表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11人目の側妃  作者:
第4章 婚約者の決意
13/18

 言葉の通り、朝からリリーの周囲は慌ただしかった。

 いつもより早く起きて支度をし、孤児院へ向かう馬車へと乗り込む。

 今日はメリルとカインも一緒だ。

 デュークが2人に城外を観察させようと提案したためだ。珍しいのだろう、車窓に顔をくっつけて街並みを真剣に見ている。

 ジュリアは別行動で、搬出物と一緒にトランクを城外へ持ち出し、こっそり門の陰に隠す。上に落ち葉を掛ける念の入れようだ。

 新築された孤児院には、リリーは何度か足を運んだ。打ち合わせのためだ。

 「あ、リリー様だ!」

 子供たちが集まって来る。すっかり懐かれてしまった。リリーは子供に好かれる才能があるらしい。

 カインはあっという間に子供の輪に入り、メリルはなかなか一歩を踏み出せないでいる。

 レンガ造りの建物の裏には芝の広い庭がある。バザーを行う場所だ。

 庭に向かうと、リリーからの提供物だけでなく、既に多くの品物が広げられていた。書状を読んだ貴族からの寄付だ。

 「お姉様がいらっしゃったわ」

 大きく手を振る末妹の姿を見つける。メリルを引き連れて向かうと、近くには両親や兄も集まっていた。

 娘からの書状を読んだ父コンベルト卿は、誰よりも早く寄付を約束してくれた。金額も品物も、リリーが心配になってしまう程だ。

 きっとリリーに頼られたことが嬉しかったのだろう。

 朝早くから家族総出でやってきて、バザーの準備をしているコンベルト家。リリーはこの家族が大好きだと改めて思う。同時に、迷惑を掛けてしまったらと思うと、胸が痛い。

 「メリル様、私の家族です。末妹のメリーはメリル様と3つしか年が離れていませんし、良かったらお話してみてください」

 「初めまして、メリル様」

 スカートの裾を持ち上げ、ちょこんと挨拶をする。おどおどしているメリルを余所に、メリーは「あちらの花壇の花を見に行きましょう!」と言ってメリルの手を掴むと走り出してしまった。

 「大丈夫かな」

 「きっとすぐに仲良くなれるわ」

 2人の姿を見送ると、不意に父が顔を曇らせた。

 「リリー、顔色が良くない。何かあったのか?」

 心配そうな父。娘のことに関しては、誰より鋭いのは昔からだ。

 リリーは内緒話をするように、小声で伝えた。

 「何があっても、私を受け入れてね? お父様」

 「当たり前だ」

 心外だと言わんばかりに眉を上げる姿を見て、安堵する。今夜突然家を訪れても、きっと受け入れ、匿ってくれる。

 「さあ、そろそろ他の準備も見て回らなくては。また後でね」

 リリーは家族に手を振ると、建物の方へ向かった。新築の孤児院はレンガ造りで、2階建て。屋根の上にはサンタクロースが入れそうな煙突が立っている。

 ちょうど入口からデュークが現れた。

 忙しいのなら無理をしなくて良いと言ったのだが、デュークは参加するといって聞かなかった。宰相が肩を落としていた姿が忘れられない。

 折角なので初めに挨拶をお願いした。国民を大切に思っている彼をアピールするには持って来いの場だ。

 「宜しくお願いします、デューク様」

 深々と頭を下げると、デュークは驚いた顔をした後、リリーの髪をクシャクシャと撫でた。

 「何を改まっているんだ。国王を使うのは、王妃の権限だろう?」

 「けじめです。それに、まだ王妃ではありません」

 「お前は相変わらず真面目だな。またけじめか」

 苦笑するデューク。リリーはぷいと顔を背けた。

 ぽんぽんと頭に手が置かれる。

 「そう怒るな。律儀なところも、嫌いではない」

 デュークはずるい。言葉1つでリリーを喜ばせてしまうのだから。

 胸の奥がチクリと痛む。

 わざとブンブンと頭を振り、冷静を取り戻す。

 「今日が最初の一歩ですから、頑張ります」

 「ああ」

 不敵に微笑む。リリーが好きになってしまった笑顔。

 でも今は、見ていることが辛くて、そっと顔を逸らす。


                     ☆

 

