40.暗殺者の戦利品 2
40. Assassin’s Trophy 2
大川の流れなど物ともせず、FenrirさんはTeus様が待つ向こう岸まで泳ぎ切り、脚の届く浅瀬まで辿り着いた。
到着を告げるでもなく、黙って腹這いになろ首を垂れる。先に僕は彼の頭の上を伝って湿った草叢の上に飛び降りた。
それでもじれったく思うほどだったんだ。
“Teus様っ…Teus様っ!!”
息は、しているだろうか?身体は、まだ温もりを、守れているよね?
ちらとでも、最悪の帰結が脳裏に過って、僕は喉の裏に強烈な吐き気を覚えた。
“…もう、もう大丈夫ですっ! Fenrirさんがっ…来てくれましたよっ!?”
ちょっとで良いから反応を返してくれやしないかと、耳や頬をせわしなく舐めてみる。
“もう大丈夫かは、知らぬぞ。まあ落ち着け…。”
そんな意地悪なこと言わなくても。でも、こんな時こそ冷静にならなくちゃいけないのは、その通りだ。
当然、Fenrirさんが神様のような力で、忽ちTeus様を元気にしてくれるなんて思っちゃいない。
“…それで、お前の話では、こいつが倒れることになった原因があるのだな?”
“は、はい…。”
落ち着け、少しでもFenrirさんの役に立つ情報を伝えなくちゃ。
僕は僅かに感じたTeus様の灯火を信じて顔を上げ、両耳をぴんと立てて座ると、自分の見解を述べにかかった。
“毒を、仕込まれてます…。”
“ほう…”
興味深い、と漏らしそうな感嘆だった。
“続けろ。”
“まずTeus様のご自宅に、今まで酒瓶の類が置いてあったことは無かったと思います。”
“そう思うのは、何故だ?”
Fenrirさんは表情一つ変えずに問いかける。
“まだTeus様が顔だけは出してくれていて、僕に用事を言いつけられる時には口からお酒の匂いはしてこなかったからです。”
“それは単に、あいつが飲まずに保管しておいただけ、と言うことは無いのか?”
あ、しまった。言う順番が良くなかったな。
“ごめんなさい。そのお酒の瓶も、入ってた籠も、あの村では良く見るものだったんです。”
“ふむ…。しかしそれは正しくないやもしれぬぞ。お前は知らないだろうが、あいつはヴァナヘイムに深い関わりがある土地を訪れているのだ。そこで手に入れたものかも分からん。”
“そ、そうなんですか…?”
僕ははじめの一歩さえ否定されてしまって、思わず口籠ってしまった。
それを見て、まるで子供に促すようにしてFenrirさんは笑う。
“済まないな、俺の悪い癖だ。本筋から逸れるな…黙っていようぞ。お前の推論を聞かせろ。”
“う…ごめんなさい。”
“謝ることはない。”
“でも、Teus様言ってました。ここで生活するのに食糧とか、村の方々から調達させてもらってるって…。”
なんだか言い訳をしているかのような物言いをしてしまったな…。
そう思ったけれどFenrirさんは宣言通り、じっと僕の方を向いて、目線を合わせずにその後を黙って聞いてくれていた。
“それで、最初に変だなと思ったのが…僕がTeus様に用事があるからって一匹でFenrirさんのところに初めて来た日のこと、覚えてますか?”
目を瞬かせたのは、首肯と捉えて良いんですね?
“あの時、Teus様はお食事に誘われてたんです。確かに、なんだかちょっとお酒臭かった…。
ちゃんと覚えてます。その時の匂いは、今のTeus様からするのと違います。
…だからあのお酒は、この村の方達から頂いたのに、この村のものじゃない!”
Teus様がご自身で持ち込んだお酒という線、確かにあるかも知れません。僕は考えもしませんでしたけど…。それでも、お酒に入れられた ‘何か’ が原因であることは間違いないんです!!
僕、知ってるんです。あんまり村の皆様がTeus様のこと良く思っていないこと…。
長老様にTeus様にお仕えするよう命じられた時も、監視の役割を仰せつかってました。
どこかでTeus様のことを、村から追い出したい気持ちが見て取れると言うか…。
これは、僕の直感と言うか、憶測です。
きっと間違ってます。でも、でも…。
こんな疑い方、したくないんですけど、このお酒をTeus様に渡したのは長老様の家の方です!
