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ないふのやいばがうつす、ふくしゅう

とうとうラストです。 長いですが、 よろしくどうぞ

【伊藤】

ナイフを尻ポケットに挿入し、その位置を確かめながら俺は鉄の柵を攀じ登る。雑草が伸び放題となったこの広場に佐藤はいる。追跡屋はそう断言していた。

 「よっとッ」柵を乗り越えて、地面に足を着ける。砂風が足元を覆い、本来の地面の正体が理解出来た。そんなどうでもいい事はほっといて、と。自然と頬が怯む。狡猾な笑みを浮かべながら、尻ポケットから愛用しているナイフを取り出し、軽く空気を裂く。

 雑草を踏み付けて躊躇無く進む。「さて、どうやって殺すっかなぁー」独り言には大きい声で、何処かに隠れている佐藤に恐怖を伴う脅しを掛ける。ゆっくりと地面を強く踏む。その時だった。

 向こう側にある雑草がカサカサッと音を立てて揺れた。「みーつけたッ!!」

 そして、俺は躊躇無く地面を強く蹴って駆ける。「フヒャヒャヒャヒャ」と奇妙な笑みが零れてしまう事なんて気に付かない。ナイフを構え、奇異な雑草の方へ全力で駆ける。

 

「おらおら出て来いよォ!」


前屈みになりながら蹴る度に足に力を込める。その瞬間、忍び込んでいた影が輪郭を露とする。当たりだな。露となった陰から佐藤が姿を晒す。その右腕には砂の被った拳銃らしきモノが窺えた。いや、拳銃だなアレ。

 姿を確認した所で、俺は一度駆けていた足を止める。滞った瞬間に砂埃が派手に舞い、足元が覆われる。


「おいおい拳銃か?最近の殺しのプロはそンなモンしか使えないのか?」


 俺はナイフを握ったまま両手を上げ、お約束のサインを取る。まぁ意味なんてねーけど。

 佐藤は、本当に来やがった、という恐怖を表わし、戦慄していた。銃口を俺の方へ向け、ガタガタ震えている口を動かす。「も、もう一人は、どうした」


「あぁ?答えになってねーぞ。俺が聞きたいのはテメェは拳銃しか使えないのか?って事だけど」


 佐藤は震える人差し指を引き金に回す。やはり、お手上げサインも意味ねーのはお約束か。「しゃあないなぁー」俺は溜息交じりに口元から漏らし、両手を下げる。


「殺し屋ってのはよぉ?人の命をいかに明確に奪うってのが仕事だろ?」


 「拳銃なんてモン使うのアリだったら、殺し屋じゃなくても誰でも殺せんだよ」だから、俺が本当のプロってのを教えてやるよ。俺は両足に力を込める。

 地面を全力で蹴り上げ、佐藤の方へ駆ける。佐藤は躊躇も無く震えた人差し指で引き金を引いた。その刹那、夜空に咆哮が轟く。

 「ばぁーか!!」嘲笑しながら俺は砂埃から姿の輪郭を露にする。弾丸?なんだよソレ。きかねーつうの。俺はナイフでいかに明確に殺すか、毎日の様にトレーニングをしていた。体を鍛え、急襲にも備えてあらゆる事をして来た。そんな、俺が弾丸程度避けれないとでも思ったか?

 所詮は俺も、一人の人間として捉えられてるんだなと思うと、怒りが足指の先から湧いて来るのを感じた。佐藤は俺を見て驚愕していた。その隙を狙って俺は全力で駆ける、佐藤の目の前で止まり、一歩下がると同時に頭部よりも上に上げていたナイフを振り下ろす。ナイフの先端は空間を裂き、佐藤の痩せ型な左肩を突く。皮膚を突き破り、肉に刃が練り込んで行く。ブチブチと鈍い音が響きながら刃の先が毛細血管を割る。さらに潜り込んで行き、矢先が骨を捉えた。骨を僅かに削ったとこでナイフの動きが滞る電流が右手に流れて痺れた。

 佐藤は「うぐッ」と苦い声を漏らしながら俺を睨む。俺はすぐにナイフを引き、すぐさま右に振る。刃が佐藤の左太ももを切り裂く。皮膚に横行の亀裂が走り、肉も奇麗に裂いて行く。血が吹き出し、刃を深紅に染め上げた。

 「うがああああああああああああああああァァッ!!」と佐藤は嘆き喚く。愁傷を誤魔化す様に叫ぶ。


【佐藤】


「うあああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」


 愁傷は嘆き叫んでも躊躇無く襲う。恐怖の感情まで斬り裂かれたのか、いろんな事が頭の中から消失して行く。冷えた空気と酸素が傷口から体内に侵入して、さらに俺を蹂躙して行く。砂埃も伴い、無数の粒子が傷口を被す。血が吹き出て、額からも汗が滲む。傷みが体内から波紋を描いて広がって蝕む。目玉をコロコロ動かして、伊藤の方を向く。

 そして、一番先に捉えたのはナイフの矢先だった。



【斉藤】

 「うああああああああああ!」と向こう側から愁傷の悲鳴が轟いて来た。耳を傾けながら聞くと、それは佐藤の声だと把握する。

 工事現場を囲む柵に背を密着させながら、私は携帯電話を開く。時刻はまもなく九時に突入するところだった。そろそろかな?と窺い、拳銃の位置を指先で確認する。

 「ここで待っていろ、とは言われてもねぇ・・・」背を離し、悲鳴が聞こえた方へ足を向け、歩き始めた。夜空を見上げると、そこには月光に照らされた無数の粒子が彩っていた。

