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11人目の側妃  作者:
第3章 前向きに
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 それからすぐに、授業の準備に取り掛かった。

 子供相手である。しかも、既に外国に対して苦手意識を抱いている。

 大切なことは深い内容ではない。わかりやすさ、そして、苦手意識の克服。

 ジュリアに指示して、色紙とはさみと糊を用意してもらった。

 そして2日目。午後の休憩時にデュークが様子を見にやって来た。

 「張り切っているな」

 世界地図が完成し、今度は別のテーブルで船を作っているところだった。立ち上がろうとするリリーを制し、隣の椅子に腰を下ろす。

 「器用なものだな。全て手作りなのだろう?」

 「ありがとうございます」

 いくつかある紙の船を1つ持ち上げて、感心している。

 リリーを見つめ、微笑む。

 「明日が楽しみだな」

 近距離での笑みは、心臓に良くない。顔が熱くなるのを感じながら、リリーはさりげなく視線を泳がせる。

 「ええ。でも、デューク様は見に来ないでくださいね。緊張してしまいますから」

 「何を言う、見物に行くのは当然だ」

 「いいえ、困ります」

 行くの行かないのと押し問答がしばらく続いたが、結論を出す前にリリーは話題を逸らした。

 「そういえば!」とわざと大きな声を出し、手をポンと叩く。

 「町のはずれにあった孤児院を移築するそうですね。もうすぐ完成するとか」

 実家に里帰りしている時に耳にした情報だ。

 「あ、ああ。不便な場所をどうにかして欲しいと陳情が来ていたからな。王宮に程近い場所に移すが、それがどうした?」

 不可解そうな顔をするデューク。話の意図が読めない。

 そんな彼に向って、ニッコリと微笑む。

 「移築のお祝いに、チャリティーバザーを行っても宜しいですか?この孤児院に限らず、こうした施設はこれまでも資金を賄うことが難しく運営が厳しい状況だと聞いています。バザーで得たお金を元に、基金を設立するのはいかがでしょう」

 部屋の隅に山積みにされた段ボールに視線を移し、「荷物も有効活用できます」と付け加える。チャリティーのためだと言えば、送り主たちも悪くは思わないだろう。30羽を超えたウサギたちも喜ぶに違いない。

 デュークは「参ったな」と言いながら、肩を竦めた。

 「良い案だ。これまでの王は国の強大化に注力してきたが、これからは弱者のための施設、そうだな、病院や学校についても考える余地がありそうだ」

 「こんなに沢山の贈り物をなさる家臣の方々ですもの。贈り物の代わりに基金への寄付をお願いすれば、あっという間に集まると思いますよ」

 「我ながら名案!」と得意げに胸を張る。と、次の瞬間にデュークが噴き出す。大きな声で笑う。

 「何がおかしいのですか?」

 半眼で問うリリーに背を向け、肩を震わせて笑い続ける。やっとのことで笑いをかみ殺している。

 「お前、余程荷物の処理に困っていたんだな」

 「それは、もう」

 控室はとうに埋まり、リビングにもだいぶ箱が積み上がっている。未だに健気に贈り物を続ける家臣の執念には感服する。

 視線を落とす。手のひらの中には、作りかけの船。

 「まずは自分に出来る範囲で、困っていることを解決しようと決めたのです。以前の私だったら、孤児院の話も聞き流していたと思います。自分には関係のない話だと。贈り物も処分できず、モヤモヤしていたことだと思います」

 いつの間にかデュークがこちらを向き、真面目な顔で耳を傾けている。

 「ですが、関係のない話等無いのですよね。私は3年もここに居て、何もしてこなかった事を後悔しています。今の立場を使えば、解決できる問題は意外と沢山ありますもの」

 顔を上げる。まっすぐにデュークを見据える。

 「これからはデューク様という後ろ盾もありますし、少しはこの国のお役に立てると思うのです」

 王妃候補が偉そうにと笑うだろうか。いや、彼はそんなことはしない。

 デュークはそっとリリーの両手に自らの手を重ねた。触れた部分が、熱い。

 柔らかく双眸を緩める。心底嬉しそうに。

 「さすがは俺の妻になる女だ」

 満足げな彼の声。瞳に歓喜の色が浮かんでいる。

 「王妃になる自覚が出てきたようだな」

 逸らすことを許さない強い力を秘めた瞳に捉えられ、リリーは小さく頷いた。

 正直自信はない。だが、与えられた環境の中で精いっぱいできることをやる。それを認めてくれる人が1人でもいればいい。

 不意に、デュークが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 「俺に惚れたか?」

 「ち、違いますっ!」

 即答し真っ赤になるリリーに「そんなに照れるな」と言いながら、デュークは立ち上がった。

 「チャリティーバザーと基金の件、議会に話を通しておく。そのうち関係者から連絡が入るだろう。宜しく頼む」

 「ありがとうございます」

 慌てて頭を下げるリリーに、

 「お前はそうやって活き活きとしている方が似合っている」

 と言って髪をクシャクシャと撫でると、ドアへと向かった。部屋を後にする。

 「もう!」と頬を膨らませる。デュークには振り回されてばかりだ。

 だが、嫌ではない。

 デュークに撫でられた髪に触れる。握られた手を見つめる。

 温もりを思い出すだけで、胸が高鳴る。

 「やっぱり否定しなかった」

 リリーの拙い意見でも、デュークはきちんと聞いてくれる。頭ごなしに否定はしない。

 王族として不遜な態度をとることもない。リリーの前以外では。

 「本当に惚れてしまったらどうしよう」

 色付いた頬を押さえながら自らに問いかけるが、時既に遅し。

 必要なのは、自覚のみ。

 進言できた充実感と恋の予感を覚えながら、リリーはフフフッと笑った。

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