(4)
ほら、やっぱり『お仲間』なんてウソ。まともな子なんて、ひとりもいないじゃない。おかしくて笑えてくる。あーあ、……あーあ! ほんと。
「くっだらない……っ!」
とんだ友情ごっこ。みんなみんな嘘ばっか。
つぎからつぎへと笑いがこみあげてきて、こんなときだってのに、いつまでたっても収まらない。周りの状況も目に入らずに、ずいぶん笑っていた気がするけど、傷一つ負わなかったのは、ゲーデが勝手にどうにかしたんだろう。
強き者からの庇護を、あたり前のものとして甘受する。ずいぶんとまぁ、贅沢な弱者だ。ちらり、と見上げた先で、ゲーデは退屈そうに欠伸をかみ殺していた。
「行くのか?」
欠伸まじりにゲーデが聞く。
「行かせる気があるの?」
「さて。あれの言う『元の世界』とやらに、さほど未練を持っているようには見えんが」
「元の、世界……ね」
ミヅキ――じゃなかった、“ミツキちゃん”が言っていた言葉を、くりかえす。私の世界。私がいた世界。ここじゃない場所。
――帰れるとしたら?
手のなかには、鈍く存在を主張する重い鍵。
――私は、どうする?
「マリア」
奪われたもの。私が失くしたもの。
思い出せない。思いつかない。
とりもどしたい?
とりもどしたら、どうなるの。
「マリア=ヴィスコー」
私はなにも持ってない。
「お前は、どうしたい?」
握りしめた鍵が、手のひらに食い込む。錆びに覆われた金属のざらざらとした質感を、確かめるように、ぐっと力を込めていく。
……私は。
「連れて、いって」
紫に燃える虹彩を、キッと睨みあげる。自分ひとりじゃなにもできない。こうして、戦闘の渦中に立ちどまることですら、できない。私は無力だ。もし、私にステータスなんてものが存在しているんなら、きっと悪運ひとつに極振りされていることだろう。
ゲーデに気に入られたこと、それ自体が私の力だっていうのなら、思う存分ふりかざしてやろうじゃないか。
死ぬのは怖いし死にたくない。そんな私が推定最強戦力――というよりも完全にオーバーキルな反則技、子供の喧嘩に核兵器持ちだすようなものだ――握っちゃってるなんて、まじめに戦ってる人たちから見たら、ふざけんじゃねーよ、って感じだろう。でもね、お生憎様。そこで『みんなのために』なんて考えないのが私なの。
滅んじゃえばいい。
壊れちゃえばいい。
ぜんぶぜんぶ。
死んでほしいなんて思わないけど、勝手にくたばればいい。しょせん、他人だもの。この世界のなにもかも、私にとっては味方になんてなりえない。
『ミツキちゃん』が欲しがったもの、たぶん私なら手に入れられる。ゲーデは、よくもわるくも興味がないから交渉に応じない。簡単にできることでも叶えない。ヒナ校長になにかを奪われたひとたち、たぶんいっぱいいるんだろう。みんながみんな恨みを果たしにいったなら、鉢合わせするかもね。
共闘する?