 今夜は「星が奇麗だ」


【伊藤】

さて、そろそろ首でも突き刺すかな。と脳裏で呟いて、復讐に幕を降ろそうとナイフを上へ上げる。

下を俯きながらもがく佐藤を無視して、俺は佐藤の首に刃を向ける。

 さて、これで終わりだ。

 勢い良く刃を振り下ろす。その瞬間、佐藤が顔を上げて顔面を見せる。思わず戸惑い、刃が不安定になる。刃は佐藤の鼻を斜めに削り、頬を伝って切り裂いた。

 傷は浅く、しかも足元まで不安定となり、体制を崩す。背中から地面に倒れそうになる重力を逆らって体制を直す事をしないままナイフを佐藤の心臓に向けて手を伸ばす。

 刹那。

 先程と同じ咆哮が鼓膜を襲う。

 痛みは感じれなかった。だが、左足に弾丸が貫いた感触は確かに咀嚼した。

 そして、足から視線を離し前を捉えると。

 ポコッ。

 佐藤の喉に生々しい穴がある。そこから血も吹き出ている。

 まさか、まさかまさかまさかまさか。

 

【斉藤】

 「やはりそうだったか」私は自分の予言が的中している事に軽い喜びと、失望を味わった。これだから人間は残酷な生き物だな、と瞼を閉じる。

 私はスーツから拳銃を取り出し、銃口を佐藤の首元に狙いを定める。その感情は、妻を殺された事にへの復讐感。軽々しく約束を破った伊藤への失望感。そして、依頼でもない人を殺すという多少の、

 罪悪感。

 瞼を閉じ、未知の宇宙の中で、漆黒の闇の中で、私は引き金を引いた。

 銃口から擦れて放たれた弾丸は佐藤の首を貫き、そのまま伊藤の左足の太もも部分を貫く。そして巨大な轟音が襲い、右手の指先から電流が流れて麻痺する。

 引き金が重く感じ、人差し指に力を込めた事で今まで以上余分に痛みを味わった。目眩が生じ、視界に黒く淡い粒子が埋まって行く。

 脳内を何かが、実体の無い何かが翻弄する。吐き気を伴い、右手から伝わる痺れによろめく。目眩が徐々に去って行く。左手で瞼を押さえ、視界が回復するのを待つ。

 サッサッサッと雑草を踏み付けて駆けて来る足音が耳元を襲う。回復した視界を再開すると、捉えたのは伊藤だった。左足も動かしてはいるが、何処か違和感を感じた。

 奇異な走りを見せながら伊藤は俺を睨み付け、殺意を向ける。右手に握るのは血塗れのナイフ。

 私もすぐに拳銃を構える。銃口を向け、歯を食い縛る。口の中に血の味が波紋を描いて広がり、噎せる。引き金に指を回したその瞬間だった。

 「なめんなァ!」伊藤が右足で強く地面を蹴り、勢いに従って右手を振る。野球ボールを投げる様に、握り締めていたナイフを宙で離す。

 重力を逆らい、ベクトルが働く。ナイフは一直線に、私の心臓部分を捉える。私もすぐに拳銃を構えていた腕で心臓部分を覆おと動かす。

 右手は遅く、刃は浅く右手の手首を裂いて、左胸に突き刺さる。皮膚を貫いてそのまま練り込む。だが、投げただけじゃ人の命は奪えない。

 勝った。脳裏で私は嘲笑を決める。


【伊藤】

 まだだぜ、クソジジイ。俺が殺す筈だった。復讐という二文字はいとも簡単に蹂躙された。復讐が復讐に殺される。復讐に復讐を重ねて殺意を生む。

 刃は半分も刺さっていない、そんな事は案の定だった。俺は出血が止まらない左足を前に出して、強く踏む。「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」両手を斉藤の胸へ伸ばす。歯を食い縛って唾液と血が混合した淡を吐きながら、前へ、前へ!

 指先がナイフの持ち手に触れる。徐々に触れる幅が広がって行く。手の平で感触を味わい、握り締める。そのまま前へ! 前へ!

 刃が潜り込んで行く。肉をぐりぐり掛け回して、心臓部分へ達する。そして柔らかく大きい、律動が伝わるのを殺して、突き刺す。

 「う・・・ぐッ」斉藤は苦い笑みと鈍い声を漏らしながら前屈みになって地面に身を任せる。俺はよろめきながら足元を固定する。砂埃が舞い上がり、視界が淡くなって幕を下ろす。

 おわっ・・・た?俺の復讐はこれで終わったのか?


「はぁ・・・はぁ・・・」


 誰かの息切れの声が聞こえる。俺しかいない。静寂に包まれ、夜空が俺を眺める。何も達成感は無かった。復讐するべき人物は、殺された。

 貫かれ、穴が開いて血の湖を作りながら砂に顔を埋めて死んでいる、佐藤。右手に拳銃を握ったまま冷えた空気と重力に沈んでいる、斉藤。

 砂埃が舞う。この空間に残るのは、孤独に曖昧な俺と、緋色に染まった小型ナイフ。

 

 その刃の先端は、無意識に俺の喉を捉えていた。   ―END―














はい!どうでしたでしょうか? なんかパッとしないラストかなぁ・・・?コロシルームからは気をつけます。 はい

明日から夏休みに突入するのですが、暑いし何の予定もないです。えぇ

ハート恋ントスもよろしくお願いします。 それでわ


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