誰が裏で手を引いてるのかまでは、分かりません。でも食糧をTeus様にお渡しする機会を利用して、このお酒に仕込んだんだと思います。
ちょっとだけ、舌の先っちょで零れていたものを舐めてみました…酷いです。舌が、痺れて壊れそうでした。
もしかしたら甘い味に隠れて分からなかったのかも…Teus様。
僕、お酒のこと良く分からないんですけど…けれどもこれは絶対に飲んで良い代物じゃない!
こんなもの浴びるように飲んでたら、命にかかわります! あの部屋の強烈な匂い…ひょっとしたらもう、Teus様…。”
“もう…助からない、かも…。”
声が詰まった。
嫌です、そんなの。
あんなに僕のこと、かっこいい狼だと言って褒めてくれたのに。
村の人たちが見せたことの無いような笑顔で、僕を散々に甘やかして撫でまわしてくれたのに。
そして、こんなに立派な狼さんに、会わせてくれたのに。
もう、二度とそんな日が来ないなんて。
“う゛うっ…う゛ぁっ…Teus様ぁっ…いやですぅっ…。”
勇敢に立ち振る舞おうとしていた心は、もう限界だった。
糸が切れた。ずっと、我慢してたのに。
楽しかった思い出を並べれば並べるほど、それらが無残にも引き裂かれていくのを目の当たりにさせられて。
それが嫌で、かき消そうと新たに取り出した幸せもすべて、冷たく笑われ蹂躙させられていくなんて。
ぼ、僕にはもう、何もできない…。
“Teus様ぁっ…!!死んじゃいやだぁっ…うぁっ…あぁっ…。”
額を必死にTeus様の身体に押し当て、涙を零しては、それが少しでも彼を生き返らせる奇跡に繋がってはくれないかと願う。
ごめんなさい、Teus様。
そんな様子を、Fenrirさんは最後まで辛抱して聞き終えると、
長い沈黙を破って、ようやく口を開いてくれた。
“話は分かった。”
そして、今までで一番優しい言葉を貰えた。
“ありがとう。よく頑張った。”
“うぅっ…う゛ぁっ…えぇ…?”
“Teusが、お前を選んだ理由が、少し分かった気がする。”
しかし、そんな穏やかな声音とは裏腹に、彼は次の瞬間、恐ろしいことを呟いた。
“お前が毒殺を疑うのなら、恐らくはそれが正しい構図なのだろう。…だがな、俺はこいつが自らを殺したがっている自分を飼い太らせていることも、知っているのだ。”
“え…?”
それ、どういうことですか?
隙間なく埋め尽くされた不安の森に、Fenrirさんの言葉はよく響いた。
頭が真っ白になって、崩れる。
今の僕には、もはやその意味が理解できるはずも無かったんだ。
“な、なんで…Teus様が、そんなこと…するんですか?”
彼の大狼が口にした言葉は、余りにも残酷だった。悪魔じみていた。
僕の幸せを感じていた全てを踏み躙った上で、ぱっと顔を輝かせ、更に奪うものを思いついたぞと宣告されたような気持ちだった。
いつも笑って僕のことを撫でてくれて、あんなにFenrirさんと楽し気に話してた、Teus様が…?
“う、うそ…です…そんなの。”
それは間違っていると、掻き消すだけの力は無かった。
想像するだけで怖かった。僕が来るまで、暗い部屋でたった一人で苦しんでたTeus様が。
少し、笑ってただなんて。
否定することにさえ、何の意味があっただろうか。
それが僕のこれまでの奮闘を無意味なものにしたからでも、Fenrirさんだって大好きなはずのTeus様を半ば見捨てるような言い方に取れたからでもなかった。
ただ、彼自身の意志に、僕は絶望したんだ。
“…分からぬか。俺には痛いほど理解できるがな。”
そんな、簡単なことが理解できないように言わないでください。
まあ良い、とFenrirさんはTeus様に視線を逸らす。
“確かに俺も、余所者として周囲から良く思われていないと本人から聞いたことがある。その中の過激な思想を持った連中が…十分にあり得るだろう。
しかし、軽率だ。こいつの身に万が一でも何か起きようものなら、何の誇張もなくヴァナヘイムは滅ぶぞ?