――冗談じゃない。
「邪魔されたくないの」
私は、私だけのために、この特権をふりかざすと決めた。
「連れていって。だれにも邪魔されずに、だれにも巻き込まれずに、私に私のエゴを貫かせて」
いつか報いを受ける、その最期まで。
「さもなければいますぐ、舌噛み切って死んでやるわ」
実行する度胸もないくせにうそぶく臆病者を、紫色に燃えた瞳が興味深そうに嗤っていた。
*
鍵の使い道を知っているのか、ゲーデは迷いなく先を行ってしまう。
いつのまにか戦闘は小休止していた。学園はまだ本気を出していなかったそうだから、もう終わったのかもしれない。どうせなら、もっとがんばれよ、アハーンだかアパロンだかしらないどっかの襲撃者たち。
やれやれと息を吐いて、崩れおちた建物の残骸を避けながら――ついでにゲーデに向けて破片を蹴り飛ばして――進んでいく。幽鬼の白肌には、傷ひとつ残らない。
「ねぇ……。なんで、あんた、おとなしくヒナに捕まってたの」
どう考えたって、こっちが上位者。捕まっていたのが《不死人》なのか、ゲーデなのか、前後関係はしらないけど、どっちみち約束なんて破り放題だったろうに。
「お前の世界では、そう見えるのか?」
「……どういう意味?」
振り返りもせずにゲーデが答える。
「俺は俺の土地に眠っていただけだ」
「それって、あの『崖の下』のこと?」
「お前の世界では、そうなっているらしい」
「意味わかんない」
「お前の目に映る世界が、お前の世界のすべて。世界はひとつではない。みな異なる世界に生きている。異なる世界を知ることなく生きている。生きるとはかくも面倒なことだな」
めずらしく長々と語ったゲーデが、瓦礫を踏みしめながら振りかえった。彼の視線の先で、瓦礫の山に巨体をつぶされながら、死にきれずにもがいていた竜の頭が沈黙する。ゲーデがやったんだ、と直感する。鎌なんて振るう必要もなく、あっさりと命を刈り取った。言葉すらもなく。
「そりゃ……死を知らないあんたの感覚じゃね……」
わらいかけた膝をごまかすように、軽口をたたく。怖い? 冗談でしょ、いまさらすぎる。
「ほう。この俺を無知と呼ぶか? おもしろい。死を知らぬのはお前だろう、マリア。お前はなにも知らぬのだな」
ゲーデが嗤う。
しらない。なにもしらない。
私のこともゲーデのことも。
知った気になっていただけ。
《不死人》はわかった。《不死人》は死なない。再生しつづけるから死なない。細胞が死ぬよりも早いスピードで、再生しつづけるから死ねない。
じゃあ、《ゲーデ》は?
ロア。精霊。死神。
つまりそれってなんなの。つまりここってどこなの。
どくり、と心臓が鳴る。
「ひとつ教えてやろう。あれは我が霊域。はなから、あの女の土地ではない」
「え……?」
「生けるものたちに邪魔をされたくないという。ならば、あれほどふさわしい場も他にあるまい――」
「みつけた……死神……!」
可憐な声。
聞き覚えのあるような、ないような、クラスメイトの声。
瓦礫を踏み越えて、傷だらけの身体をかまうことなく、必死で駆けてくるのは。
「奈路愛……?」
双子の片割れだ。なぜか私を初日から敵視していて、……そうだ、あの日、崖から落ちたとき、たしか彼女が側にいた――どうして忘れてたんだろう――私は彼女に殺された。
「あなた死神なんでしょう。《永遠の交差点》の主なんでしょう。私を帰して! ここから逃がして! お願い。なんでもするわ。なんだって差し出すから! 私を生き返らせて――!」
奈路愛が叫ぶ。ぼうぜんと立ちすくむ私には目もくれずに、長い髪の毛を振り乱して、死神にすがる。
ゲーデは応えない。ただ、つまらないものを見るように、冷ややかに見下げるだけだ。
「だめよ」
答えたのは、私でも、ゲーデでも、もちろん奈路愛でもなかった。
「あなたごときで埋められはしないわ、愛さん。とうてい役不足だもの」
コツリ、と響くヒールの音。
「ゲーデ=ロア。生と死を分かつもの。死した魂の道先案内人。ありとあらゆる死者を見てきた、もっとも賢いもの――あまりくだらないことを願うもんじゃないわ」
くつり、と艶笑する、麗しの女校長。
「いらっしゃい。いいえ、お帰りなさい。ゲーデ。そして、死神に見初められし者」
どこからともなく現れたヒナを、奈路愛が凝視する。
「なんで、あなた……」
「役者が揃ったな」
ゲーデの瞳が紫に燃える。
ゆっくりと持ち上げられる青白い指先が、宙をなぞる。
私の手から離れた鍵が、中空に浮かび、こまかく振動して、砂のように崩れていく。
「では、場をあらためて、死人の会合といこう――」
背後から、鋭い衝撃が、身体をつらぬいた。
痛みはない。血すらも流れない。
ただ、寸分の狂いなく、胸の中心を貫いた、黒い影が――これ、鍵……?
