歪み
――『闇の一派』、メンバー募集中! 光属性以外ならだれでもOK! 歓迎します!(魔法省によって回収された違法広告より)
放たれた稲光は街を真っ白に染め上げ、そこに闇を存在させるのを否定するかのように攻撃的な光を目に届ける。
そしてその瞬間、地鳴りと雷鳴が響き渡り、下層部を暗雲が覆う。
もちろんその様子は生徒会の二人にも、コーエン達にも届いていた。
「……あいつあんな魔法を隠してやがったのか」
「彼があんな魔法を撃つとは、想像もできないですよ」
上を見上げる生徒会二人にとって、その魔法は先崎の隠れた実力を知らされることとなった。
普段の彼はふざけた様子であり常に女性の事しか考えておらず、決闘大会においてもあのような大掛かりな上級呪文を撃ったことは無い。ゆえに今回の事は、下手すれば生徒会内部の実力が入れ替わる事にもなるのだ。
「……正直言わせていただきますと、あの魔法が撃てるのならば会長と張り合えるのでは?」
「確かになぁ。俺以外にも大規模な魔法を撃てる奴が学校にいるとは思わなかったからな。今回の件については、本人に直接聞いとかねぇとな」
生徒を避難させた後、二人は雷鳴が未だ鳴り響く天井の雲を見てそう思うのだった。
「――おいおい、貴様の生徒はこんなにも強いのか?」
「……ボクも正直ビックリ。だってそういう子には見え無かったもん」
雷鳴が響く町の一角、天を仰ぐように暗雲を見つめるコーエン以上にハクトの方が驚いていた。
ハクトの目から見る先崎は常にその場を明るくするような人物であって、決してこのような攻撃的な存在ではないはずだった。
「あの子がどうしてこんな上級呪文を……」
「俺としては、興味の対象が増えてうれしい限りだけどな」
コーエンの言葉をよそにして、ハクトは悩んでいた。何故先崎があのような魔法を撃ったのか。単なる偵察部隊であるならここまでのことはせずに済むはず。
更に言えば、心優しい彼があのような暴力的魔法を唱えられるとは思えない。
「……もしかして、ドラウグルスが何か――」
「ゲヒャヒャヒャ、わしはなーんもしてはおらんぞ」
ハクトが振り向いた先に、この結果にご満悦といった表情のドラウグルスが居た。
そこには先崎に見せた焦りの表情は消え、代わりに何か嬉しいことがあったのであろうか、下卑た笑みを浮かべている。
「……老体が、何の用だ」
ハクトはまとう空気を一変させて仕事モードに入る。そしてそれと同時に今まで見過ごしてきた賞金首に敵意の目を向ける。
「ゲヒャヒャ、今まで出てこなかった貴様に用があってな」
「そうか。私も今ちょうどお前に用事ができたところだ」
ハクトは目の前の敵を見据えると、杖も何も構える事無く両手に炎を携え始める。
「……一つ聞くが、お前が先崎に何かしたのか?」
ハクトの問いに対し、目の前の老体はしゃがれ声で笑い、答えを返す。
「いいや、何もしておらんぞ。ただ闇に仕えるわしに、この下層部で一番長い間向き合っているのは間違いなくあの小僧だからなぁ」
「……そういう事か」
ハクトはそこから何かを察すると、興味故に手を出そうとするコーエンを制し、自らが直々に対峙する。
「今までは生徒会のいい練習相手として野放しにしてきたが、いい加減図に乗り過ぎたようだな」
ハクトは両手の炎を振りかざし、戦闘態勢を取る。
「ゲヒャヒャヒャ、三賢人が相手とは、わしも本気を出さんとな……!」
老体は闇に包まれ、禁じられた言葉を綴りだす。
「――魂よ、その命の灯火を再び燃え上がらせろ」
「むっ、お前まさか――」
もう遅いと言わんばかりに、しわの拠った唇が上へと上がる。
「――魂昂体現!」
肉体は再び蘇り、魂は再び燃え上がる。白髪は黒へと染まり、しわがれていた声に潤いが戻る。しかしその瞳に宿る邪悪さは、一切変わることは無い。
「フハハハハ! 闇が満ち満ちてくるわ!!」
――そして、砕滅のドラウグルスは全盛期の姿となって下層部に降り立った。
「フハハハハ、久方ぶりよ、この姿は!」
ドラウグルスは三賢人を前にしても臆することなく自慢げに振る舞う。コーエンはその姿を見て、そして目の前で行われた禁呪を見て目を輝かせた。
しかしハクトはそれを良しとはしない。
「……コーエン、禁呪だからね」
「分かっている。守護縛鎖には及ばないとはいえ、優れた呪文だ」
「だから、それ以前に禁呪だからダメだって!」
まるで子供を叱るかのごとくハクトが言う。そしてその様子を見て滑稽に思えたのか、ドラウグルスは一人笑う。
「フハハハ! その男の言う通り、禁呪などという言葉に縛られるなど我ら『闇の一派』の中では鼻で笑われるわ!」
「しかし、だ」
コーエンはそれに付け加える様に、自らの行く手をさえぎろうとするハクトの前に立ってこう付け足す。
「その程度の禁呪、既に俺は解析済みだ」
「一体どういう事だ!?」
「コーエン、まさかキミ――」
それは敵のみならず、ハクトすらも驚かせた。守護縛鎖だけでなく、他の禁呪も使ったとなるならば、余罪で今度こそ本当に外に出すことができなくなる。
「安心しろハクト。俺はあんな下等な禁呪など使っていない」
コーエンのその言葉は、ドラウグルスにとって侮辱の言葉に値する。
「貴様ァ! 我を侮辱するかァ!」
怒りに任せ、ドラウグルスは攻撃用の呪文を唱えだす。
「フハハハハ! 消え去れい!」
ドラウグルスは詠唱をしない。ただ目の前の敵を殺すための呪文の名を叫ぶだけだ。
「――擂輪縛撃!!」
大杖に、闇のリングが纏われる。リングには重力により様々な方向から力が加えられており、敵を捕縛しすり潰すようできている。
「……これが何か、貴様ほどの勉強屋なら分かるよなぁ!」
「ああ、知っているさ」
「――ならば、大人しくくたばるがよいわ!」
リングはまっすぐに、コーエンの首を捉えに掛かる。しかしそれをコーエンは自らの右腕を犠牲にしてリングを捉える。
「フハハハハ! その腕もらったぁ!」
腕に纏わりついた重力の輪は、文字通り腕を引きちぎろうとうねりを上げ始める。
「コーエン!」
ハクトの声が響くなか、コーエンは何ともないといった表情で右腕の輪を睨む。
そして――
「フン!」
その場の誰もが目を疑った。魔法を、右腕に力をこめるだけで打ち消す存在がいる事に。
「な、何じゃと――」
「この程度で、俺の体に傷をつけられると思ったか若造が!!」
大男は吠える。そして同時に、その体に巻きついている白い鎖が実体化し始める。
「こ、これは――」
コーエンは笑みを浮かべ、ハクトに向かってこう述べる。
「――貴様にも教えてやろう。俺の改良型守護縛鎖の力を!」