仮にも…こいつは不運にも遣わされただけのお偉いさんなのだからな。
そんな分別もつかぬような輩が、殺しまでやるとは到底思えん。やるとして、せいぜい村から追い出す目的…嫌がらせ程度のつもりだったはずだ。“
“え…?じゃあ…”
“ああ、少なくともこれを実行に移した馬鹿どもは、これを猛毒であると思ってこいつに飲ませてなどいない。せいぜいちょっと腹を壊すぐらいだ、と。”
僕の推測を、Fenrirさんはさらに広げていく。もう着いていけないぞ。
“舞台裏に…いるな。本気でこいつの命を奪おうとしている奴が。”
“だ、誰か…知っているんですか?”
“…。”
Fenrirさんは一度口を開きかけたが、それが適切でないと判断したのか、代わりに首を振った。
“今は、さほど重要な話題ではないな…。話を戻すぞ。”
“思うに、こいつは……そうと知っていながら、酒に溺れた。
自らを死に至らしめるだろうと期待して、飲み続けたのだ。”
ぞわりと全身の毛皮が逆立つ。
想像してしまったのだ。
だんだんと身体が不調を訴えるようになるのを感じながら、満足げに次の瓶へと手を伸ばすTeus様の姿を。
知ってしまったのだ。
酔いが醒めると途端に苦しみだしては、部屋に籠り切り、深い眠りについて紛らわしてきた。
終ぞ最後の数日には、僕の声が届いていなかったことを。
“その不味そうな酒がこいつに何を思い出させたのかは知らぬがな。随分と簡単に吸い寄せられたものだ。狡猾な送り主が睨んだ通り、効果は覿面だったと見える。”
“や、やめて…”
“まあ、悠長に喋っているとあれだな。いくら何でもこいつが可哀そうか。”
そう言って、Fenrirさんは初めて身を屈めると、Teus様の様子をじっくりと観察した。
“ふむ…”
それから口元に顔を近づけ、僕がそうしたように舌先で唇を舐める。
眼を見開き、その強烈な味にたじろぐかと思いきや、その逆で、どこか楽し気に目を細める。
“クックッ…そうか、これは驚いたな。”
“も、もうやめて…!!”
淡々とした口調から浴びせられた冷笑に、もう僕は絶えられなかった。
“お願いですからっ、もうっやめて…お願いします。Teus様をっ…! Teus様…を…。”
“……。”
ただ彼の調子を遮りたいがために願った言葉は、掠れ、遂には語尾を失ってしまった。
試すような視線にも勝てず、僕は黙らされたように俯く。
何も言えなかった。
このお方を助けてくださいと、狼にお願いすることが正しいと言える自信が、もう無かった。
それぐらいTeus様の裏の顔を想像することは恐ろしかった。
これからどうすれば良いのかも、僕には分からなかった。
このまま動けずにいれば、そのままTeus様を看取ることに、なるだろうか。
それまで、進むことも、戻ることも出来ずに、ただお傍で立ち尽くすだけ。
“どうした。何か言いたかったのではないか。”
“…なんでも、ない…です。”
“そうか。”
まるで僕の独り言をさほど気にも留めなかったかのように返すと、Fenrirさんは顔を上げてヴァン川の流れに目をやった。
“では、もう良いか。連れて行くぞ。”
“え…?”
“死に場所がこんなところでは、こいつも浮かばれんだろう。せめて洞穴にでも、連れて行ってやろうと思ってな。”
“……?”
耳を疑った。
冗談ですよね?そう確かめる気さえ、失せた。
初めてこの狼のことを憎いと感じた。
Fenrirさんなら、Teus様のことを助けてくれるって信じてたのに。
この方のことを救いたい気持ちは、僕と比べ物にならないぐらい強いと。
そう思っていたのに。
“なんだ、何か不満でもあるのか?”
“…ありますよ。”
“…Fenrirさんは、Teus様のことが、大事じゃないんですか?”
