10-8
「というか、あのね……」
コーネリアの瞳の奥に、仄暗い光が灯る。
「エクスカリバーの所有者は、この国の王となる事も出来るはずなのよ」
急に話が変わったような気がして、ジャックは戸惑う。
自分の中の聖剣の伝説の記憶を掘り起こし、未来まで伝わる伝説を言ってみる事にした。
「俺の時代の伝説によると、あの剣を抜いた者がヘルジアの王になるという神の啓示があったとされてますね。それで、唯一抜けたアーロンさんが即位したと……」
「聖剣を抜く事が出来たから王に即位したんじゃないわ。この国の民族と魔獣を制圧出来る力がエクスカリバーにはあったの。だから統一国家の王になったのよ」
「なるほど……。あの、周りに聞かれたらまずいので、声を小さくしてください」
コーネリアの声はそんなに大きくはないが、喧騒の中でも隣くらいには聞こえてしまうかもしれない。
「あ、そうね。ごめんなさい」
「……ええと、何をおっしゃりたいんですか? 俺は一応エクスカリバーを持ってます。だからその上で、という事は分かりますが……」
「貴方がその気になれば、この国ごと意中の方を手に入れる事も出来るって事よ」
「!?」
「ダマレ!」
ヨウムがコーネリアの手に噛みついた。
「い、痛い! やめて!」
「ヨウム、やめろ! すいません、短気な鳥で……」
ジャックの言い方も気に入らなかったらしく、ヨウムは攻撃先をジャックに変更した。嘴をカチカチいわせ、威嚇した後、物凄いスピードで額に突っ込んできた。
「いってえええええぇぇえええええ!!!!」
あまりの痛さに、視界が真っ白になる。
店中に自分の声が響き渡ったので、注目を集めているのを感じられたものの、配慮する余裕がないくらいだ。
「あ! ヨウムちゃん……! どこいくの?」
バサバサと軽い羽根音が遠ざかる。2人に呆れて去る事にしたのだろう。
(う~ん、この話、やっぱりヨウムとしてはアウトだったんだな)
ヨウムは今はジャックと一緒にいるが、本来であればアルマの使い魔だ。アルマの孫であるシエルの身を案じ、攻撃的になったのかもしれない。
「ジャックさん、大丈夫?」
「……ええ、まぁ……」
コーネリアの魔術で、額の痛みが薄れ、視界が良くなる。
「急にどうしちゃったのかしら?」
「ヨウムはさっき言った子の身内みたいな存在なので、コーネリアさんの話を聞いて吃驚したんだと思います」
「そうだったの。悪い事聞かれちゃったわね」
「大丈夫です。後でフォローしてみますから……。あの、さっきの話ですけど」
「何かしら?」
「シエルが……あの子が王になる事について悩んでいる所を見て、支えてやりたいと思ったんです。その思いは、保護者みたいな感情とか、将来この国をどう変えていくのかっていう、興味の部分からくるのかと思ってました。だからもし、あなたが言う様に、俺に恋愛感情があるのだとしても、支配したいとか、あり得ないです」
何故コーネリアが急にあの様な話をしたのか分からなかったが、自分の気持ちを出来るだけ伝えた方がいいと思った。自分に変な期待を持たないでほしい。
「貴方にそんな風に思われて、その女性は幸せだわ」
コーネリアは疲れた様に笑い、大きく伸びをした。
「ごめんなさいね。ちょっとの間監禁されてた事で、あまり良くない思考になっちゃってたみたい。アリシアを大事だと思う一方で、アースラメント家の人間を憎んでたのかな……。わたくしが言った事は半分本当で半分は嘘。お父様はエクスカリバーを手に入れたのが王となるキッカケになったけど、聖剣を持ちながらもクーデターに負けてしまったわ。本来の力が出せなかったの。聖剣は意志ある武器、お父様を所有者としながらも、心は別の所にあったのかもしれない。この剣に浮気されちゃったかな……」
「自分の剣に浮気されるって……気の毒すぎる……」
ジャックは元恋人のエレインに浮気されていた事を思い出し、胸の痛みを感じながら腕輪を見た。
(俺はもしかしたら、自分の剣に浮気される可能性も……あるのか?)
泣きそうになった。
何も味がしなくなってしまった夕飯を2人で黙々と食べ、早々にそれぞれの部屋に引き上げる事にした。
ジャックがドアを開けると、目の前の光景に唖然とした。
部屋中が羽根だらけなのだ。
「げ……」
「バーカバーカ」
部屋の中央付近で灰色のインコが羽根で遊んでいる。
ベッドの上の布団を破いたようだ。
さっきの話がよほど気に食わなかったのだろうか?
「あのな。俺はこの国とシエルをどうこうする気なんてない。ずっと見てたなら分かるだろ」
「シンジテ イイノ?」
小首を傾げて、ヨウムが見上げてくる。
(……可愛い……)
うっかりヨウムに萌えそうになるが、ここは我慢だ。
「俺には国を手に入れ、統治する頭も、シエルを落とす魅力もない」
「ソウダナ……、タシカニ」
口にした後猛烈に虚しくなった。
だがこれでいい。いいんだ……。
ヨウムはジャックの答えに満足したのか、部屋中をピョコピョコと跳ね回った。
◇
すいません。手違いで完結にしちゃってました…。
まだ続きます。
大変申し訳ありません。