「げほっ……」
ほら、嘘ばっかり。
だれもかれも嘘つき。
ほんとうのことなんてどこにもない。
ぐにゃりとゆがんで、『私の世界』が闇に堕ちた。
*
「死神……ちゃんと、還してよ」
「お前もくるか? 奈路恋矢」
「いかない。お姉ちゃんは還ってくるから」
「なぜ、そう思う?」
「還ってくるよ。だって、あんたのオキニイリと一緒だもん」
「俺が、あれらを別個にあつかうとは思わないのか?」
「ここにいるのが愛にとって苦痛なかぎり、かならずあんたは愛を還す……愛は無知なんだ……そんなところも可愛いけどね……死を望む人間に死を与え、生を望む人間に生を与えるほど、甘くないでしょ……死神」
「ふん……貴様に睨まれても、まったく興奮せんな」
「あいかわらず気持ちわるい嗜好だね。その《不死人》は僕らが大好きだったはずだけど」
「知らん。《不死人》は死したことがないゆえ、俺と面識がない。なかには百万回も訪れた好き者もいたが……ああ、お前も似たようなものだったな」
「……」
「忘れたか? どんな業を背負ってでも姉を返せと俺に縋ったのは、他でもないお前だろう。奈路恋矢」
「……対価は受けとったんだから、ちゃんと守ってよ、死神」
「口約束にも満たぬ戯れだ。拘束力はない――まさか、一度は死した人の身で、死神と対等に約定を交わしたとでも思っていたのか?」
「っ……待て、死神! ――ゲーデ!」
「傲慢なる人の子ごときが、我が名を穢すな」
「な……、ぐ、がはっ」
「俺はマリアを迎えにいかねばならぬ。しばらく、そうして苦しんでいろ――なに、一度や二度死んでも問題はない。すぐに送り還してやろう――」
*
ここは……?
真っ暗な部屋。黒一色の家具。ふにふにとした壁。なめらかな毛足の絨毯。
「『崖の下』……?」
ゲーデに会った、その場所と、そっくりおなじ空間が広がっている。おかしい。崖になんて立っていなかったのに。なんで。
「《永遠の交差点》よ」
「交差点? どこが!? こんなの、ただ暗いだけの部屋じゃない」
「あなたにはそう見えるのね」
あちらを見てみなさい、とヒナが示した先には、両肩を抱きしめて震える奈路愛の姿がある。壁際で、下がる動作をくりかえしながら、それでもその場から動けずに、ガクガクと震えている。
「いや……こないで……っ! 私は自由になるの。もういや、飼い殺されるのはいや! 近寄らないで……!」
異様な光景を、じっと見つめていると、とつぜん奈路愛の姿が消えた。……消えた? ちがう、壁が動いたんだ。窓の向こうで、奈路愛が絶叫する。こちら側には、聞こえない。それは『外』のできごと。――私には関係ない。
「あなたの心の形は、とてもハッキリしているわね。内と外。それしかない。……ほんとうにすばらしいわ、マリアさん」
ヒナはそういって、部屋の中心にある大きなベッドに腰かけた。黒く波打つシーツを、手のひらでなでる。
「ここは、死者の世よ。多くの人間には、神のもとへ向かう、長い旅路が見える。歩むべき道が見える。なかにはああして、強い念に縛られてしまう人もいるけれど。立ち止まった場所、そこが《永遠の交差点》――あなたにはそれが部屋に見えるのね。行きも帰りもない、閉ざされた空間に。ゲーデが気に入るわけだわ」
うっとりとした口ぶりで、ヒナが語る。
死者の世?
また死んだの?
