プロローグ
「そんな……」
魔導ビジョンが、私の親友リノアの危機を知らせていた。
彼女の胸には、小さな子供が抱かれていた。
彼女がいる場所は、巨大樹の頂上。
巨大樹と呼ばれているが、その姿は木というより塔だった。
枝ひとつない幹が、切り立った崖のように空へ伸びている。
別な場所で子供を助けた後、強い風に流され、あそこへ飛ばされたのだろう。
巨大樹の周囲では、激しい風が吹き荒れている。
レンジャーたちは幹に取り付き、崖を登るように救助へ向かう。
けれど、その巨大樹がゆっくりと傾き始める。
二次遭難の危険あり――
救助は中止された。
魔導ビジョンが超望遠レンズで捉えた映像を通し、刻一刻と状況を伝えている。
――魔法師団の方々が現れました――
――風が強く、近づけません!――
――風を制御し、巨大樹の根元に到達しました!!――
――これなら助かるでしょう!!――
――彼ら以上に高く飛べる人はいませんからね――
――あぁ!! しかし届きません!!――
――これ以上、高く飛べないようです!――
「リノア……」
私は魔導ビジョンに映る親友の姿を見守っていた。
お願い!
誰か!
誰か、彼女を助けて!!
私にできることは、もう祈ることだけだ。
とても、もどかしい。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
手元で、喫茶店で使っている新しい「ほうき」が、トントンと私を叩く。
慰めてくれているのだろう。
やさしいコだ。
私は「ほうき」に話しかけた。
「ありがとう。あなたはやさしいね」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
リノアにもらった「ほうき」が、私の服を何度も引っ張っている。
まるで、
「早く行こう」
そう言っているみたいに。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ふいに新しい「ほうき」が私の足元へ潜り込み、
気づけば私はその上にまたがっていた。
飛ぼうとしている。
誰もこのコに飛び方なんて教えていないのに。
「え?」
思わず声が漏れる。
フワッと体が浮いた。
その時、飛ぶたび必ず少しだけ左へ流れる、あのコ特有のクセを見せた。
何年も一緒だった私だけが知っているクセ。
あぁ、あのコだ。
間違えるはずがない。
私が世界で一番大好きな相棒だから。
こんなに近くにいてくれたのに、気づかなかったなんて。
私の気持ちを察したのか、「ほうき」がぷるる……と震えて応えてくれる。
「そうだね。行こう!」
「ありがとう。もう大丈夫!」
私はリノアからもらった「ほうき」も一緒にまたいだ。
リノアを連れて帰るには、もう1本必要だった。
「ほうき」は1人乗りだから。
私は2本の「ほうき」をまたぐ。
新しい「ほうき」に声をかけた。
「このコに飛び方を教えてあげて!」
今度は、リノアにもらった「ほうき」にも声をかける。
「お願い、リノアを助けたいの。
ぶっつけ本番で申し訳ないけど、彼女まで向かう間に、このコの飛び方を覚えて!」
2本の「ほうき」は互いに、ぷるる……と震えて応えてくれた。
「ありがとう」
「それじゃ、行こうか!」
私は2本の「ほうき」をまたぎ、空へ飛び出した。
魔法師団でも届かない場所へ。
親友を助けるために。
私だけが知る、本当の飛び方で。
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※※ 次回 6/21 18:00 公開 ※※
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