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ネーミングセンスは鍛えることが出来るのか?

「おお、ビット少年が勝ったのか」

 右手に長剣、左手に杖を構えたビットがドヤ顔で立っていた。

 その足下には少し焦げの入った杖男が。

 これは油断した背中をぶすりといく案が不可能と成ってしまった。まあ代案はいくらでもある。

「もちろんだ。そして、お前にも勝つ」

 長剣の切っ先を向けられるという古典的な挑発にも動じず、状況の整理を行う。

「なあ、お前も帰ってくれないか? ここ以外にも良い就職先はあるって。世の中広いだろ?」

 実は、この台詞は諸刃の剣になる。

 相手が「それはお前も同じ事だろ?」と返してくればぐうの音も出なくなるわけだが、ビットは少々おつむの出来が悪いのかそれには気付かなかった。

「何を言う! エルマ様の護衛ほど名誉な仕事は存在しない! 俺はこの日のために鍛錬を続けてきた!」

「えー。何でそんな事を言うのかなこいつは。そんじゃあ悪いんだけど、ちょっと待ってくれ。話さなきゃいけないことが出来たから」

 両手を上げてタイムを促してみた。従わぬならサイコキネシスを行使したが、どうやら認可してくれるようである。

「……仕方無い。すぐ済ませろよ」

 ともかく許可はもらったので、エルマの元へ駆け寄った。離れているといえど小走りで駆ければすぐに面と向かい合うことが出来た。

「なあエルマ」

「……何よ。今戦闘中でしょ? こっち来ないでよ危ない」

 エルマはしっしとあっち行けのジェスチャーを起こした。

 周りにいるキュリア家の面々は目を丸くして会話の流れを聞き取っている。

「俺よりもあいつを護衛に立てた方がよくないか? やっぱり仕事に大切なのは」

 熱意だろ、とは続けられなかった。

「実力よ」

 と世紀末論が飛び出してきたからだ。

「お前きっついな。それじゃああの少年の熱意はどうなるんだよ。それにたぶんあいつもそれなりなんだろ? 長剣持ってるなんてかっこいいじゃねえか」

「あの熱意は他のことに向けて貰うわ。それと長剣が欲しいのなら家にあるやつあげても良いわよ。いる?」

「……いらねーよ」

 ということになった。

 非常に嘆かわしいことだがこの世界では「ふっはっは! 力こそすべてだぁ!」が合い言葉となっているらしい。

 なんという世界、と嘆息を漏らしながら戦闘定位置へ舞い戻る。

「ふっはっは! 力こそすべてだぁー、とお達しがあったので戦闘解禁で」

「ふ。こちらはもとよりそのつもりだ」

 そう言ってビットは剣を構える。杖は腰のなんぞやにしまった模様だ。

「お前、魔法は使わないのか? 魔法を使うのには杖が必要なんだぜ?」

 お聞きになれたであろうか?