それとも私、ずっと死んでたの?
「いいえ。あなたは一度も死んでない。二度殺されただけよ」
意味わかんない。それに、人それぞれにちがう景色が見えるっていうのなら、どうしてヒナは、私の見ているベッドに座っているの? はっきりと、シーツのシワを伸ばせるの?
「あなた……何者……?」
「私は死者でも生者でもないの。だから、この場所にはなにも見えない。私一人では、この『部屋』の鍵は正しく開かない。ほかの誰かの世界におじゃまするしかないのよ」
ヒナはそう言って、壁際に立ったままの私を手招いた。首を振って拒絶する。近寄りたくない。
ふにふにした壁に爪を立てると、スライムみたいにぐにょりと受け止められた。都合よく変質する、あいかわらずの謎物質。これもぜんぶ、私の生んだものだっていうの?
「聞きたいことが、あるの」
「なにかしら? ……そんなに睨まれると傷つくわね。私、あなたには、とってもよくしてあげたと思うのだけれど」
気を悪くした様子もなく、ヒナは肩を竦める。
思いだすのは、ミヅキちゃんじゃないミツキの言葉。
――奪われた、と彼女は言っていた。記憶を盗られた、と。彼女だけじゃない。いろんな子が、いろんなものを奪われてる。この女に。
だけど私には、欠けている自覚がまったくない。
ねぇ、それって、どういうことなの。
「ヒナ。――私からなにを奪ったの?」
「奪った? ふふ、まさか! あなたは私のお気に入りよ。奪ったりするわけないじゃない。私は与えただけ。なんにもない空っぽな『あなた』に、『マリア』をあげたの」
「空っぽ……?」
くつり、くつり、とヒナが嗤う。
「そうよ。マリアさん。マリア=ヴィスコー。『元の世界』に帰ることを切望して、学園を否定する女の子。ゲームを否定することで、ゲームであることを印象づけるための『キャラクター』。お招きした子達のなかでも、用意するのに、とびっきり手間がかかったの。そのぶんだけ愛着もあるわ。なんていったって、この世にふたつとない特別製だもの」
――ほら、やっぱり私は、なにも持ってない。
「そっか」
どっかで思ってた。そんなことだろうって、思ってた。
親身になってくれたのも、オアシスのように優しく接してくれたのも、ぜんぶ嘘。奈路愛に私を突き落とさせたのもヒナ。ゲーデと接触するように誘導した。余計な知識をつけないように、他の『客人』と接触しにくいようにした。学生のなかでは異物感を、浜屋さりみたいなイレギュラーには同族嫌悪を感じさせるようにしてまで。――ホントウノコトをひとりでに語りながら、ヒナは愉しげに哄笑した。
「あんた、ほんとサイッテーね。死ねばいいのに」
ああ、おかしい。
そこまでするんだ。自分のために。なんて女。
「私が死んだところで、プログラムがひとつ終わるだけよ。だって、ここはゲームの世界なの。バグだらけで狂った、二度と開かれない永遠の世界。永遠の世界で永遠の愛を受ける。すばらしい物語じゃない? そう思うでしょう、マリアさん」
「物語……?」
「私は私のために、すばらしい物語が欲しいのよ。まがいものじみた刹那的な愛なんていらない。『核』さえあれば世界は思いのまま。死神さえいれば生死すらも歪められる! どうだっていいの。どうなったっていいの。私は私の完成形が欲しいだけ! なにも失うものなんてないわ」
おかしくて、おかしくて、心のなかで笑いが止まらないのに、なんで、喉は震えないの?
笑いなさいよ。こんなおかしいことないじゃない。
くだらない茶番劇。
くだらない配役。
なにもかもぜんぶぜんぶぜんぶ!