“ああ。勿論だ、命の恩人だからな。”
命の恩人?それは初耳だったけれど、今は気にしている場合ではない。
寧ろ、彼を憎む材料をわざわざ曝け出してくることに僕は喰って掛かった。
“それなのに、してあげられることが、それだけだって言うんですか!?”
僕の激昂は、Teus様との時間を本当に諦めなければならないと、頭の奥隅で冷ややかに認め始めた自分が現れ始めて、それをどうしても彼のせいにしたかったからだ。
“…俺には、どうすることもできん。悪かったな、力になってやれなくて。”
肩をすくめ、悪びれる様子もないのが、僕の怒りを益々買いたがっているとさえ思えた。
思わず、彼のことを貶す言葉が口を突いて出そうになる。
“薄情だと思うか?”
“……。”
だから、黙っているので精一杯だった。
“そうか、かわいそうにな。”
“それは、どういうことですか…?”
そのまま口を噤んでいれば良かったのに、僕はFenrirさんの表情を見て、まんまと釣られたのだとその時悟った。
“とことんお前が ‘犬’ らしい思考をしていると言うことだ。”
“…っ!?”
自分から息を止め、今度こそは迷いなく憎々し気に彼を見上げる。
“僕が、‘犬’ だから、ですか…?”
“そうだな。お前はこいつと、人間どもと親しくなり過ぎた。”
言い返す気力すらなかった。余りにも心無い言葉に、頭が真っ白になり、そうしようとせずとも絶句する。
“ば、馬鹿にしないでください…”
僕は初めてFenrirさんに向かって、鼻面に皺を寄せた。
これ以上、僕と人間の皆さんの関係を悪く言うんだったら…僕だって黙っちゃいないですよ。
“ほう?”
良い度胸だと言わんばかりに、彼は嬉しそうな声を上げる。
“お前の言うその絆とやらが本物であるならば、きっとお前の牙も抜かれることは無かっただろうにな。
…では聞かせろ。それだけお前があいつのことを愛しく思って鬱陶しいぐらい付き纏っているのだったら、毒入りの飲み物の一つや二つ、見分けがついたのではないか?
なぜこんな手遅れになるまでこいつを毒に浸して放っておいた?自分の本当に大事な関係を優先していたのでは無かったか?”
“そ、それは…。”
僕は昼下がりの小春日和に誘惑された、あの幸せなひと時を、最も痛い形で指摘されてしまったのだ。
手遅れ、という言葉がもしもの世界を開いて行く。その時に戻れたら、どれだけ良いだろう。
…きっと、自分を今よりも怖い顔をして吠えたて、何としてでもTeus様に会いに行ったはずだ。
言い返せない。僕には、Fenrirさんが持たぬ、大事な家族がいるから。
憎らし気に黙り込んだのを見て、彼は腹立たしい程上機嫌だ。
“おお、責めるつもりなど毛頭ないとも。だがお前らが人間どもに尻尾を振るだけのそれが、絆と言う名の腐った鎖であると俺は言っているのだ。お前が犬らしく振舞っていたとて、それは絆を象徴する何の力にもならん。”
“…勘違いするな、お前が犬であるかどうかなど、俺にはどうだって良い。お前は犬ではないと宣うのなら、ああ、尊重してやるとも。”
“だが、お前がなりたかったものが、人間と仲良く暮らしているなどと言う幻想に酔っているのを見ると…心底吐き気がする!!
“……。”
僕の中から、Fenrirさんに対するあらゆる敵意が消えた。
猛った毛皮も横に撫でられ、尾もあらゆる戦意を失って垂れる。
“お前に死にたかった奴を活かすという行為がどれだけ苦しいことかわかるか!?
…俺のことを、遂にこいつは死なせてくれなかった!
苦しいまま生かしやがったのだ!あろうことか…死ぬべきやつの命を!
そのせいで、そのせいで…
俺は一体どれだけ救われたと思う!?
そしてこいつが、どれだけ苦しんでいると思う!?
