おきつねさまと神使の修学旅行
せっかくホテルを取ったのだ。早々にお山でのお勤めを終わらした俺と桔梗はかつて行くことが出来なかった修学旅行をこの機会に敢行することにした。げに持つべきものは行動力のある幼馴染!
明日は丸一日、最終日は2時頃まで時間が空く。
話し合って簡単なスケジュールを決める。桔梗の公共交通機関の使用と新撰組関連の観光を望む主張と、俺の効率重視のためのタクシーチャーターと修学旅行の定番観光の主張が激しく対立したが、スポンサーである俺の意見が採用された。
すまぬ桔梗、次回は壬生寺行ってやるから。
翌日は朝一で岩清水八幡宮を詣でた。もっとも服装は神使や巫女の衣装ではない。そのせいか神社の敷地に入ってもあちらの世界に飛ばされることはなかった。
定番の観光地ではなかったが、礼儀上も恩義上も信義上もここは外すわけにはいかない。
俺は二度と鳩を食べない旨、八幡大神に誓った。
あれ、喰ったことなかった。
今後は、エジプト料理とフランス料理、中華料理に注意だな。
桔梗は、最強・・・・、得物・・・・などと不穏当な言葉を発している。何を祈願しているんだ。
その後、宇治へ。宇治上神社と平等院鳳凰堂を見学し、JR宇治駅前にある中村藤吉本店で、俺はきつね茶そばと中村茶のセットを、桔梗は生茶ゼリィと薄茶のセットに単品で蕨餅と葛きりを頼む。何その甘いもの地獄。
その後、東福寺、泉涌寺、三十三間堂をみたところでタイムアップ。
東福寺は庭が見事。
泉涌寺は塔頭で楊貴妃観音なるものを見たが、玉藻と睦月には遠く及ばなかった。
夏の日が長いとはいえ、京都のお寺が閉まるのは早い。幸い三十三間堂は5時まで開いていたので、なんとか間に合った。
我が幼馴染は、通し矢ができないか真面目に尋ねていた。お前、弓までできたのか。
夕食も本来は、玉藻や睦月を連れてくるための店探しに挑戦したかったが、ほとんどが予約制の上、一見さんお断りであったりして、ホテルで済ませることとなった。
この時期なら鱧、貴船あたり右源太、左源太の川床に行きたかったが、距離的にきつい、悔しい。
我が幼馴染は大市のスッポンを所望してたが、さすがに当日の飛び込みは無理だった。そんなに精をつけてどうする。
翌日は荷物をまとめ、朝6時からチャーターしたタクシーで清水寺に向かう。地主神社? 何それ、睦月という嫁を得た以上、俺には不要だ。
朝食を取りに烏丸御池に近いイノダコーヒー本店へ向かう。俺も桔梗も注文は京の朝食だ。ここのコーヒーは変わっていてすでにミルクと砂糖が入っているはずだったのだが、注文時に砂糖とミルクいかがいたしますか?と聞かれた。情報が古かったか。クロワッサンがバリバリとテーブルクロスを汚しまくったが、ハムが旨い。ここは是非、玉藻を連れてきたいところだ。
その後、昼食の時間も惜しんで、定番の銀閣寺、金閣寺、龍安寺、二条城とまわる。
銀閣寺で、銀沙灘と向月台を見た時、なんとも言えない悪寒が全身を貫いたのだったのだがなんだったのだろう。
おかげで夏にもかかわらず、西源院で湯豆腐が食べたかった。
玉藻や睦月のために、前日の夜、銀閣寺から金閣寺に向かう途中の出町柳の中村屋の稲荷寿司を予約しようと思ったのだが、さすがにこの夏の暑さだ、持って帰るまでの時間を考えると不安を覚えて止めることにした。
また龍安寺の石庭を見ながら、幼馴染が我が小宇宙がなどと厨二病全開の台詞を吐いていたが聞かなかったことにした。
俺は水戸光圀公寄贈の知足の蹲を見れてご満悦だった。もっともそれがレプリカだったと知るまでだが。
これ以上時間を取るとお土産を買う時間がなくなるため、ここで観光を切り上げる。
