2004年 春
約束通り、レフは春に来た。
林檎の木はまだ花もつけていなかったが、庭の隅の土は湿って黒く、緑の匂いがした。ナイラは台所で蜂蜜を量っていた。メドヴィク——アーニャが焼いていた蜂蜜のケーキの、生地の下ごしらえだった。作り方は、二人で古い料理書を調べ、二人で失敗し、三度目にようやく形になった。
「客が来る」とレフは言った。
「客?」ナイラは手を止めた。「あなたに客が来るなんて、この十年で初めてじゃない」
「俺の客じゃない。俺たちの客だ」
午後、丘の下の道を、一台のタクシーが上ってきた。降りてきたのは、40代半ばの男だった。痩せて、背が高く、髪に白いものが混じり始めていた。手に古い革のフォルダーを一つ抱えていた。
「ダニエル・ヘイルです」と男は英語で名乗った。「ポトマック川のそばで、チェルノブイリの証言を研究しています。——写真を送った者です」
ナイラが息を呑んだ。壁に貼られた、あのポトマック川の写真。
「あなたが」とナイラは言った。
「私のことを、調べていたそうだな」とレフは言った。声は静かだったが、右手が、無意識に、かつて有刺鉄線で切った古い傷のあたりに触れていた。
「調べていました。十四年間」とダニエルは言った。「なぜなら——私が、あの夜、あなたを追った二人のうちの一人だからです」
台所の蜂蜜の匂いの中で、時間が止まった。
「1990年9月。チェルノブイリの医務室。あなたが処置台の下に隠れていたとき、『上だ、プレート、消えてる』と言った男の、隣にいた若い方が私でした。24歳で、任務の意味も知らされていなかった。ただ『回収漏れの部品を探せ』と言われて、放射線の中を走らされた」
レフは長い間、男を見ていた。
「座れ」とだけ言った。
ダニエルはフォルダーを開いた。
「これは、2001年に部分開示された調査委員会の資料と、私が個人的に十四年かけて集めたものです。あなたに——これだけは、直接渡さなければならないと思っていた」
一枚目は、一枚の顔写真だった。
「コードネーム『スコーチ・アース』。本名、レイモンド・コイル。1986年、プリピャチに入った作戦チームの主任です。あなたの妹さんが蒸気分離器のフロアで見た『英語を話す二人組』——その片方が、この男だった」
レフは写真を見なかった。テーブルの木目を見ていた。
「彼は、今」
「1998年に死にました。肝臓の癌でした」ダニエルは間を置いた。「彼もまた、あの現場に長くいすぎた人間の一人だった」
レフは何も言わなかった。復讐の相手は、復讐の届かない場所で、彼自身と同じ病に食われて死んでいた。それを聞いても、体の中央に四年間あった冷たい塊は、もう反応しなかった。とうに溶けて、別のものに変わっていた。
「『BURN3』の意味を、知りたいですか」とダニエルは言った。
金属プレート。「BURN3 TEST UNIT DO NOT REMOVE」。あの削れた文字。
「BURNは、作戦プログラムの名です。正式には別の頭字語がありましたが、内部ではただ『燃やす』と呼ばれていた。そして——数字が付いていた」ダニエルの声が低くなった。「3、というのは、三番目、という意味です」
「三番目」とレフは繰り返した。
「BURN1とBURN2が、先にあった。どちらも規模の小さな、いわば予行のようなものだったと記録は示唆しています。場所も、結果も、大半が今も封印されたままです。チェルノブイリは——三度目の、そして最大の実行だった」
ナイラが椅子に腰を下ろした。手が、膝の上で固く組まれていた。
「まだ、あるということね」と彼女は言った。「私たちが暴いたのは、三つのうちの、一つだけ」
「そうです」とダニエルは言った。「だから私は、研究をやめられない。あなたたちが1990年に開けた扉の、その奥に、まだ二つの部屋がある」
レフは、初めて写真を手に取った。レイモンド・コイル。平凡な、疲れた、どこにでもいる男の顔だった。悪魔ではなかった。ただの人間だった。それが、いちばん堪えた。
「一つ、聞きたいことがある」とレフは言った。「スヴォロフだ。保健省のスヴォロフ。俺が一九九〇年に、発電所への出入り記録を調べてくれと頼んだ男だ。あれきり、連絡が途絶えた」
ダニエルはフォルダーの奥から、一通の古いコピーを出した。
「あなたが議会で証言をさせたあの日、CNNの検証がなぜあれほど速かったか——当時、誰も説明できなかった。声紋分析には四十八時間かかるはずだった。なのに、金属の素材分析も、資金の流れの裏取りも、異様に早く固まった」ダニエルは紙を滑らせた。「1990年10月、ニューヨークのCNN編集室に、モスクワから匿名の小包が届いていた。中に、チェルノブイリ発電所への外国人の出入りを記録した内部書類の写しが入っていた。差出人は、最後まで分からなかった」




