問題行動
「どうしてあの場であんなことしたんですかっ!?」
次の教室へと続く廊下に、四賀の怒鳴り声が響き渡る。後ろ歩きでコーエンを問い詰める四賀だが、当の本人は何が悪いと言わんばかりに言い返す。
「俺はただ気になったから訊いてみただけだ」
「あの場で急に立ち上がるなんて、空気が読めてないじゃないですか!」
「そんなの俺の知ったことではない」
「むぅー!」
「……しかしよく気づかれましたね。私はてっきり砕いたのが細やかすぎて消えたかのように思えたのだが――」
「俺は魔力の流れがほかの人間より分かる。それだけだ」
まるでそれすらも分からない能無しだと遠回りに言う様な発言に対し、住良木はムッとしつつもそれ以上は訊かなかった。確かに空間の魔力を把握するなど、個人の体質も関係しているからだ。そんな中後ろの自称最強がコーエンに話しかけてくる。
「なぁなぁおっさん、俺様にも解呪教えてくれよ?」
「……無理だ」
「何でだよぉ!?」
「言ったはずだ。相手の術式を理解できないと解呪は不可だと。貴様らに今教えるなど無駄も同然」
「くそっ!」
「じゃあ、この学校で三年生になって、魔法をいっぱい覚えたら教えてくれます!?」
四賀が目の前で立ち止まり、先ほどとはまた変わってキラキラとした目を向けてくるのを見て、コーエンは少し対応に困った。
「……それは分からん」
「えぇー、お願いしますよっ!」
「私も、その時はご教授願う」
住良木が便乗して頭を下げるのを見て、コーエンは渋々条件を付けて約束を交わす。
「……俺が教えるに値すると判断できる実力をつけられたら理論を教えてやる」
「あ、ありがとうございますっ!」
「おっさん、俺様も絶っ対ぇ強くなるならよ! そのとき教えろよな!」
「うちも教えてもらおっかな」
続々と教えを乞う子供たちにコーエンは半ばヤケクソになりながらもその場を鎮めるために約束を交わす。
「チッ……分かった分かった! 後ろのコソコソしてる奴もどうせそうなんだろ?」
「え!? ……僕は……その……」
「いいじゃないですか、教えてもらいましょうよ!」
「う、うん……」
五人がコーエンをよそにはしゃいでいると、前方から上級生と思われる男が三人現れる。
「……お前がコーエンとかいう男か」
「……俺がどうかしたか」
先頭に立っている裏で悪そうな事をしているような上級生は、歓迎ムードという訳ではなく明らかに敵意をもって接してくるのが分かる。
「俺達も『勇敢なる翼竜』なんだけどよ……困るんだよね、新入生がでしゃばってもらっちゃあ」
手元にもっている杖の先からは、赤々とした炎が、まるで威嚇するかのように燃え上がっている。
「さらに言えばあんたみたいなふざけた格好のおっさんに舐められちゃあ、俺たち上級生としての立場が無いんだよなあ……」
「フン……解呪程度も知らない奴が、この俺に何の用だ?」
一触即発なその場の空気で、挑発するかのような言葉を並べてコーエンに待っているものは一つ。
「筋肉がありゃ魔法が使える訳じゃねぇんだぞおっさん! ――発火焦!」
弾ける炎がコーエンに襲い掛かる。四方から飛びこみにかかる――が、もちろんコーエンはそれを落ち着いて解呪する。
「下級呪文など無駄だといったはずだ」
「俺が何の対策も打たずに来てると思っているのはさっすがに馬鹿過ぎんじゃないのおっさんよぉ!」
もう一人はすでにコーエンの懐まで潜り込んでいた。その右手を赤く輝かせ、炎を上げる。
「無駄な筋肉つけるよか付呪の方が数倍強いって知ってるか?」
炎を挙げたボディーブローがコーエンの腹筋に突き刺さる。炎はコーエンの身体を貫き、後ろへと弾けるが――
「!? か、かてぇ!?」
コーエンの方は全くダメージを受けておらず、ぴんぴんとしていた。そして無様に懐に飛び込んできた男に対して手をパキパキと鳴らす。
「ちょ、ちょっと待――」
「――こぉのバァカがぁ!!」
大きく振りかぶりボディーブローを返すと、男の息は一瞬止まり体をくの字に曲げてしまう。足は離れ地面と水平に飛び、先ほど発火焦を撃った少年の方へと飛んで行く。
「おい! こっちに――」
男を巻き込んで一つのかたまりとなり、それでも地面に沈むことは無い。およそ二十メートルほどの距離を殴り飛ばされ、地面に沈んだまま動かなくなってしまった。
「……おい」
「ひ、ひぃぃ!」
残った一人はコーエンから目をつけられると、転がるようにしてその場を去っていった。
「全く……少しは体を鍛えてこい」
「い、今のって――」
「あぁ? 魔法なんざ使ってねぇぞ」
まるで何もなかったかのようにして、コーエンは再び歩き出す。
魔法を使わずにあれほどの威力のパンチを撃つこの男に対し、四賀はその肉体は張りぼてではないことを改めて感じた。そして同時にこう思った。
この人を怒らせたらやばい、と――




