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龍嬢  作者: 北村タマオ
第1章 黎明篇
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0001 日本で一番長い夜

 父に捧げる

 時代はAFTER・LOST・CHRIST、略してALと呼ばれる暦の世界の地球にて、1つの国が滅亡の危機に陥っていた。その暦が数えられてから1944年10月、極東の要衝・フィリピン諸島を巡る戦い、後の世に言うところのレイテ沖海戦にて、大日本帝国が世界に誇る連合艦隊が敗北し、南方資源地帯とのシーレーンを完全に失い、参加した艦艇の大半と数多くの優秀な人員を海に沈めていた。

 世界最大・最強・最新の戦艦「武蔵」、真珠湾奇襲以来戦い続けてから唯一生き延びていた空母「瑞鶴」。この2隻を失ったのは、大日本帝国がその歴史を終えた事実を結果にて現していた。

 その絶望的な状況から、日本海軍と関係が深い財閥からやってきた1人の女性と、その夫。この女性、夜鷹美雪は、後に「龍嬢」と呼ばれる女性達の系譜となるのである。その系譜、この夜鷹美雪を始めに。

 雷鳥弥。

 鶴野麗花。

 火鳥朱根。

 鷲鉄奈央。

 深紅希望。

 緑山湖町。

 紺碧花蓮。

 黄木麗。

 茜雲鈴。

 白滝沙樹。

 愛姫舞衣。

 白鳥末明。

 黒鳥恵美。

 ラブ・アオノ。

 ミキ・アオイ。

 イノリ・アオク。

 セツナ・アオキ。

 アコール。

 ビキーズ。

 エレーシャ。

 カーデル。

 ハナ・アオ。

 ノゾミ。

 ハナ・ガランサス。

 ハスナ。

 ミメル。

 リスタ。

 レイナル。

 ユリウス。

 アスエラ。

 イデア。

 ユニシー。

 アイラ。

 ユウラ。

 ラットン。

 アンキッス。

 クーシー。

 モッラ。

 夜鷹育子。

 夜鷹博志。

 エックス。

 夜鷹東馬。

 AL.1944の10月より始まり、AFTER・EARTH、略してAEと呼ばれる暦の10月まで続いた、地球の東の果てにある小さな島国が、宇宙開発に進出するところまで上り詰める龍の様な日本を支えたのは、彼女らと、それに協力した彼らの功績が大きい事は、万人が認めるところである。

 AL1944年の10月に、海軍省に夫と共にやってきた夜鷹美雪の前に、現れたのは、海軍大将・真上重則である。真上大将は、書類・写真・数字・文字、あらゆる形で編纂された資料の山を示して言う。

 美雪は、顔色も悪く、髪もぼさぼさ、お洒落も出来ていない。人見知りも酷い。世が世なら、ニートか引きこもりにでもなっていたかもしれない。しかし、夫との間には長男・長女がおり、妾や愛人を囲わない事を知れば、この夫が妻を大いに愛しているのは分かる。

 その美雪と夫に、真上大将は告げる。

「この資料全てに目を通して、奥方の意見を述べてほしい。明日、陛下を招いて御前会議を行い、今後の我が国の将来を決める議題を取り扱う」

 美雪は、夫の耳に顔を寄せて、ボソボソと話しかける。なんだ、そう言う関係か。そう思う真上大将に、夫は告げる。

「何で軍人でもない私に一任するのか。と、申しております」

「この海軍、どいつもこいつも馬鹿だから、潰れて当然なんだ、こんなクソ海軍、頑張っている連中には悪いが。遅すぎるくらいだ、潰れるのは。ゴミだ、この海軍は。ゴミ! ルーズベルトに潰されて、マッカーサーに片づけてもらえば良い」

 壁に耳あり障子に目あり、と言う格言をゴミ箱に捨てている発言である。常日頃、同僚に対する不平・不満・怒り・恨み・悲しみが、その言葉に込められて、全部仏になって現れる様であった。真上大将は、気が済んだ後で告げる。

「だから、君の細君に頼む。我が国の最年少で、そして唯一の女性の財閥の番頭を勤めた美雪殿であれば、本土決戦を避ける唯一の突破口になると信じている。部下にやらせても、信用出来る人間に任せても、みな周囲の目を気にして、本音が言えない。細君であれば、奇譚のない意見を聞く事が出来る。御前会議は、明日だから、今からやってもらいたい」

 また美雪が、夫の耳に顔を寄せて言う。

「承知した。と、申しております。美雪、僕も手伝うから。一緒に頑張ろうね」

 AL1944年10月、日本で一番長い夜が始まった。


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