おきつねさまと嫁入りの顛末
さて、自宅に帰るとすでに、本山での顛末は玉藻と睦月によって家族に告げられていた。
俺たちが夕食を、玉藻たちが稲荷寿司を平らげたあと、今後の対応に関する会合が広間で行われた。
議題は以下の点である。
1.俺の嫁取りの結果、生じる本家跡継ぎ問題
2.玉藻、睦月、常時具現化に関する今後の対策
3.俺と睦月のお披露目とその時期
上座に玉藻が座り、脇に祖父母と両親、オブザーバーとして桔梗が控える。
俺と睦月は玉藻の正面に並んで坐らされている。
玉藻の視線が痛い。おそらくとんでもないことをしでかしたと俺を責め立てるつもりだろう。
しかしながら・・・。
ふふふふ、玉藻よ。すでに根回しは済んでいるのだ。ここが俺の断罪の場になることは決してありえないのだ。
玉藻の思惑を超えて、淡々と会議は進行する。
俺と睦月の結婚により、俺の子供が八代家の跡目を継ぐことは出来なくなったが、従姉妹を養子にして婿をとり、一家の存続を図ることが祖父と父の提案で全会一致で決定。
玉藻、睦月常時具現化の対策は、睦月の話しにより神力により、耳と尾を隠すことが出来ると判明したため、今後の行動は神使たる俺に一任。
俺と睦月のお披露目は親戚が集まるお盆の席で、式と披露宴は旧暦の10月10日、神無月にと祖母と母の提案で決まった。
この会合に先立ち、俺は手を打ってあった。
夕食前に、本会議における被告人である俺は睦月とともに有能な弁護士である母と祖母に京都の土産としてかづら清の椿油を渡す。これは睦月の心配りと伝えて。
そして睦月に上目遣いに言わせる。
「お母様、お婆様」と
母と祖母は敢無く陥落。これで俺の弁護は完璧となった。
続いては検事の懐柔である。
夕食前に、祖父と父を呼び出し、頭を下げる。
「我が代にて八代家を断絶するわけにはいきません。ついては、従姉妹の千春、千夏、千秋、千冬 四姉妹のいずれかを養子とし、婿をとることで、八代本家の存続を願いたい」
俺は頭を下げ俺は神妙な顔で言葉を続ける。
「八代家の跡は継げませぬが、じっさまと父様にお誓い申し上げます。我が嫁、睦月と共にケモミミ、尻尾モフモフの孫の生誕をお約束致します」
祖父と父は満面の笑みを浮かべる。これで検事は落ちた。俺の勝利である。
会合のあっけない終了とそのネタ晴らしに。
「か〜〜〜〜っ、なんという悪辣な策略、神代も恐れぬ所業」
玉藻が叫ぶ。
「まあ、この程度で将門が窮地に陥るなんてありえないしね」
幼馴染はわかってらっしゃる。
「曽孫」
「孫」
「子供」
祖母、母、睦月、各々がつぶやき、遠くを見つめる。
「ふもっふ」
「男かの~、娘もええのう」
父、祖父もつぶやくと遠くを見つめている。父、なに言ってんの。
お〜い帰ってこい。
「われ、ほんとにこの一族、加護せねばならんのか」
玉藻はがっくりと畳に手をついた。
お盆まで三週間、今年は初盆ではなかったため準備はそれほどではなったが、俺と睦月のお披露目のため俄然忙しくなった。
祖母と母は毎日、出入りの呉服屋を呼びつけては衣装の注文を繰り返している。
神力で、衣装を変えられると言っても、『そういうことじゃないのよ』『これだから男は』と祖母と母に冷たい目で見られた。
まあ、睦月もまんざらではなさそうだからよしとするか。
睦月は牡丹柄の黒引き振袖が気に入ったのか、牡丹柄の生地を吟味している。祖母と母にも好評のようで、これでお盆明けのお披露目に臨むとのことだ。
祖父と父は、屋敷のお社の脇に摂社を作り始めた。三つ並んだ形で、俺、睦月、まだ生まれぬ子供用らしい。八月に入ったとたん出入りの工務店が工事を始めた。どんだけ気が早いのよ。
いつものお盆の仕出しに加えて、お披露目の仕出し。いつも頼んでいる料理旅館の板前との打ち合わせになぜか玉藻が参加して、献立から品数、提供する酒の種類まで監修し始めた。もっとも試食という名のつまみ食いが目的だろうが、その真剣な取り組みを見るとフードコーディネーターにでもなるつもりか?
そろそろ、玉藻と睦月をつれて、美味いものでもと考えてた矢先、近くの温泉郷で代々老舗旅館を営んでいる高校時代の同級生から、旅館リニューアルオープンお知らせの葉書が届いた。




