12 ゼイタクはステキ! お湯をいくら使っても怒られないなんて!
「別に見ててもいいのに……」
常連客だったんだから、アタシのみすぼらしい裸なんて見慣れているはずなのに。
見慣れているどころか、何度も全身をなめまわしたくせに。
でも……こういう風に扱われてると、ますます大切にされている気がして……
ドキドキしてしまう。
ドキドキしたキモチのまま、箱からそっと服を出して、ベッドの上に並べる。
5着のワンピース。あと、こちらもまたかわいらしい上下の下着が5組。
「わぁ……」
改めて見ると、どれもこれもとってもかわいい。
、
「ど、どれがいいとか急に言われても……」
手に取ったり、なでてみたり、かざしてみたり。
透けない生地で出来てる(当たり前だよね)
縫製もすごく丁寧で、しかも何か仕掛けがあるのか、裾が簡単にはまくれない。
どれもかわいい。そして、どれもがアタシのものだという。
全部着たい!
アタシは迷った。
今までの人生で、何かを選ぶ、なんていうゼイタクは初体験。
しかも、自分の好みで何かを選んでいいなんて……。
ああ、ほんとうにゼイタク。
でも、あんまり彼を待たせるわけにもいかない。
この青いワンピースにしよう。
青空のような青。
あの壺みたいな……彼はあの壺が大好きだから。
アタシは、裸になって服を着ようとして……自分の汚れっぷりに改めて気付かされた。
きれいでお上品な部屋の中だと、ガリガリでやせっぽちのカラダは、ひどく小汚い。
オスたちに何日間もおもちゃにされて、身体も洗わせてもらえなかったんだから当然だけど……。
こんなにきれいでかわいい服を、このまんま着るのは、なんか服にも悪いよね……。
アタシは、彼が引っ込んだ扉に向かって、
「あのっ! 身体をきれいにしたいから……お湯を浴びてもいい? 待たせちゃうけど……」
扉の向こうで何かが、ひっくりかえったりする音がした。
「どうかしたの?」
「いや、その、ボクは今夜はそういうつっつもりじゃ!」
「!」
そ、そうだよね。失念してた。
男と女がふたりきりで、しかもアタシは娼婦で、
なんでもさせて、なんて言ってしまってて。
そんな女が、お湯を浴びるって言ったら……。
「キミはもう娼婦じゃ――」
「ち、ちがうの! あ、アタシ、すっかり汚れてるから服を着替える前に体を綺麗にしたほうがいいから、それだけだから!」
「そ、そうだよな。はは……ごめん。変なこと考えて」
「え、うん、そんなことない」
アタシまで恥ずかしくなってしまう。
何百人ものオスを相手に体で必死に稼ぐ商売をしてたのに。
体中、見られていないところも汚されていないところもないのに。
こんなことで恥ずかしがるなんて……。
いつもより念入りに体を洗った。
彼以外の男の痕跡を、ぜんぶ流してしまいたかった。
今さら無理だと分かっていても、そうしたかった。
残り湯じゃないお湯を、こんなにいっぱい使わせてもらえたのも初めてだった。
それに石鹸! 置いてあるんだから使っていいんだよね?
石鹸のカスを固めたんじゃない石鹸……すごいゼイタク。
「うわぁ。すごい……」
きれいな泡立ち……こんないい石鹸つかったことない!
しかも、こんなにいっぱい使っても、誰にも怒られない……。
いくら洗っても、まだ洗い足りない気がしたけど、これ以上はもうムリ!
大きな鏡に自分の裸を映して見ると、おっぱいや太ももやお尻を乱暴に掴まれた時につけられたアザの痕は消えてなかった。
当然、ガリガリでやせっぽちのままだ。生傷だってそのまんま。
それでも、お湯であたためられた肌は、いつもより血色が良くて、つやつやしていたし、汚れてくすんでいた黒髪も生気を取り戻している。
それに、鏡の中のアタシは、とてもしあわせそうに見えた。
青いワンピースを着たアタシを見て、彼は立ち尽くしていた。
「に、似合わないかな……? こんないい服を着たことなくて……」
彼は、慌てたように勢いよく頭を振って、
「あ、いや、すごく似合ってる……見惚れた」
「み、見惚れたとか、そ、そんな……」
今度はアタシが恥ずかしがる番だった。
服は、脱がされるためのものだったから「さっさと脱げ」的なこと以外、言われたことなかったから。
恥ずかしくてうれしくて、身の置き所がなくて。
ああ、浮かれてるなって思って、それがますます恥ずかしくて。
ごまかすように話題を変える。
「さっきから見てたけど、こういうところに泊まるの慣れてるんだ」
「舐められないように、高級な部屋で商談したりするからね」
「金持ちだったんだ……」
骨董商で、いいホテルに泊まるのに慣れている。きっと上客がいるんだろう。
アタシが考えていたよりも、彼はお金持ちなのかも。
少なくとも裏通りで細々とやっていたしがない骨董商じゃなさそう。
そんなひとを。アタシの人生に巻き込んでしまった。
本当にいいのだろうか……。
「いいモノを取引するには、それなりの資金が手元に必要だからね……日常はつましいものさ」
「そ、そうなんだ……それなら、あちこちでセッタイとかで綺麗な女の子と――」
お客をもてなすのに、そういうところへ連れていくというのは良くあるから。
「しないよ。ボクはあの娼館以外行ったことがないんだ。アレだって、父が調度品を納入したからつきあいがあっただけだ」
きっぱり言い切られると。
胸が苦しいのに、うれしい。
「じゃ、じゃあ服を贈ったのも……」
「キミが、はじめてだよ……め、迷惑だったかな」
アタシは、ぶんぶんと首を振った。
「そ、そんなことない! すごく、うれしかった、です!」
「よかった……」
「で、でも、アタシにはそんなにお金を使わなくてもいいんだよ。すごく迷惑をかけるかもだから……」
娼館への借金。
それを思い出すと、また胸が塞がってしまいそうだ。
ほとんどの借金は、ママに押し付けられたもので、アタシが作ったわけじゃないけれど、
それでも……。
アタシに沢山借金があると知ったら……。
「借金のことは心配しなくていい」
「え……」
「全部払った。キミはどこへ行くのも自由だ」
「え、だけど、どこから、どうやって……? もしかして……やっぱり大金持ちだったの?」
「あの壺を売った」
「!」
青空の壺。
彼が愛でているはずの壺。
アタシが、なりたかったあの壺。




