10-7
ジャックとアリシアは堅く握手を交わした。
コーネリアと話がしたいと言うアリシアを尊重し、話が聞こえない位置までジャックは離れた。
「オマエ バカナヤツ メンドーゴト オシツケラレ テン ノニ」
ジャックがアリシアにいい様に使われ始めてると考えているらしく、ヨウムは嫌味を言い、頭をつつく。
「別に利用されたっていいだろ。俺はアリシアの事は既に友人だと思ってるし、頼られる価値があるって判断されてるんなら嬉しいけど」
「ナケルネ……」
「それにさ、ローズウォールへの道中でまた強くなれるかもしれないだろ? 俺にとっては価値ある旅路に思えるけどな」
この時代に来てから数日経った。
日々危険に晒されながらも大剣を振り続けている事で、確実に立ち回りが上達していると感じられていた。
(シエルが見たら吃驚するかもしれないな)
彼女が目を丸くする様子を思い浮かべ、ニヤニヤする。
ヨウムに「オエ……」と失礼な反応をされるが気にしない。
「ジャック! 受け取りな!」
急に声を掛けられると同時に、何かが飛んでくる。
それを片手で受け止めると、ジャラっと多数の金属片が擦れる様な感覚があった。
「それだけあれば、ローズウォールまでには充分だろう。無事に戻って来るんだよ!」
どうやらアリシアは金を分けてくれたらしい。
「有難う。君も無事で!」
アリシアは馬を巧みに操り、颯爽と立ち去った。
(いい人だったな……)
「ジャックさん、心配はいらないわ。わたくしと貴方ならきっと辿り着けるわよ」
去り行くアリシアの小さくなる背中を見すぎたせいか、コーネリアが気を遣って声をかけて来てくれる。そんな彼女に申し訳なさを感じて苦笑いした。
「何かすいません。えーと、取りあえず城壁の中に入りませんか?」
「ええ、そうしましょう」
衛兵に声をかけると、アリシアが自分達が不審者ではないと伝えてくれていたようで、すんなりと通された。
夕暮れ時の街の中は、労働を終えた人々や店の呼び込み、歩き売りの商人達でごった返していた。
肉の生臭さや酒の臭い、体臭等が混ざり、この中にいると気分が悪くなりそうだ。
この人ごみの中苦労しながら宿屋を探しあて、2部屋キープする。
それぞれの部屋で少し休憩した後合流し、宿屋の1階にある食堂に降りて行くと、既に混雑していた。
未来から来た貴族と元王族という、異色の組み合わせであるため、この時代の庶民料理にどの様な種類の物があるのか見当もつかない。しかしそれは隣の席に並ぶ料理を指さし、同じものを頼む事で解決した。
運ばれて来た肉料理は、パンの上に乗せて食べてみると、控えめに言っても最高だった。
「お2人さん姉弟かい? 何か雰囲気が似ているねっ!」
隣の席に座る丸い鼻のおじさんが機嫌良く話しかけてくる。
さっきこの人のテーブルを指さしてしまったから、こちらに興味を持ったのかもしれない。
男女2人(と鳥一匹)なのに全く恋人同士に思われないらしい。
「まぁそんなところです」
ジャックがおじさんにそう返すと、コーネリアがフフッと笑った。ジャックと同じような事を思ったらしい。
「ジャックさんて元の時代で恋人がいそうね」
「いえ……、恋人はいないですね。でも親しくしてる女友達ならいます、凄く生意気で、いじっぱりで、何ていうか……見てると可愛くて」
(……げ! 何喋ってんだ俺!)
ボロボロと思ってる事が垂れ流し状態になり、焦る。ジャックはこれ以上口が滑らないようにエールを豪快に飲み込んで、自らの口を抑え込んだ。
「その人に恋してるみたいね」
『恋』という単語を何年か振りに聞き、ジャックの背には盛大な汗が流れ落ちる。
「それは……ないですよ。だってその子、未来のこの国の王様ですからね。もし俺達の関係が変わる事があるなら、それは主従関係だと思うんです。だから恋愛感情とかとても……」
コーネリアを適当にはぐらかそうと思っただけなのに、話し出すと、これは案外自分の本音に近いような気がした。自分と彼女の関係について考えると思考停止になるのは、再び傷つかない為の防衛本能かもしれない。
ヨウムの顔がこっちを向いてる気がしたので、そちらに視線を落とすと、つぶらな眼がジッとジャックを見つめていた。
(ヨウムって、どのくらい人の言葉を理解できるんだろうな。あんまシエルについての事は聞かれたくないかも……)
「身分なんて、関係ないわ! そうやって抑え込まずに、あたって砕けろって精神で向かい合ってみればいいんじゃないかしら!」
「コーネリア様の言い方、妙に実感籠ってるように聞こえますね。身分差の恋は実体験なのでは?」
「ん~、そうね。これからローズウォールに戻って会う事になってるハーディングという男は、わたしくの恋人なの。その人はね、元々わたくしの護衛だったんだけど、猛アタックして落としたのよ」
(ハーディングって母さんの実家のファミリーネームと同じだな。まぁどこにでもあるような名前だけど……)
「でもわたくしが王女じゃなくなったらもう女として見てくれなくなるかもしれないわね」
美しい憂い顔を見せるコーネリアに、なんと返そうかと少し悩む。
「女をランクでしか見ないような男なら、別れるのもありかもしれないですけどね」
(げげ!! 何てことを……)
口を抑えるものの、時すでに遅しだ。
コーネリアは吃驚した顔でジャックを見つめていた。
「そう! そうよね! ていうか、貴方も同じことが言えると思うわよ!」
(あああ……もしかしてループに?)
ジャックは頭を抱えた。




