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スイーツ好きとなった悪役令息は天命をつかみ取る  作者: C@CO
最終章 ゲーム■シナリオ「誰のため」

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第68話 天命をつかみ取るには

「どうして宿命から逃げられるのか、と聞いたな」


 将典は窓際から席に戻ると、一馬に言う。


「逃げるのではない。誰かに定められるものでもない。未来のために己で道を切り開くのだ」


 ただし、これに続く「切り開いたことで生まれる責任は己で取らなければならない」は飲み込む。


「……それによって悪役と呼ばれるようになってもですか」


 一馬の言葉に、将典は痛いところを突くと苦笑いを浮かべる。


「知っているか? 私は煎餅屋や団子屋の職人たちから不倶戴天の敵と見られているぞ」


 一馬の顔には困惑げな表情が浮かんだが、


「私が始めた春望楼に客を奪われた、と職人たちは考えているらしい」


 こう言うと、一馬は納得した顔になった。ただ、将典にとって、職人たちにそのように受け取られたのは予想だにしていなかったことだった。甘くない煎餅は別にして、団子も饅頭も好きなのは幼い頃から変わらない。スイーツとともに民に愛され、栄えていく、と考えていた。だから、学園近くにある饅頭屋に入った時に、塩をまかれて追い出されたのは衝撃だった。


 そのことを思い出しながら、顔を上にあげた。ポツリと言葉が漏れる。


「結局、全ての人にとっての正義はどこにあるのだろうな」


 顔を戻し、一馬の顔を見据える。


「ならば、正道から外れ、悪役と謗られようとも」


 右手を伸ばし、


「未来のために、己で選んだ天命をつかみ取るべきだ」


 つかみ取る。


 一馬の目が大きく見開かれた。そして、小声でつぶやくのがかすかに聞こえた。


「あなたは本当にシナリオから逃れられたんですね」


 その意味が理解できずに、将典は聞き返そうとした。けれど、一歩前に踏み出した一馬の力強い声によって遮られた。


「だったら、私は解職請求の反対運動を始めます。一学生の私が勝手に始める分は問題ないですよね」


 問いを飲み込むと、将典は代わりの言葉を口にする。


「……若君たちににらまれるぞ」


「今更です。私が学年主席を取ってしまってからは目の敵にされています」


 一馬は肩をすくめて見せた。そう、真一郎を抑えて学年主席を獲ったのが一馬だった。進級試験は首位で、かつ、研究発表会で発表した槐州復興計画が高く評価された。


「それに誰かが間違っていると言わなければ、未来は真っ暗になります」


 一馬が右手を前に出し、


「私は私が望む未来をつかみ取りに行きます」


 つかみ取った。


 ふと、将典は彼の目が何かを告げているような気がした。応えるように、右手を改めて拳の形で前に差し出した。


 一馬の拳とコツリと合わさる。


 窓から差し込む日差しが強くなって、二人の拳を照らした。


「……もしも、私が若君から命を狙われるようになったら、匿ってくれますか」


 一馬の顔には笑みが浮かんでいた。冗談だというのは分かった。けれど、その目にはかすかに不安が浮かんでいた。


「明確な犯罪者でなければ、誰でも受け入れる。正直に言えば、迷惑だがな」


「私があなたの破滅をもたらす者であっても?」


 一馬の目から不安が消えていた。


 若者たちがかわす、非現実的なことを語る軽口、全く本気ではない冗談。


 「化け物」と呼ばれ、周りから疎まれていた将典にとって、初めての同世代の学生らしいやりとりだった。だから、わざとらしく口角を上げて見せる。


「その時は、一緒に戦うか? それとも、皇国の外へ逃げるか?」


「戦うのは嫌ですよ。私の武芸の成績は出席点だけです。本当に弱いです」


 学園には武芸の授業もあるが、他の授業とは違い、出席か小論の提出のいずれかで進級できる仕組みになっている。将典も小論を書いた。武芸は、生まれた家の方針、素養によって大きく左右され、とりわけ平民には不平等だからだ。


「だから、逃げますか? その時は、私は幼馴染と、あなたは婚約者は冨迫家の姫様と、恋の逃避行、って新聞に書かれるでしょうね」


 これも冗談だというのは分かった。


 けれど、大海原を進む船の中で舵を握っているような感覚に陥っていた。潮の香りがする。


 横を見れば、一馬がいた。一度も会ったことがない彼の幼馴染もいた。


 反対側を見れば、……。


 ――利奈子は来ないであろう。


 彼女には、故郷、槐州への強い思い、医療行政に携わりたいという将来の夢があるのを知っている。楽しげに語る彼女の顔を思い浮かべると、口がひどく重くなる。


 けれど、こんな考えを見透かしたかのような一馬の言葉によって、将典は意識を引き戻された。


「言わなければ、始まりませんよ。天命はつかみ取るものだ、と言ったのはあなたです」

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