【零次元】 ーー恒明ーー
……………………………………………………………………………………………………………う、う……ん。……ン?どこだ。……ここは。……………………カ、躯が言う事をきかない。……ハジメ、いねぇのか……?…………………
……ああ、死んだのか、オレ達……………………………………………………
混沌の中、意識だけが漂っているようだ。否、混沌ではなく、整然とした摂理そのものなのだろうか? ここは宇宙空間なのか? このままいつ果てるとも無く、永劫この無の世界を漂うのか? まぁ、それも悪くないかな……とも思う晴男。
緩慢な微睡みの中、晴男に誰かが声をかける。なにかを叫んでいるようだが、よく聞き取れない。
なんだよ、……まったき無の境涯ではなかったのか…………
……は……………………………………き…………………………………………
………なさい。…………やく……お………………さい。…………
……は…………く…………きて………………
声の主は女か。
凛としたブレのない、荘厳さと暖かさを併せ持った、強い意志の力を感じ取る事が出来る。……ひょっとして、……お母さん……?…………
晴男は勇気を出して声を発してみた。
「(お願い、あと5分…………)」
「早く起きろ! このブタ野郎‼」
「(‼ ひっ! はいい!)」
他のメンバーも一様に生命維持装置と思しきカプセルのなかで蚕の繭のように見た事の無い繊維でグルグル巻きにされていた。
恍惚の微睡みの中できいた美声の持ち主は、そのイメージ通り、果てしない美形に包まれた強固なる信念を漲らせる、女神と呼ぶに相応しい人物であった。
腰まであるブロンドはまるで上質のシルク。端正なマスクの中でひときわ魅せられるのは、心の隅々まで見透かされそうな、深き輝きを湛えたエメラルドグリーンの瞳。
晴男は己の半生を振り返り、記憶している限りの『いとをかしきもの』が束になっても敵わない、完全バランスを具現化したかの如き肢体に、唯々阿呆のように見とれるほかなかった。
「気分はいかがですか。みなさん」
女は、堂々とした威厳を漲らせながらも、慈愛に満ちた眼差しで四人を気遣う。
「(何処のどなたか存じませぬが……助けて頂き感謝します……)」
あの状況から四人を救出出来る程の人物だ。ただ者ではない事は明白。
晴男達はとにかく現状を把握したかった。
それを察したように女は語り始めた。
「わたしの名はリュミエール。そして此処はわたしの宇宙船〝ディアマンテ号〟のICUブース。あなた方のあの原始的な宇宙船はもう使い物にならない状態だったので、ディアマンテ号の〝ハイパー異次元砲〟で原子に還しておきました。
「(なんか、スゲー軽薄なネーミング……)」
「なにか? 南晴男さん」
「(い、いえ! 独り言ッス。スンマセン)」
「どうやらあなた方は、GO次元の宇宙より、この零次元宇宙に繋がるワームホールに導かれたようですね。あなた方を回収するついでに、ろくな武力も持たないか弱きホシに流星爆撃などという卑劣で愚劣な行為に興じる下衆な糞艦隊は無間地獄に叩き落としておきました。……只、あなた方の元居た次元に戻る術は今のところ有りません」
「(ああ……、えっと、リュミエールさん。ちょっと待って下さい。おっしゃる意味がよく理解出来ないっつーか、GO次元とか、零次元とか……それにカラダが……カラダにもの凄く違和感が、つーか、感覚がないっつか…………)」
「南晴男さん、あなた方のいた宇宙ではタキオン素粒子のエントロピーを平滑に維持、且つ亦、能率的に構築する概念すら確立されていなかったようですね。あなた方は今、魂の力のみで、壊れて変性し変態してしまったカラダに執着しているだけ……。その精神力自体見上げたモノですが……」
「(……では、ゾンビみたいなモンですか? 我々……)」
「ゾンビはヒトの形を成しています。今のあなた方は見るも無惨な肉塊です。紙一重で魂と肉塊が繋がっているだけです。南晴男さん」
「(ほぼ不成仏霊ってコトじゃん!)」
「Go次元ではそういう事になるのでしょうか……紙一重で」
「(……治るんでしょうかね? 我々……)」
「南晴男さん、あなた方の意志が燃え盛る青春の炎のように強く清き希望に満ち溢れているのならば、きっとこのディアマンテ号も応えてくれことでしょう」
「(青春てとこらへんに甚だ自信がもてねぇんスけど……)」
「(大丈夫だ、晴男。俺達の暑苦しいまでに熱い魂は並じゃねぇ!)」
西園寺は心の中で吠えた。そして北大路も、
「(……一度ならず二度までも救われた命。今度は他が為に使わねば死んでも死に切れん……)」
「(おおぉ。北大路さん、〝生きて〟いらっしゃいましたか! 皆さん、頑張って復活しましょう!)」
公右衛門も活性が高まる。
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……命の限界を超え、刃の切っ先に至るような祈りの極みに、彼らは再び肉体を帯びんが為、風前の灯を、ディアマンテ号と謎の美女リュミエールに託したのであった。そう、母の子宮に眠る胎児のように…… ……
……斜に構えた白い髑髏を染め抜いた、深紫色の旗を翻し無限に広がる暗黒の宇宙を独り、愛機ディアマンテ号と共に命の灯火が消えるまで旅を続ける無法の女に命を救われてからどれくらい経ったのだろう。
とにもかくにもこうして、辛くも生き延びた彼等は、再度、志に向かい一歩を踏み出せる可能性を得た。
命有る限り可能性は捨てない。
その鋼鉄の意思有る限り、夢は実現する! そんな彼等の熱い希望を、この船は支持してくれたのだろう。………… …… ……




