ふくしゅうとらいあんぐる
初めて一週間も経っていないのに三通もコメントが着ました。感動です。益々やる気に包まれます。
【伊藤】
孤独に浮かぶ月から放たれる月光に照らされ、銀色に輝く粒子が夜空を彩る。漂う闇に支配され、昼間とは違う冷えた空気が肌を透き通る。
俺が殺し屋になった理由は単純で、“ただ人を殺したい”という感情が昂りナイフを持った。刃を振り回す時に味わう感覚に酔い、これまでナイフ一本で何人もの命を奪って来た。いつしか俺は『刃男』と言う愛称まで付けられていた。
気付けば業界では有名人扱い。業界で最強と呼ばれる殺し屋『黒部』と『長谷川』に並んで自分の名前が出ていた事に、俺は悪い気は毛頭もしなかった。
だが、その分ターゲットを横取りされた事が自分の中で波紋を描き、屈辱に支配された。地球の重力が俺を蹂躙する様に頭が重く、左右に揺れる。額を右手で押さえ、そのまま部屋に戻った。
電源の入ったままのパソコンは『殺り捕り』というサイトが開かれており、マウスを動かして画面の上側にサイトのURLと共に示された緑の矢印部分をクリックする。刹那、画面が白くなりすぐに元の画面に戻る。
そこにはNEWと刻まれたトピックが一件、更新されていた。
『このサイトに登録している“佐藤”という殺し屋の現在いる居場所を教えて欲しい。二千万渡す』
自分と同じ内容で、報酬額が俺よりも二百万高い「おいおいマジかよ」更新されていたトピックは『斉藤』という奴が書き込み、「ココに送ってください」と続いて記されたURLに俺は躊躇せずマウスを指した。
【斉藤】
「こんな事もあるのか・・・」
私がトピックを書き込んだ直後、更新されたトピックは『伊藤』と呼ばれる者で、内容が私と瓜二つの様に同じだった。違うと言えば報酬額。
私の方が二百万と若干上だが、その前に「伊藤って・・・あの『伊藤』なのか?」思わず声が漏れた。殺し屋の『伊藤』と聞けば、まず浮かぶ人物は『刃男』という愛称の男だった。
六十八年と殺し屋をやっていると、過去に出会った事もあった。どこで会ったかは忘れた。年を取ると物忘れが激しくなってしまうのが自分を凹ませた。
耳を覆う長さの茶髪。不良の様な鋭い眼つきはまるで刃の様に、肉をぶち抜き毛頭血管を割る様な鋭さだった事を思い出す。
そんな事を脳で考えていたら、一着メールが来ている事に気付く。見た事のないメールアドレスで「迷惑メールか」そう呟きながら内容に目を通すと、再び脳にあの男の顔が浮かび上がった。
『パソコンのトピックを見た。俺も佐藤の居場所を探している。お前がどんな奴かは知らないが、どうだ?ここは一つ手を組まないか?』
そのメールは自称『刃男』の『伊藤』だった。大物からのメールに指先が震え、目玉の半分以上を遮っていた瞼を見開いた。
【佐藤】
煩悶が困惑を伴い、容赦なく脳に圧し掛かる。恐怖に似た鈍い感情に圧迫され、俺は部屋の隅で身を竦めていた。体の梁が押し潰されるように、自惚れてほくそ笑う感情を蹂躙された様な感覚が襲った。
ガタガタと肩を震わせて戦々恐々の濡れた感情が包んだ。親指の爪を反対側の指で擦り、恐怖を紛らそうとしたが脳は圧迫されながら収縮して行き、「ひぃ・・・ひぃ・・」と奇異な声を漏らした。
何故だ。俺が何をした。脳裏は煩悶に支配され、齟齬な状況に困惑する。何故俺は狙われている?言及をしても、答えは見つからない。
ガタガタ、ガリガリ歯が震えて軋む。その奥歯が欠けてコロコロと口内を転がり回る夢幻の感触が広がり、鉄と似た血の苦味が喉で波紋を描き、噎せた。そのまま容赦無く目眩が視界を襲い、徐々に闇に覆われて行く。目が眩み、再び淡い光が差し込む。
そこにはパソコンディスクの前に座ったもう一人の俺が、幻覚となって現れていた。目を見張り、夢幻の中の俺は歪んで行きながら、消えた。
『君の起した殺害現場に、女の他に人がいた。そう考えているんでしょ?』
消えた瞬間に背後からまた幻覚の俺が耳元で囁く。『人生は後悔の連続で、後悔の隷属だね』
『君は後悔に支配されているのだろう?隷属され、蹂躙されたまま脳を弄られて』うるさい、消えろ。拳を握り締め、内で叫ぶ。『哀れで愚かで拙くて。君は本当に不憫な人間だなぁー』俺の脳に直接、俺の声が幻聴で流れている。
脳内で轟き、何重にも重なる。やめろ。消えてくれ、頼むから。『君を狙う殺し屋に“斉藤”という者がいただろう?』
本当に欠けそうな程に奥歯が震えて擦れ、軋む音を立てる。『君が殺した女も“斉藤”だった。つまりさぁ』
『“復讐”なんじゃないかな、と僕は思うんだ』
幻覚の俺が囁く事はすべて、自分がどこかで無意識に脳で呟いている事なのだろう。「やめろ・・やめてくれ!」
気づけば叫んでいた言葉が糸口となり、疾風迅雷に視界が眩む。視界が回復し、辺りを見渡すとそこに俺は消えていた。まるで蜃気楼の様だった。
額から汗を吹き出し、恐る恐るサイトのページを更新しようと試みた。震える右手でマウスを動かし、瞼を持ち上げる。
そこに更新されていたのは、『北沢』と名乗る人物がこうトピックに残していた。
『そいつの住んでいる居場所を知っている。詳しくはメールで』
ガタガタ震えて、自然と爪を噛んでいた。その名前には聞き覚えが確かにあった。「追跡屋・・・・」再び俺の目の前に夢幻が広がる。
【伊藤】
メールはすぐに返って来た。見知らぬ人物にメールをする、という行為は迷惑メールとほぼ変わらないのだが、相手は軽率なのかすぐに返信をして来た。
『別に構わないが、私は君の事が曖昧だ。だから、一度顔を会わさないか?』
直球だった。だが、俺が何者か窺っている様にも捉える事ができ、俺はすぐにメールに文字を刻む。
『それは俺も同様だ。是非会って見たい。今週の日曜、待ち合わせ場所は――』
お互い浅慮の様に見えるが、ここまでサッパリしていると自分も清清しかった。尻ポケットに挿入したままのナイフを取り出し、黒いソファに投げた。サイトが更新されていないか確認すると、更新されていたトピックが一件あり、「金の為ならどいつもコイツもちゃっかりしてんな」この世界に生きる奴らの小ささに苦笑する。
そのトピックを書いた主はどうやら「追跡屋か」
「この僕が金にチヤホヤされるために漫画を描いていると思っていたのかぁー!」と岸辺 露伴先生は言っていましたがまさにその通りだと自分は思います。
でも、確かに仕事なんでお金は欲しいところ。