御所、嵐山、大徳寺、妙心寺、南禅寺、大原、行きたいところがたくさんあるが、まあ、後のお楽しみにとっておこう。そうだ、白峰神社や北野天満宮も行きたい。あれ、なんで俺寄らなかったんだろう。国宝1号は広隆寺だっけ。
玉藻は都はもう大丈夫だと言っていたが、さすがに清明神社はダメだろう。
二条城から京都駅に向かう際、桔梗がタクシーの運転手に言う。
「かづら清六角店へ」
おいおい、時間が。
「あんた睦月ちゃんにお土産買ったの?」
真剣な幼馴染の眼差しに気圧されるように黙る。
「あんたのことだから浮かれまくって何も考えていないんでしょ」
私に任せなさい。
ああ、やはり俺は桔梗に頭が上がらないな。
その後、俺の懐から福沢諭吉先生が10人以上旅立った。
JR京都駅にある京都伊勢丹の地下1階と2階でお土産と弁当を買い込む。
お土産は満月の阿闍梨餅。
桔梗はキャリーケース一杯に詰め込んでいる。どんだけ買うの。
弁当は奮発して、桔梗には紫野和久傳の二段弁当と自分には泉仙の六角弁当を買い込む。二段弁当のご飯の上には薄切りの鯛が一面に敷き詰められている。
相変わらず自由人な桔梗は何やら泡の出る飲み物を手にしている。
そして、のぞみに乗り込むと一路、東京へ。
東京での乗換えを利用して、グランスタの豆狸でわさびいなりと五目いなりを買い込むと、玉藻と睦月が待つ自宅へと向かった。
そう、俺は浮かれて、考えていなかった。玉藻と睦月、神代のものと一緒に神社仏閣がひしめき合い、魑魅魍魎が住まう都を旅することの意味を。
そう、確かにこれは俺にとって平穏な最後の旅となったのだ。
帰宅早々、睦月に責められた。
「だん・・、いや、八代様、なぜに誘ってくだされなかったのですか?」
あれ、呼び方硬いよ。いやその上目遣いやめて、罪悪感半端ないから。
「いや、その、ほら睦月とは、あ〜邪魔なく二人で行きたいと思ってな〜 あれだ、新婚旅行ってやつだ。それとこれ、睦月に似合うと思う」
桔梗に勧められた店で購入したかんざしとつげ櫛を差し出す。ともに牡丹があしらわれている。
睦月の顔がボンっという音が本当に聞こえてきそうな勢いで真っ赤になる。はい、撃沈。
帰宅早々、玉藻に責められた。
「せっかく具現化できるのなぜに誘わなんだ」
「いや、あれ、玉藻美味いもの食べたいよね。京には今、祇園といいうところがあってな、懐石なる美味な食事をだすところがあるんだが・・・」
「だから、そういうところに連れていけと言うておるのじゃ」
玉藻の発するオーラが半端ない。
「今の都には、まあちょっと変わったルールって、ああ、ルールって決まりごとのことな。そういう店って大体一見さんお断りと言ってすぐに行っても入れるでなし、予約するにも誰かの紹介が必要になるんだが・・」
「そんなもの関係あるまい。われ神じゃぞ」
いや、無駄に胸張るとこじゃないし。
「ああ、もし玉藻がいきなり店に行って断られたとする。玉藻は商売繁昌の神様だろう。そんな神様を粗略に扱ったらその店はどうなる?」
俺は皆に問いかける。
玉藻と睦月、桔梗が顔を見合わせる。
「潰すな」
「潰れますね」
「潰れるな」
玉藻、睦月、桔梗の意見が一致する。
「祇園どころか都の一見さんお断りの店が軒並み潰れるわ。それでどうやって店予約しろっていうの。俺みたいな若造に伝手なんかないぞ。さすがにこれだけは考えてもどうなるってレベルじゃない」
「何の策もなしに玉藻を京都に連れいていけば、別の意味で都が呪にまみれるぞ」
俺の言葉に皆、押し黙る。
我が一行の京都旅行が無期限延期となった瞬間だった。




