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行方知れずの例のアレ4


「那由になに言われた?」


 盆をローテーブルに置き、疾風は茜の隣に腰を下ろす。ベッドの上と床で座っていた最初と違い、距離が近い。

 ごくり、と唾を飲み込んで、おそるおそる口を開いた。なによりも好奇心が勝ってしまった。


「……ペン」

「は?」

「……私がふざけてあげた、ペン」


 初めて那由が茜たちの教室を訪れた時、疾風に忘れ物だと差し出したのは、去年の疾風の誕生日にあげたペンだったらしい。覚え間違いでなければ、那由は「あんなに大事な物だって吹聴してたのに」と言っていたはずだ。それは、要するに。


「今も、持っててくれてるの?」


 聞かれていることがどういうことなのか、理解した瞬間に疾風は心の中で那由を言葉の限りなじった。

 疾風が隠すように持っていたのに気づいた那由が強引に理由を聞き出して、それ以降那由に対していろいろとぶちまけていた。疾風にとっては誰にも知られたくなかったその事実を、あろうことか一番知られたくない茜にバラされ知られている。

 那由の残した含み笑いの意味に、疾風の顔は一気に熱を持ち、反して顔は険しくなった。


「疾風?」


 不本意な経緯ではあったものの、ようやく彼氏彼女らしい距離で接することができるようになった茜がほんのり頬を染めて上目遣いに疾風の応えを待っている。勝ち負けでもなく、茜が意図的にそうしているわけでもない。でも疾風はその様子に陥落した。

 首も耳も赤くして、ベッドの脇に落としていた自分の鞄を引き寄せると荒い手つきで中からペンケースを取り出して茜に向かって軽く放り投げた。


「中」

「中?」


 茜は促されてペンケースのチャックを開ける。

 余計なものは一切入れないとばかりに細くシンプルな革のケースの中に、一本だけ違和感たっぷりに派手なアメリカン柄のペンが入っていた。ノック部分に緑色のにっこり顔がついたペンは、間違いなく過去に茜が渡したものだ。


「これ……」

「好きなやつに貰ったもん、捨てるわけねぇだろ」


 そっぽを向いたままの疾風は頭をガシガシと搔きながら、でもしっかりと告げた。

 最初ぽかんとしていた茜は、ゆっくりと疾風の言葉を噛み締める。そうして彼の腕にそっと手を触れた。


「……疾風」

「なんだよっ! 文句でもあるのかよ!?」

「ありがとう。大好き」


 いつになく素直に思ったことが口から出た。けれどそれは確かに伝えたかった言葉。何度だって伝えて、伝えてほしい言葉。

 幸せそうにはにかんだ茜の肩に額を軽くぶつけた疾風がなにを思ったのかは、彼にしかわからない。



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