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22.荒野の再生 1

22. Reclamation


ここはどこ?

目が醒めてみれば洞穴の中にいるのだ、そう彼が聞きたがるのはごく自然なことだった。

お腹空いた。

すぐに俺が食べ物を持って来てやろう、お前がそこから出てきたらな。

まだ寝てたい。

そうか、入用となればいつでも言うが良い。

外見てみたい。

入り口は滝で塞がれているからな、外の景色も見たかろうが今は休め。

連れてって。

ここまでは甘い顔をしていたのだが、寝不足のイライラもあって俺は厳しくたしなめた。

そうすると、Teusはこれ見よがしに具合が悪そうにする。

まるで怒号が身体に障ったとでも言いたげだ。腹立たしいがこうなると弱い。

それで俺は仕方なく、Teusが聞いているだけで良いように、ここがどんな場所なのかを説明しにかかった。



「とにかく、今は自重するのだな…。お前が回復することが、先決だ。」

これがまあTeusがこんこんと眠り続けて、またも昼過ぎになってからの出来事である。


彼は今も丸くなった俺の毛皮の中で、これまた丸くなっているのだが、口が聞ける程度には元気になったらしい。俺の後ろ脚の腿と胴の間に潜り、尻尾を抱き枕のようにしていじっている。

俺が怒らないのでそうして良いと思っているらしいが、逆鱗に触れ次第尻尾を振って弾き飛ばしてやるつもりだ。暇を持て余していそうだったので、とりあえず今はそのまま好きにさせているが。

彼は言って聞かせた外の世界と、それから現状を、病人のようにゆっくりと飲み込んでいった。

「はーい、わかったよ…。」

そうだ、お前は今ばかりは忠告に従っておくべきだ。




「まあ…。」

俺は咳払いをしてお茶を濁す。

「良かった。…少し、元気になったのではないか…?」


こいつが起きてもぞもぞと動きだしたのが分かったとき、どれだけほっとしたことか。

喜んでTeusの名前を呼びそうになるのを堪え、自分から喋るのを待っていたのだった。

Teusは、昨日のことを覚えているだろうか。


「ごめん…。」


彼は消え入りそうに呟いた。

「ちょうどこの、人間離れした生活に身体が慣れ始めたのだろう。緊張が緩んでしまった矢先の寒さにしてやられた訳だな。」

「うん…。」

彼を責めさせてはならないと思い、正直に考えたことを伝えたつもりだったが、どうもふさぎ込んでしまう。


やはり、彼は元気ではないらしい。少なくとも、いつものTeusではなかった。

どうしたものか、他にどんな言葉をかけてやれば良い?

Teusはこんなとき、俺にどうやって接してくれただろうかと思い返す。

彼はいつでも、たんまりと食い物を持ってきてくれて、それで…。


「Teus、一つ良いか。」

火の尽きたランタンに向かって、昨晩のように話しかける。

本当は独白で済ませるつもりだった。周囲が十分に明るい分、恥じらいを覚える。


俺が、救われた時の話だ。聞いてくれるか。

「お前が俺にしてくれたことと言うのは、俺のあらゆる苦痛を取り除いてくれることでも、痛みに共感することでも、ましてや代わりとなってくれることでもない。」

言葉に迷い、ゆっくり選んで話すのをTeusは黙って聞いていた。


「ただ、俺の…肉体的苦痛にだけ集中させてくれたのだ。

その間は、俺は、痛い、苦しいとだけ言っていれば良くて…。治ったら、良かった、助かったと言っていられるのはおそらく幸せなのだろうと思う。」


「絶対に治るから大丈夫だよと、言ってもらえるから不安なく今を耐えられるのであって…治って今、本当に楽しいと思えるから、先ゆく不安に立ち向かえると思うのだ。」



「暗い話をすると思っただろう?すまないな…」

駄目だ、自分でも何を言っているのか、よくわからない。寝不足で頭が回らない上に、もとより人を喜ばせる術を知らない俺の言葉は相応しくなかったのだ。

「ううん…、ありがとう。」

どうしよう。また、二人の間で喋ることがなくなってしまう。

「Fenrir…」

「なんだ?」


「お腹、減った、かも…」

よし来た、と俺は快く返事をする。

内心、この空気に気まずさを感じていたのでほっとしてもいた。

「あのね、お肉も良いんだけど…甘いもの、食べたい。」

もちろん良いとも、俺が肉しか喰わない怪物だとでも思っているのか?


俺は来年の誕生日に、お前があのケーキを持ってきてくれるのを待っているぞ。

そうだ、そうやって我儘を言ってくれれば良い。

絶対にお前は俺が元気にしてやるのだから。

そうと決まれば、早速狩りに出かけるとしよう。Teusよ、少しの間毛皮から出てきてくれるか。

「えー出たくないよお…。」

は?一体どうしたいのだこいつは…。

「すぐ戻るから…な?」

そう諭すと彼はしぶしぶ丸くなっていた俺の隙間から這い出てきた。


「なにも着るものないや、マントもびちゃびちゃだし…。」

「やはり寒いか…。」

少しの間でも、彼を無防備にさせておくのは気が引けることだった。

そう、だから火を焚かねばならないのだった、とどうすることもできなかった昨日のことを思い出す。

只々泣いてばかりだったな、だが今は違うのだ。俺はどうするのがTeusにとって最善であるかを今なら考えられる。


「ふむ…。良かろう、少し待っていろ。」

俺は少しばかり気取った口調を真似て、洞穴を後にした。

今だけは、きっとそれも許してくれることだろう。




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