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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第172話 代替わりの、稽古

戦支度の第二課は、姉妹の稽古だった。


課目————「代替わりの儀」の、予行である。


「復習する。儀の成立条件は、三つ」


頂の間。教官役のヴェイルが、指を折った。


『一つ。合い鍵の血筋が、二人。引き渡す側と、受け取る側。父さんと、私たち』


『二つ。起こしの韻。眠った灯を起こす拍。これは、そこの変な人間が、なぜか踏める』


「変な人間である」


『三つ。引き渡す側の、“同意”。……これが、最大の関門よ』


「同意、か。……止まったままでは、同意も、できんな」


『ええ。だから、順番はこう。まず、父さんが起きる。起きた、その場で————儀を立てて、番を、引き継ぐ。父さんの肩から、五十年を、降ろす』


「起きた直後の、疲れ切った父君に、いきなり儀は、酷では?」


『酷よ。……でも、それしかないの。番を背負ったまま起きたら、父さんは、また、座り直すもの。真面目な人だから』


「姉君。ひとつだけ、確認する。それは、術の決まりですか。それとも、父君の性分の読みですか」


『…………読みよ。父さんなら、また座る、という』


「ならば、支度はしておく。急かしはしない。……読みは外れることがあるが、支度は、外れても損をせん」


『……ええ。そうね』


「「「「…………」」」」


「親子そろって、真面目の使い方が、下手なのよね……」


『よく言われるわ。家系なの』


——稽古は、韻の合わせから始まった。


姉妹が、灯の器の前に並び、俺が、その半歩後ろに立つ。


『いい?貴方の拍に、私たちの唱和を乗せる。拍が乱れたら、儀は流れる。本番は、一発勝負よ』


「ふ。任せられよ。拍だけは、十年鍛えた」


「中二の間の取りが、まさか国家級の儀式に登用される日が来るとはな……」


「言っておくが、拍とは“間”だ。間とは、待つ勇気だ。詠唱で一番難しいのは、言葉じゃない。言葉と言葉の、あいだの沈黙で、逃げないことだ。……俺は十年、世界に無視されながら、間を取り続けた男だぞ。沈黙の場数が、違う」


『……変な理屈なのに、儀式論として、完全に正しいのが悔しいわね』


稽古、一回目。


「では行く。“眠りし灯よ、汝の五十年の忠勤に、漆黒の敬意を————”」


『拍に口上を乗せない!!』


「流れた!!一打目で流れた!!」


やり直し、二回目。今度は、ヴィクの唱和が、緊張で、裏返った。


「〜〜っ、ち、違う、今のなし!!父さん、今のなしだからな!!」


「本番一発勝負と聞いた直後に、娘の声が裏返るの、遺伝の予感がするわね」


「うるさい!!」


三回目。ようやく、俺の拍に、姉妹の唱和が乗った。灯の器の炎が、ゆら、と応える。


「今の、いい線だ。灯が、聞いてた」


『ええ。……でも、まだ足りない。本番は、この十倍の“重さ”が要る。五十年分の番を、受け取る重さが』


「————待て。報告が、一件」


俺は、手を上げた。


「三回とも、父君の特記が“停止”に戻っていない。透けっぱなしだ。……普段は、まばたき一回で閉じる。今日は、閉じない」


「「!?」」


「悪い兆しか、いい兆しか、どっちだ」


「分からん。分からんから、今、言った。……沙耶、地下へ」


「もう下ろしてる」


糸越しの返事は、短かった。


『軋みは、増えておりませぬ。……そのまま、お続けなされ。ただし、休みは、こまめに』


「聞いての通りだ。四半刻ごとに、休憩を挟む」


四回目と五回目は、通しをやめて、部分の合わせだけにした。頭から通すのは、姉妹の体にも、灯にも、重い。


なお、見学席にも、仕事があった。


沙耶は、一回ごとに帳面へ記録を取り(『通し、三回。部分合わせ、二回。流れた理由: 口上混入、唱和の裏返り』)、ひなたは、休憩ごとに姉妹へ湯を差し入れ、隼人は————窓の外の見張りである。


「外周、異常なし!!……なあ、俺も儀のなんか、手伝うことねえの」


「あるぞ。本番の日、お前の体が一番の警報機だ。疼いたら、叫べ」


「了解。————役割が“体調”なの、大陸で俺くらいだよな」


そして、夕方————一日ぶんの読みを、まとめて報告した。


「透けは、日暮れまで、一度も閉じなかった。読めた文言を、順に言う。“その拍は”。“懐かしい拍”。“まだ早い”。“お前たちには、まだ”。……そして、最後に、これだ」


俺は、一拍おいて、伝えた。


「“だが、上手くなった”」


「……先に言っておく。“まだ早い”は、承諾ではない。断りでもない。……あれは、まだ、こちらを採点している人間の言葉だ」


『…………』


「…………ふ、ふふ」


ヴィクトリアが、笑った。泣きそうな顔で。


「親父さん、聞いてるだけじゃなくて————採点までしてるぞ。俺たちの稽古を」


「見張り番の性でございますよ」と、階下から声がした(ばあやは糸越しに全部聞いている)。「旦那様は、昔から、姫様がたのお稽古を、柱の陰から見ておられましたでな」


『は、恥ずかしいから言わないで、ばあや!!』


「姉さんも柱の陰の常連でしたな」


「ばあや!!」


姉妹の抗議が、頂の間に響いた。見張り椅子の父君の特記が、透けたまま、微かに、揺れた。


“うるさい家だ”。


……悪態の形をした、それが、どういう種類の言葉か。俺たちの連中は、全員、知っている。俺たちの悪態は、いつも、そういう形をしているので。


観測日誌、本日の特記。


『代替わりの儀、予行三回。灯、応答良好。父さん、終日“透け”。採点あり(上手くなった、を頂く)。……起きる準備は、進んでる。あちら側でも』


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