第四十四の問い「楽しい舞踏会の始まり始まり?」
ぽろり。
あたしの手にあるお皿から、大きめなお肉が滑り落ちた。
「……っわっと!」
超人的な反射神経で、あたしはお肉を床から約十センチのところで救出する。
ふっ……パーティーで豪華なお料理がいっぱいあるとはいえ、一枚のお肉も無駄にはできないな。
そう、今はクロードの言っていたパーティーの真っ最中。いつもよりきらきら光って見えるシャンデリアが会場全体を照らし、お花畑のようにドレスを着飾った女性たちが、いろいろな色のタキシードの男性と踊り、ゆったりとしたテンポの音楽が会場を埋め尽くす。まるで絵本の中の舞踏会。
……そんな中、あたしは血のにじむような練習をしたため、ダンスには自信が付いたが、なんだか誰とも踊る気はしなく、ただただ料理を食べる残念な女性になっている。
「……にしても憎いほどおいしいな、この料理」
「ランドも同感です」
「…………ッわあっ!?」
あたしの隣には、いつのまにか純白の膝丈ドレスに身を包んだランドさん。化粧が乱れるのも気にせずに、黙々と料理を口に運んでいる。
……隣に苦笑いを浮かべているジェル君がいるんだけどなぁ……。
「秀名ちゃん、久しぶり」
ひきつった顔で挨拶をしてくるジェル君。全身からランドさんと踊りたいオーラを出しまくっている。しかし、ランドさんはみじんも気が付いていないのか、あたしをガン見しながら、じゃくじゃくとサラダを口に運ぶ。
「……ランドさーん……ここ、何でしたっけ」
「舞踏会」
「……妙な読み方をしている気が……」
あたしがジェル君を困ったような目で見上げると、ジェル君は手を合わせ、ごめんと口パクで言う。そうだね、もう無理やりしか手段はないはず。
「楽しいお話の間ごめんね、ランドさん」
ランドさんの腕を引いたジェル君が、その場を去って行った。困惑しながらも楽しそうなランドさん。
……あたしも誰かと踊りたいなぁー……。
何のためにこんなドレス着てきたんだっつーの。ふりふりのレースがたっぷりついた、水色のドレスなんか。……恥ずかしいな、これ。
いっそのこと脱いじゃうか……?
「あの、ソウシさん」
肩が思いっきり震え、心臓が飛び上がった。
思わずその声がした方向を背に、料理を食べる手をペースアップさせる。
『君が、好きだ』
ああ、思い出してしまった……。あれからあたしは何も言わずに自分の部屋に逃げて、それから三日間、ずっとソウシを避けてるんだった……。きっと、ソウシももうあきらめてるだろう……。出もあいつはそんな根性なしか……? いや、なんでこいつのことなんかいやいや罪悪感っ! 罪悪感を感じているのだ、あたしはっ!
なんだか気になって、ソウシのいるであろう方向に顔を向ける。料理を探すふりをしながら。
「一緒に踊ってくださいませんか」
頭に綺麗なリボンのついたピンクのドレスの女性。あたしより明らかに年下で、灰色のタキシードを着たソウシとお似合いだ。
……ああもう、なんでこいつのことばっかり考えてるんだよっ!
Q、楽しい舞踏会の始まり始まり?
A、あーはいはい……。