突如現れた幾多の青い触手に光の衝撃波は阻まれ――


「――地の怒りが空へと届き、風が上りて龍と成す。――地龍昇雷アースライザー!」


 大電流を纏った怒りの龍が、空の魔法陣を破壊し始める。


「――全く、ワタシ達の練習に割り込まれては困るのですが」


「何やなんや、覗き見に来たんはええけど、えらいけったいなことになっとるやないけ」


「四賀さん!? ……一体どういう事だ!」


 次の練習組であるテオドール、住良木のペアと、敵の視察に来ていた先崎が現れる。


「こらマズイなぁ。柊子ちゃんとサラちゃんに連絡とっとかへんとあかんなぁ」


 この状況であろうと慌てる事無く携帯を取り出し、二人に連絡を取る。


「――ああもしもし。今どえらい魔力がぶつかっとんの分かるやろ? 生徒避難させといてー」


 淡々と伝え終えると、先崎は学長の援護に入る。


「学長さん、僕が援護するんで、解呪に専念しといてください」


「ダメだ、これは危険すぎる!」


 しかし先崎は引く様子が無く、学長の方を振り向いて笑顔を見せる。


「……僕はね、学長さんの様な、強いだけじゃなく優しい魔導師に憧れ取ったんですわ。だから僕はその目標の為に、引くことができないんです」


「……やれやれ、今年の生徒会は、どうも問題児が多いようだな」


「それってワタシも含まれます?」


 テオドールはエメリアに向かって拡散する氷塊を撃ちながらも笑顔で応対する。


「テオドール先輩、待ってください! あの子は私の――」


「ご友人と、分かっております。ですからあまり殺傷力の高いものは使えませんね」


「フフ、敵になっても友達か」


 その言葉の意味を、住良木はよく理解ができなかった。


「あれは確かにパーソンの肉体だが、中身は別だ」


「一体どういう事です?」


「エメリア=クレイドルという霊体だけの存在が入り込んでいる!」


「霊体!?」


 教科書でしかもたことが無い存在、霊体ゴースト。それが四賀に入り込んでいるのだという。


「……正しくは霊体に似た別物だがな」


「どっちであろうと、私は私の友達を助ける! ――火炎壁ファイアウォール!」


 巨大な炎の壁が、住良木の前に立ちはだかる。


「……初級呪文とは、この私を舐めるな!」


 強大な炎の剣が壁を断ち切り、住良木へと襲い掛かる。


「なっ――」


「オラァ!」


 コーエンはその身をもって、剣を受け止めようとする。


 ぎりぎりの所で刃を白刃どりをして何とか持ちこたえて見せるが――


「剣なんざ何本でも出せるんだよぉ!」


「……やっと本性でも出てきたのか? 口調が荒くなっているぞ!」


 剣をへし折り捨て去ると、コーエンは次々と飛びくる剣をよけ急接近する。


「俺はただこの六百年間を無意味に過ごしていたわけでは無いからな……!」


「どうせ筋トレしていたとかでしょ?」


「はたしてそれだけかな……?」


 コーエンは自身を縛る縛鎖を伸ばし、エメリアごと自信を捕縛し始める。


「一体何を――」


「それを知るには、俺達は長く生き過ぎている――」




「――それにしても、けったいな事やなぁ。あっちはあっちで大変そうやし」


 へらへらとしていながらも先崎はそのけったいな呪文を防いでいた。


 白と黒とコントラストが、先崎の目の前で留まっている。


「これ暴風鳴慟ストームコールの亜種みたいなもんやね」


 手先から血をたらしながらも先崎はそれをくい止める。


「正しくは、この魔法の亜種が暴風鳴慟ストームコールだ」


 ハクトは先崎の様子にそわそわしながらも必死で解呪に専念する。


「まあさっきよりかはだいぶまし思うてます。さっきなんか手がもげると思ってましたもん」


「それはよかった。地道に解呪はできている様だ」


 しかしぐずぐずしていられない。先崎の多重防護陣マルチプルヴェントはすでに十枚ほど破られている。


「三十枚貼っとったんのもう十枚割られとんの? 学長さんあとどのくらいかかるん?」


「五割がた終えたところだ……!」


「やったらもうちょっと気張らんとあかんなあ……!」


 エドワードその虚ろな目ではひたすらに魔力を供給し続けている。


「あかん、会長はん死んでまうで……」


「分かっている……!」


 先ほど言われた通り、魔力とは生命力そのもの、使い続ければ死につながる。


「……」


 それを知ってか知らずか、エドワードは更に魔力を膨大に供給し始める。


「……アカンで会長、それいじょうやっとったら、死んでまうやないかぁ!」


 なんと先崎は防護陣を盾に前進を始めた。


「何をする気――」


「一発会長はんを殴っとかんと、気がすまんのや……!」


 次々と割られる防護陣を前にしても、先崎は臆することなく突き進む。


「……くっ」


 ハクトは解析を進め、解呪のスピードを更に速くした。


「……なあ、会長はん」


 一歩一歩しっかりと踏みしめ、先崎はエドワードへとにじり寄る。


「あんさん言ってたよなぁ、闇に呑まれたらアカンて」


 虚ろな瞳に、先崎は問いかける。