こいつ自身が死にたいと願ったその種は、紛れもなく俺自身だ。
俺は、こいつを救えない。
俺のことを死ぬまで救う気でいるのなら、俺は何としてでもそれを止めさせるつもりだ。
…諦めさせるぞ。
自らを、救えない存在にしてでもな。”
彼はもう一度、問いかけた。
“俺には、こいつを救えない。
…お前にできるか!?死ぬほど、苦しい思いをするぞ!?
どうなのだっ!? あ゛あ゛っ!? ”
“救えるのかと聞いているのだぞっ!Skyline!!”
“ガルルルルルルゥゥゥゥッッッ!!”
“…!?”
どこから出ているのかと驚くほど低い唸り声で人間は驚くことがある。Fenrirさんは、そのような反応を示した。きっと僕がそのように反抗するなんて予想していなかったのだろう。
今にも腹を見せて降参しそうな覇気に耐え、最後の抵抗を彼に向かって吠えたのだ。
やがて、僕は全ての感情を諦めて、最後に残った優しい笑みを浮かべて、
最愛の狼に向かって問いかけた。
“…わかりました。”
“僕と、Fenrirさんは、違うんですね?”
そのときのFenrirさんの表情に、僕はふと彼の中の悲しみに引き込まれてしまいそうになったのを忘れない。
“ああ……。”
“お前が狼であってなど、ならぬのだ。”
僕はもう一度Teus様の腹に自分の頭を潜らせると、彼を背中の上へと負ぶった。
悪いけど、Fenrirさんに看取らせる訳には行かないや。
Fenrirさんは狼だもの、きっと死んじゃったら、Teus様を食べてしまうよね。
まだこちらで引き取った方が、彼の死を悲しむ人のためになるだろう。
別れ際に、僕は本当の最期の言葉を送った。
“時間の、無駄だったみたいですね…。
ですが、ありがとうございます。僕の生き方に、助言を下さって。”
“ふん……。”
“では、もう一つだけ、助言をくれてやろう。”
“Freyaだ…あの女を頼れ。まだ間に合うやもしれぬ。”
ばっと彼の顔を見上げると、Fenrirさんは月を見上げて表情の一切を覆っていた。
“その方のお家…どこだかご存じないですか?”
言い捨てるだけで去るつもりだったのだろう、そんな空気を壊されて不快だと言わんばかりに溜め息をつく。
“お前の村だろう、知らぬのか?”
“えっと…長老様のお家から遠いと、ちょっと分からないです…。”
“こいつから残り香のひとつでもせぬか?それを手掛かりにでも探すが良い。”
“Teus様、Freya様とそこまで行ってないみたいですよ?”
苦笑交じりな返事から察するに、これは余りにも予想出来ていたことらしい。
“…では、こいつの家に戻るが良い。”
“…直に、来るはずだ。”
“やっぱり、Fenrirさんは凄いです。”
“助言は以上だ。精々、足掻くと良い。”
“そして、こいつに尻尾振って幸せに生きるのだな。”
“……。”
“Fenrirさん、僕と、一緒に来ませんか?”
“お前一匹で此処まで運んで来れたのだろう?あと少し頑張れ。”
“……。”
“Fenrirさん、僕らと一緒に、この村で暮らしませんか?”
“……。”
“全て解決して、Teus様も元気になって、またFenrirさんといがみ合えるようになったら…
僕、Fenrirさんのこと迎えに行きます。
きっと、仲間たちも最初はびっくりするかも。でも、きっと皆、受け入れてくれると思います。
人間の皆さまだって、優しい方ばかりです。それに、それに……。”
“Teus様をお守りできるのは、Fenrirさんしか、いません。”
“だから、次は…次は僕の遠吠えに、応じてくれませんか?”
“それは出来ない。Skyline。
“それどころか、俺はこの川を超えて、お前等の縄張りに足を踏み入れる気すらない。
…此処からは、お前一匹で解決するのだ。”
彼は、終ぞ僕との口論が終わるまで、川に自分の脚を浸けたままだった。
“そして、良いか。
冗談であっても、その馬鹿な思い付き、そいつの耳に吹き込むんじゃないぞ。”
“……行け。時間がない。”
その力強い声援を聞き終える前に、
僕は踵を返して、彼が空に託した最後の希望を手繰り寄せるため、
闇に包まれた林の中を再び歩き出したのだった。