「ゲーデ」
ぽつり、とつぶやくと、四方の壁が溶けていく。
「あんたにとっちゃ、ないも同然かもしれないけど」
どろりと広がる一面の闇のなかに、山高帽をかぶって、燕尾服を身につけた人影が浮かび上がる。顔は見えない。ただ、紫に燃える瞳だけが、克明に浮きあがってみえる。黒い影のような頭部に灯る一対の輝きは、髑髏にも似ていた。
生と死を分かつもの。死神ゲーデ=ロア。らしいじゃないの、いつになく。あんたも、そろそろ遊戯に飽きたってこと?
「私のすべてを対価にあげる。――あんたのぜんぶ、まるごと寄越しなさい」
かまわない。だって、そうでもしなきゃ、そうしてさえも、コレは手に入るものじゃない。
なにも持っていない空っぽの私が、ただひとつ手を伸ばすことを許されたもの。愛してなんかない。愛せるはずがない。すべて知っていたくせに、私の無知をあざ笑うように踊りつづけた悪趣味な死神を、憎む気持ちはあれど好ましくは思わない。
だけど、それしかないのだ。私には、他の選択は許されないのだ――。
ゆっくりと、慇懃に腰を折る、燕尾服をまとった闇の影。こちらを向いたゲーデの見えない顔が、ニィ――と不気味に笑んだように感じられた。
わずかに細まった紫の眼光が、そこで待っていろとでも言うように、するどく私を射抜く。全身が硬直する。動けない。予約中、ってやつ? 私は死神のものになると正式に決まったらしい。……いまさらか。
闇の向こうから、聞きなれた声だけが響いてくる。
「生き返りたいと、願ったな? 奈路愛。お前の生を望むものがたくさんいる。生かしてやろう」
「ほ、ほんとに……!?」
「ああ。お前の私欲によって、俺は、俺の知らぬ『無』を見つけた。支えなくして柔軟に立とうとする模造人形は、俺の知的好奇心を満たし、一方で強烈な渇きを覚えさせた……感謝しよう」
ぐちゃり、と嫌な音がした。
喜びに上ずっていた奈路愛の声が途絶える。
「馬鹿ね……」
ヒナが呟くと同時に、闇の奥から悲鳴があがった。
「ほんとうに使えない子……狂った弟の方が、まだ可愛げがあったわ」
必死の形相で暴れる奈路愛を、闇のなかで、まだ輪郭を感じさせるような、深い深い烏羽色の蔓が絡みとっていた。山高帽を目深にかぶったゲーデが、どこからともなく取りだした杖を、奈路愛の喉元に突きつける。
「そこの女ともども、弄んだ命の数だけ蘇り、弄んだ命の数だけ死ぬがいい――壊れかけた檻の中でな」
ゲーデが握る杖の石突が、奈路愛の喉を深々と貫いた瞬間、すべての闇が一斉に溶けだした。ヒナも、奈路愛も、みな沼のような闇に沈んでいく。
「マリア」
来い、と雄弁に語る紫の瞳を、鼻で笑う。
服従する気はさらさらないの。あんたも、それをお望みでしょう?
おとなしくなった私なんて、物言わぬ剥製にして飾るか、都合のいい器として使い捨てるか、ろくな末路じゃないだろう。
おとなしくならなくたって、ゲーデに飽きられればおなじことか。飽きられなかったとしても、こいつは私を黄泉路に送る気がないってよくわかった。ろくな末路じゃないのはおなじこと。八方塞がりで笑えてくる。このさい、なんだって笑えるわ。
闇の空間が閉じていく。私とゲーデだけを残して。
「私を縛りつけたいなら、そんな《不死人》捨てなさいよ。あんたが追ってこないなら、なんどだって死んでやるわ」
この私が、あげるって言ってんのよ? 受け取らないなんて許さない。中途半端に泳がされるくらいなら、私は『私』を差し出して、この死神を手に入れてやる。
「都度、連れ戻すのもやぶさかではないが――不死にも飽いたところだ。遠からず終わる世界のこと、空虚な小娘に巣食うのもわるくはない」
――ああもう、サイテー。こんな閉塞感が心地いいなんて、私も大概イかれてるわ。