守護縛鎖
おっさん主人公の趣味で書いたものです。駄文であるかもございませんがどうぞお付き合いいただけるとうれしいです。
「――防護陣!!」
翡翠に輝く魔法陣を携え、少年は火中を走る。街は赤く染まり、家は崩れ落ち新たな火を生み出す。遠くでは大きな城が焼け落ち、音を立てて瓦解していく。黒煙を紅に染め上げている上空では、蠅に近い巨大な何かが編隊を組んで少年を追い回す。
そのうち一匹の蠅が、蜂の飛ぶような独特の言葉をつづり、その口に赤い魔法陣を展開する。そして魔法陣から炎の渦を呼び出すと、少年に火のあられを浴びせる。
「くっ!」
少年の行く先に火柱が立ち昇る。びっくりした少年は足を止めると、その火柱から魔物が姿を現す。魔物は一斉に襲い掛かるが、少年の携えていた魔法陣がその攻撃をことごとく打ち破る。
「邪魔しないでよ!」
中性的な顔立ちをした少年はその瞳をまっすぐ前へ向け、とある目標地点を目指して必死で突き進む。
少年が身に着けているのはどこの学校の制服だろうか――既に焼け焦げた跡がついてぼろぼろとなっており、左胸についていた校章がほどけおちる。
必死で走りぬく少年の目に映るは、既に焼け落ち半壊している誰かの家。
「――結氷膚!!」
自らの皮膚を超低温の膜で覆い、焼け落ちた建物の中を突き進んでいく。走る少年のすぐ後ろから建物は崩れ始め、もはや戻ることなどできない。
しかし少年は足を止めない――止めることはできない。
その目標を果たすまでは。
「――ウソでしょ……」
やっとのことで街の端まで辿りついた少年の前にあったのは、黒曜石でできた大きな壁。それが縦横どこまでも広がり、少年の行く手を立ち塞ぐ。
「探したぞ!」
その声は少年を追い詰めるわけでもなく、少年を問い詰めるわけでもなかった。
振り返った先に立っているのは少年と同じ校章をつけた、おおよそ同年代と思われる少女が一人。炎が生み出す上昇気流になびく髪の色は、周りの赤に反するような群青色。その悲しげな瞳は満身創痍となった少年の姿を映し出す。
「諦めろ! これ以上は逃げられない! 魔装師がすぐ来ている! これ以上は無駄だ!」
少女は訴えた。自身のためではない、少年を思ってのことだった。
しかし少年は諦めない。少女に背を向け、その右手を手刀の形へと変える。
「――裁断!」
手刀は青白く光り輝き、行く手を阻む壁を断たんと暴れまわる。しかし壁はただ打ち鳴らす音を聞かせるだけで、逆に少年の右手からは血がしたたり落ちる。
「もう、駄目か……」
右手から血を流し、少年はその場に力なくへたり込む。少女は少年の元へと、ゆっくり歩み寄る。
――もはや、ここまでなのか。
「さあ、私とともに大人しくついて来れば委員会にも――」
少年はただ座り込んでいたわけではなかった。その口元は小さく動き、ある呪文の詠唱をしている。
「――絶えず絶えず魂の憑代となりて、我が身を縛鎖し加護を与えたまえ――」
「!? 止めろコーエン! その呪文は――」
――少女の悲痛な叫びが空に響き――
「――お前を呪い殺してしまう!!」
少年がその呪文を唱え終える。
「――守護縛鎖!」
突如――少年の肉体は清らかな白き光に包まれ、その肉体はもはや不要とはじけ飛ぶ。
代わりに現れたのは辺りを温かく照らし出す命の結晶。呪文を唱えた少年がその身を変え、結晶と化し顕在する。そしてその結晶を守るかのように天から鎖が伸び、結晶に纏わりつき離れない。
呪文は完成してしまった。もはや誰も、彼を責めることも、かばうことも許されない。
「――コーエン……」
結晶は、その身に鎖を纏いて佇んでいた。少女はその場にへたり込み、少年を救えなかったことに絶望する。悲しみに包まれたその頬を、一筋の涙が流れおちる。
しばらくすると空中を散開していた蠅共も、空から降りてその肉体を人の形へと変化させていく。
「……こうなってはどうしようもない」
蠅のうちの一人――魔装師のうちの一人が呟く。この状態となっては誰も手が出せない。誰も彼を傷つけることなど出来はしない。
「このまま懲罰委員会に引き渡すしかない」
「でもそれではコーエンが――」
魔装師は少女の肩に手を置き、首を横へと振る。
「彼は呪縛にとらわれてしまった。自らが生み出した、『不老不死』という名の呪縛に――」




