第89話 職員室では慎重に
「そろそろ本腰を入れるべきだと思うの」
ユラはヤスチヨに向かいそう言い放った。なんの事かというと自身の寿命の事だ。ティグリスは残り僅かかもしれないと話していた。だからそろそろ元の身体に戻る方法を探すべきなのだと。ユラはそう確信した。
◆ ◇ ◇
ヤスチヨが向かったのは地下へと繋がる扉の前。そこには古代の魔法が保管されているとユラが言っていた。
「さあて、探索開始ですわ!」
そうとなれば早速とヤスチヨが扉に向かい鍵を開こうとすると後ろから大きな気配を探知する。まずい、見つかる。そう思ったが大きな気配は特に動きが見られない。なんだ大丈夫そうだ。そうヤスチヨが思うと再び鍵をこじ開けようと切磋琢磨する。するとやはり見つかったのか。いつの間にやらいた大きな気配の相手に声をかけられてしまう。
「……何をやっている」
「えっ!?ええっと……そのぉ……」
全く何事かと思いきやユラと契約を交わした魔物ではないか。とクロノスは呆れながら思った。ユラにはなるべくヤスチヨを学園内に飛ばさないよう注意を促しているのだが……やはり注意が足らなかったのか。今こうしてヤスチヨの姿がその目に映っている。しかもその場所にいたのは禁忌の図書室へと繋がる地下通路の扉の前とみた。全く困ったものだ。そう頭を抱えているとヤスチヨはその場逃げるようにこう答えた。
「い、いけませんわ……ワタクシ野暮用を思い出しましたの!!これから蝶同士のランチに出かけなくては……」
やれやれ困った生徒達だ。クロノスは頭を抱えていた。そうこのステファニー・ドゥ・モナ魔術高等学校には3人の問題児が存在しているのだ。頭を抱えても仕方がないだろう。1人は優秀だが授業態度に問題がある寝坊助のエル。2人目はライブ活動にかまけててなかなか授業に参加しないミオリオ。そして3人目は授業態度に問題はないがその強力な魔力のせいで数々の問題行動を起こしているユラ。その3人の面倒を見ているのだ。文句の1つや2つ言いたくもなる。まあ言った事はないが。
クロノスがそう思うが臆する事なく改めて気を引き締める。今日は長期休暇を終えた最初の1日だ。そう思うと何だか憂鬱にはなるが。泣き言を言う事もなくその日の授業を開始した。
◇ ◆ ◇
「やれやれ……今日も大変な1日だった」
クロノスが教員の席に座りそう話すと他の教員達も一斉に話をしだす。その話は大体ユラがやらかしたといった話や今日はミオリオ授業に来てくれなかった等の問題児エピソードばかり。その話の流れで何となく他の教員達の手も煩わせている事が痛い程よく分かる。
「はあ、あの生徒達とどう向き合ったらいいんでしょうか……」
「さあな、こればかりは分からん」
「ガハハ、若いうちはそれぐらい元気がないとなあ!」
フランベル先生が泣き言を言うと他の教員達が慰める。確かに困った生徒達だ。だが悪い所ばかりではないと内心思っているクロノス。そう、ただ問題行動が目立つだけなのだ。そう考えを律すると職員室の扉からコンコンと音が鳴り響く。こんな時間に誰だろうかとクロノスが見つめているとその扉を開けたのは丁度噂になっていたユラだった。
「失礼します!あの、クロノス先生ちょっといいですか?」
「なんだ?何の用だ」
「ちょっとここでは話しづらい話で……ちょっとお時間もらってもいいでしょうか?」
「……構わん、向こうの部屋で話を聞こう」
「……ありがとうございます!」
クロノスがそう言うとユラを別室へと連れていく。さて何用か。そう問う為に机と椅子を用意するとユラはクロノスの向かい側に座って黙り込んだ。
「で、今日はどうしたんだ?」
クロノスがそう問うと何やら言い淀むユラ。さてどうしたものか。しばらくの間返答を待ち続けているとユラから予想だにしない事を言われる。
「あの、実はですね……身体を元に戻す方法を探す為に禁忌の図書室を開けてほしいのです」
禁忌の図書室というのは今朝ヤスチヨが鍵をこじ開けようとしたあの地下の奥にある場所の事だ。これではっきりした。どうやらヤスチヨはユラの為に身体を元に戻す方法を探していたようだ。全くユラにはいつも驚かされる。そう思ったクロノスは真剣に考えた後こう述べる。
「……ダメだ、あそこはユラには危険すぎる」
「何故ですか!?読むだけならいいじゃないですか!!」
「ダメだ、この間危うくアルバ語を読んで大変な事になりそうだったばかりだろう?……それにあそこには死体や人の死を交換条件とした魔法しかない……もしユラがそんな魔法使ったら先生泣くぞ?」
そう、クロノスがあの部屋を隠す最大の理由は危ない魔法だらけだという事だ。通常の魔法ならやらないであろうアウトローな魔法ばかりのそれは結界が張られたあの部屋だからこそ保管できる品物。ユラが何故アルバ語を取得しているのかはクロノスにとっては不明だが、何にせよあそこでは口に出して読む事すら大変危険なのだとユラに対し説明し続ける。
「だからダメなものはダメだ、あんな魔法……ある意味何の役にも立たない」
一見普通に見える魔法ですら人の死を扱う魔法として保管されているのだぞと説明しきるとユラはしょんぼりとした表情で項垂れる。仕方がない。ユラの為にしてやりたいが物が悪すぎる。とクロノスが1人納得するとユラもまた仕方ないといった表情で顔を上げた。
「では……せめて異世界本だけでも貸しだしたりできませんか?」
「異世界本?ミオリオによく貸す本の事か?」
「はい……最近ちょっと興味があって……」
全くユラときたら。おそらくミオリオの影響で興味が湧いたのだろう。とクロノスが思うと仕方ないなといった表情でメガネをくいっとあげこう語る。
「……まあそれぐらいならいいだろう」
「ありがとうございます!」
「ただし、丁重に扱えよ……一応この学校の貴重品だからな」
「はい丁重に、ですね!任せてください」
ユラはそう言うが……本当に大丈夫だろうか。などと考えているとユラの表情はいつの間にやら明るいものとなっていた。まあいいか。さすがのクロノスもその曇りなき笑みにそんな気持ちにさせられる。それになんだかんだいってユラは物を大切に扱う者だ。と独りでに納得するとユラに異世界本を渡して扉の向こうへと見送る。そのユラの姿は何となく教員達の気持ちを明るくするもので。これからもしっかりやっていけよとクロノスは内心激励した。