 国王が訪問しているという噂は街中に広がった。

 笑顔の貴公子が降臨したお陰で予想以上に訪問者数が伸び、午前中から品物が飛ぶように売れ、あっという間に庭の芝生が姿を現した。

 派手な羽付き帽子やビーズの手鏡も、1つ残らず売れていった。リリーとジュリアは密かにほくそ笑んだ。

 その内に全ての品物が完売し、孤児院の代表がデュークを呼びに来た。

 予定より早く、移築のお祝いセレモニーが始まる。

 用意された小さな舞台の上。

 デュークは飛びきりの笑顔を浮かべた。卒倒した女性数名は、事前に用意しておいた救護室へ運ばれていく。想定の範囲内だ。

 国王陛下の言葉に、皆が静かに耳を傾ける。

 脇で様子を伺っていたリリーは、人知れず感動していた。

 デュークの挨拶は、誰にでもわかりやすく、敢えてすんなりと聞けるような言葉を選んでいた。国民を、特に弱者を大切に思う優しい国王。その場に居る全員に彼の人となりと意思が伝わったに違いない。

 デュークならば、きっと歴代の王よりも優れた王になる。

 リリーが確信したその時、一瞬だけデュークが悪戯に微笑んだ気がした。そうかと思うと、突然舞台脇にやってきて、リリーの腕を掴み舞台の上に引っ張り出してしまった。

 驚きのあまり、目が点になってしまう。想定の範囲外だ。

 「今日のこのセレモニーとバザーを提案し、尽力してくれたのは、ここにいるリリーだ。皆、労いの拍手を送って欲しい」

 盛大な拍手を受ける。戸惑い、茫然としてしまう。

 デュークを見ると、「良くやった」と言葉を掛けながら、拍手を送ってくれている。

 功労者であるリリーへの、彼なりの賛辞。最高の賛辞だ。

 全てはリリーを信頼し、任せてくれたデュークのお陰だというのに。こんな華やかな場で称えてもらえるなんて。

 デュークは、優し過ぎる。

 集まった多くの人々の視線を一身に浴び、リリーは目頭が熱くなってきた。

 頑張って良かった。

 涙を堪え切れなくなり、リリーはただ深々と頭を下げたのだった。


                     ☆


 「凄い! 予想以上の収益だわ!」

 届けられたリストを見て、リリーは歓喜の声を上げた。

 バザーもさることながら、寄付金も大きく増えた。来場した人々が、品物が売り切れたと知り、基金へと寄付をしてくれたからだ。

 自ら客寄せパンダになるために、デュークは無理を押して参加してくれたのだろうか。その可能性は高い。

 それに彼の完璧な挨拶が人々の心を動かし、多くの、特に女性からの寄付を増やした。

 きっと第2弾、第3弾を開催しても、今回と同様の成果が得られるに違いない。

 自ら企画ができないことは残念だが、せめてお客さんとして協力はしよう。心の中で固く誓う。

 片付けを終え、辺りを見回す。

 カインは少年たちとボールを投げ合って遊んでいる。メリルとメリーはすっかり仲良くなって、何やら話に花を咲かせている。

 「帰るぞ」

 デュークが声を掛けると、カインとメリルは残念そうな顔をした。駆け寄って来た2人に視線を合わせながら、「また来ればいい」と頭を撫でる。

 素直に頷くと、それぞれの新たな友達に手を振り、馬車へと向かう。

 帰りはデュークも同乗だ。

 「ほら」

 馬車の入口で振り返ると、リリーに手を差し出してくれる。紳士らしい、洗練された動き。

 手を取ろうとしたが、リリーは躊躇し、止めた。

 「リリー?」

 代わりに、デュークに向かって深々とお辞儀をした。

 「ありがとうございました」

 何をと問われても、沢山のことがあり過ぎて答えられない。

 王宮に移ってからの短い日々、彼の優しさがどれ程温かかっただろう。気遣いが、嬉しかっただろう。

 こうして面と向かう機会も、もう無いかもしれない。

 金色の輝く髪も、スカイブルーの澄んだ瞳も。意地悪な笑顔も。

 決して忘れない。

 これが最後だ。

 リリーは満面の笑みを浮かべ、自ら馬車に乗り込んだ。

 エスコートを断られたデュークは、不満げな顔を見せつつも、すぐに後に続く。

 4人を乗せた馬車は、ゆっくりと王城へ向けて動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