 二人の距離は縮まって行き、先崎は左手で防護陣を支え、右手の握り拳をしっかりと握る。


「……そう言えば、サラちゃんがキレとったでぇ……」


「――こんなアホ女に、好きな人が操られとんのがな!!」


 先崎は拳を振り絞り、エドワードの右頬を強く打ちのめした。


「――ガハァ!?」


 エドワードが派手に吹き飛ばされると共に、展開していた魔法陣が破壊される。


「……なんや、学長さんの解呪もちょうどおわっとんのかいな」


「フフ、気つけの一発は届いたかい?」


「……あぁー、届いたぜ……」


 エドワードは左目を抑えつつ、立ち上がる。


「……サラの奴、俺のこと嫌っている訳じゃねぇのな」


「……なんやそれ、会長はん鈍すぎや」


「若い衆の恋バナなど後ですればいいだろう。今からコーエンの援護に――」


 そこでハクトは、二人が縛鎖に包まれているのを目にしてしまった。


「――コーエン! 一体どうするつもりなんだい!?」




「……俺が今まで無意味に筋トレをしていたとでも?」


「チッ、離れろよ!」


 罵声を浴びせられるが無視をして、コーエンは縛鎖に縛られた右腕を伸ばし、四賀の体内からエメリアを引きずり出す。


「……捕まえた!」


「貴様……どうするつもりだ!」


 四賀の肉体を放り投げると、テオドールがそれを受け止める。


「……俺達は生命力の塊だといったな?」


「そうだ。生命力が漏れ出さない様、不可視の縛鎖で体を縛るのがこの魔法だ」


「だったらその縛鎖を、一時的に開放するとしよう」


 コーエンの肉体から鎖が離れ落ちると、コーエンの肉体は予想通り瓦解を始める。


「フはは、自滅でもする気か!?」


「違うな……貴様も一緒に死ぬのだ!」


 今度はエメリアの服の中に隠していた鎖を、コーエンは引き剥がし始める。


「やめろ! 何をする気だ!」


「俺も、お前も、滅ぶ時が来たのだ……」


「死ぬのなら、一人で死ねよ!」


「クハハ、ならばもっと死期を早めるとしよう!」


 コーエンは溢れんばかりの魔力を持って、魔法陣を形成し始める。


「――我は否定する。存在を、生を。我は否定する。その魂を!」


「ッ!? やめろ! その呪文は――」


 積層式の立体魔法陣が、二人を包み始める。


「コーエン! その魔法は駄目だ! あの本にも書いてあっただろう!? その魔法は――」


 ――存在そのものを消し去る魔法だ!


「我は否定し糾弾する! そのものの全てを!! 我は否定し要求する!! そのものの死を!!! ――死ノ刻印シギル・オブ・デス!!!」


 ――積層魔法陣が、自ら崩壊を始める。魔法陣内の全ての物質を、完全に消滅させている。


「クソッ、ならば――」


「もう諦めろ。全ては終わりだ――」


 ――貴様も、俺も。






「――今日は新入生が来るのが楽しみですね!」


 四賀なつき――月陽学院会長となった彼女の日課は、先代会長から受け継いだ箒を使っての校門前掃除であった。


「エドさんみたいに、私もフレンドリーな挨拶ができるかなぁ?」


 魔法で創られたイデア器官は、今でも彼女の中で活動している。そしてあの時からまっとうな努力家として日々鍛錬を積んだ彼女は、得意属性も変わって光属性となっていた。


「さてさて、一番乗りは誰かなー?」


 まるで昔の自分が、橋の向こうからやってきそうな、そんな気がした。


 すると――


「――その理論はおかしい。イデア器官の基礎論理がまたひっくり返るではないか」


「だーかーらぁ、基礎論理の構築自体独学でやっていたのだから、間違いもあって同然でしょうが」


「……えぇーと、いきなりハイレベルな後輩が来ましたね……」


 四賀の目に映るのは、幼い男女二人が最近できた魔法力学について熱弁を振るっているところであった。


「――おぉっと、貴様か」


「やあやあ、あれからどうだったかい?」


「貴様が体を乗っ取らなければどうも無かっただろうが」


「引き剥がすのも中々荒療治だと思うけど?」


「そもそも貴様が未完成の転生呪文を唱えなければ良かったのだ!」


「うるっさいなぁ、君も助かってんだしいいじゃん」


 何やら向こうはこっちのことを知っているらしく、四賀はその会話の内容に混乱している。


「えぇーと、私達何か接点ありましたっけ?」


「あぁ? やはりパーソンは馬鹿のようだな。記憶力の無さに唖然とするわ」


「違うよ。唯思い出せないだけであって、人間の記憶領域は――」


「あーもうご高説はいらん。そうだな――」




 ――アダム=J=コーエンとでも言えば、貴様の頭でも思い出すか?




これで完結です。思えば最初はおっさんが戦う話を書きたいというところから始まったもので、思い付きからここまで来るのに苦労しました。またおっさん主人公ネタで書くことが思い付けば、書くかもしれないですね。ここまでご覧になっていただきありがとうございました。

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