 神宮の頭のあたりから発せられた”どやっ”という音を。聞こえなかったかそうか。

「お前のようなひ弱な者に魔法を使う必要は無い。我が剣のみで貴様を粉砕してやろう」

 このファイティングスピリッツを一ミクロンでも日本に持ち帰れたら、日本はどう変わるだろうか。

 まあ至極当然真っ当必然に、何も変わらないだろう。

「いくぞ!」

「どこに?」

 神宮の恥ずかしい突っ込みを半ば無視してビットは剣を構えながら突進してきた。

 だがここで「ほえー」と惚けてそのまま攻撃を受けるわけにはいかない。

「ほ」

 一歩もその場から動かず、イメージを固める。

「なっ!」

 同時にビットは庭を駆けるのを止めて立ち止まった。

 長剣にサイコキネシスを行使し、手から抜き取ったのだ。

「我がフレイムソードが!」

「ぶっ! フレイムソードって!」

 安直すぎる。小学生が考えそうな剣の名前だ。いや今時の小学生だってもっとマシなネーミングセンスを有しているだろう。

「ほらほら。お前のフレイムソードは俺の手中だぞ~。やーい、返して欲しかったら降参しろー」

 フワフワとサイコキネシスで飛んできたフレイムソード(笑)を弄びながら、これまた小学生が言いそうな文句を言ってやった。

「貴様、そんな顔して魔法使いだったとはな。少し見くびっていたぞ」

「え? フレイムソード(笑)のくだりもうおしまい?」

 神宮がフレイムソード(笑)をまじまじと観察している内に、ビットは腰のなんぞやから杖を取り出していた。どうやら魔法戦に突入するようである。

「お前、フレイムソード(笑)が泣いてるぞ。もっと構ってやれよ」

 言い終えてからフレイムソード(笑)を地面に突き立てる。

 使う必要が無いからそのような行動を取ったわけだ。

「フレイムソードはお前を倒してから回収するさ。炎よ!」

 性懲りもなくビットは炎の魔法を行使した。先ほどと同じように炎が一直線に飛んでくる。

「じゃあ土よ!」

 神宮もこの小っ恥ずかしい小芝居を打つことにした。涙溢れる配慮である。

 ともかく何をしたかと言えば、土の壁を作っただけだった。

 サイコキネシスですぐ真下の土を掘り起こし目の前に壁の形で固定。形が崩れないように周りの固定化も忘れない。

 炎にそこまでの威力が無かったのか、土の壁にぶち当たると炎はあっさり消滅してしまった。

「お、俺の魔法が、効かないだと?」

 と叫びながらも炎の魔法を行使し続けている。

 が、全て土の壁に当たると消滅してしまった。非常に居たたまれない。

「……なあエルマ。これもう勝負ついただろ。これ以上私のために争わないで! って言ってくれないか?」

 声を大にしてそう言った。

 もちろんエルマに届いていたはずなのだが、エルマは何の返事も返さなかった。

 いや、正確に記すのならば、エルマは厳かに首を横に振った。

 認めぬ、の意である。

「……俺は悪くないからな」

 そう呟いてから、イメージを再構築する。

 すると土の壁がぼろぼろと崩れていって、各五㎝幅の球体になった。

 それらの塊は出撃を待つかのように宙に浮いている。

「ラストチャンスをやろうビット君。棄権してくれないか? 棄権したらこの子らとのランデブーは取りやめにしよう」

 チッと大きな舌打ちがエルマの方から聞こえた。

 どうやらこの警告すらもお気に召さなかったらしい。恐ろしき世紀末少女。

「……というのは夢物語だ。ごめんなビットとやら」

 両手を合わせて追悼の意を表す。

 その様子を見てビット少年は何か言いかけたが、聞かぬ。聞いたとてもう止められないのだ。

「ちょま!」

「ふっはっは! 力こそすべてだぁ!」

 神宮の台詞と共に、土の塊がビットに向かって飛翔していく。

 ヒットさせたのは三発。

 杖を持つ右手、腹、それと踏み込み足だった(斬りかかろうとしていたときに判断)左足に一発ずつ。

 腹にヒットしたのが大ダメージになったのか、ビットはその場に静かに崩れ落ちた。

 一瞬、中庭に静寂が訪れる。

「えーとさ」

 横たわるビットを一瞥してからエルマに向き直る。

 そしてこんな会話をした。

「悪いのって、エルマだよな?」

「違うわ。実行犯が悪いに決まってるわ。法律全書にもそう書いてあるもの。この世は智がすべてよ。そんな野蛮なことは言わないでちょうだい」

「……ですよね。悪いの俺ですよね」

 ふっはっは! 力こそすべてだぁ! は一時廃案となったようだ。

 その案が再び日の目を見る日はあるのか?

 確信を持ってこう記せる。

 あるね。


ということで投稿です。

批評は心苦しいですが、あればあったでタメになります。

感想なんかあったら嬉しいです。

それではまた夜に。

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