第77話 火花の軌跡
長期休暇も宿題もあと残り僅か。学校で出された宿題をこれでもかという具合に無理矢理終わらせると、ユラはヤスチヨ共に寮の外へ出る。
「ユラの宿題も後僅かになりましたわね」
「もう!もうちょっとゆっくりやりたかったのにーヤスチヨってばすぐ急かすんだから!」
「後回しにすると大変な事になりましてよ!おーほっほほほ!」
まるで寮に鬼の執事でもいるかのようだ。ユラがふとそう考えていると向こう側の寮の扉がバンと開かれ肝を冷やす。
「何事ですの?」
ヤスチヨの声かけと共にユラがそっと扉の前を見ると、そこにいたのはミオリオとエルの2人組だった。無理矢理扉が開かれた事を奇妙に思ったユラはその2人に対しこう問いかける。
「なんかあったの?」
「実は……」
「もう宿題とかやだあああ!どこかに遊びに行きたいよおおお!」
なるほど。エルが何も言わなくても話している言葉ですぐに察しがついた。要するにミオリオは宿題をしたくはないのだ。
「えっと……」
「察しはついただろうけど要するに宿題から逃げ出そうと必死なんだよミオリオのやつ」
そう棒読みで話を進めるとエルはミオリオに対し大声でこう言い放つ。
「おい!宿題手伝えって言ったのお前の方だろ!だから続きやるぞ!」
「だってエルのやつ鬼コーチなんだもん!!」
「鬼こーちって?」
「うーん……要するに鬼って事かしら?」
鬼コーチってなんだろう。きっとミオリオが異世界の本で学んだ事なんだろう。とユラは感心しながらもワタワタしつつ2人を止めようとする。
「ちょっと!2人とも落ち着いて!そんな事してたらあっという間に時間が過ぎちゃうよ!」
「……確かに、一理あるな」
「えーでももう宿題やりたくないんだけど!」
エルがユラの言葉に肯定の意を示すとミオリオが引き続き駄々をこねる。確かに宿題はやりたくはない。そうミオリオの気持ちに共感しているとエルからある提案をされる。
「……もしこの後も頑張れたらいい物を見せてやる」
「いい物って?」
「花火だよ、異世界の本にも書かれていただろ?」
「花火!?」
「どうだ?ユラ達もよかったら見ていかないか?」
花火。初めて聞く単語だ。ミオリオの食い付きからしてさぞいい物なのだろう。そう思うとユラももう一息頑張れそうな気がして。思わず一緒に見る事を同意してしまう。
「うん!一緒に見たい」
「よし、決まりだな……さあ頑張るぞミオリオ!」
「ああー!宿題はやだああああ!!」
エルがそう話すとミオリオの叫びと共に扉の向こうに消えていく。花火が一体どんなものか。とてもワクワクしながらユラも宿題のある寮の部屋へと消えていった。
◆ ◇ ◇
無事難なく宿題を終えたユラ達一行はエルとの約束を果たす為に学校外の湖のほとりの前に来ていた。
「そういえばエルって宿題終わったの?」
「とっくに終わってる……じゃなきゃミオリオの宿題なんか見たりしない」
「……だよね」
さすがエル。やはりエリートなだけあるなとユラが感心していると、エルが準備ができたとばかりに話を進める。
「じゃあ始めるぞ」
「ミオリオって花火見た事あるの?」
「いや、見た事ない!だからすっごく嬉しい!……いつの間にそんな芸当できるようになったのエル?」
「……さあな」
そうエルが答えると何やら親指に妙な物を乗せる。それは小さな魔石。そのキラキラとしたその魔石をエルが親指で弾くと、それは空に向かって飛び上がりバチッと音が鳴る。そして飛び跳ねた魔石が大きな火の粉のようにバチバチ爆発すると、エルの周りのキラキラした粒子が反応して同じように綺麗な爆発を起こした。まるで開始の合図が鳴ったかのように。
「うわっ!!マジモンの花火じゃん!」
「すごい!綺麗!!」
「素敵な火の粉ですわ!!」
エルが缶のジュースを飲みながら爆発を連鎖させていくと3人の歓喜なる声が響き渡る。これが花火なのか。すごい物を見たなとお互い感心していると、エルがゴクリとジュースを飲み干しながらこう話す。
「まあ実際の花火とやらとは原理が違うようだがな」
「へえーさすがエル、物知りだね」
「あんたもしかしてまた勝手に私の借りた異世界本見たでしょ!?」
「……お前のじゃないから別にいいだろ」
そう2人で口喧嘩していると辺りは再び賑やかな光の音から静寂へと戻される。
「えーもう終わり?せっかく花火いっぱい見れると思ったのに」
「いや、まだここからだ……フィナーレといこうか」
ミオリオが駄々をこねるとエルが再び何かを始めるかのように指を鳴らし合図を送る。すると今度はさっきよりも大きな花火が空を舞い、色鮮やかに地面を照らし始めた。それは丸い赤や星型の青、シャワー型の黄色や三角の緑と様々な色と形のバリエーションで空を光らせていく。先程よりも音は大きいがヒュー!バチバチと音が鳴る度にユラ達の鼓動が音と共に踊らされた。
「うへえええ!!すっごおおおい!」
「どうだ?いい感じだろ」
「すごく素敵な光!!」
「これはフィナーレと言っても過言ではありませんわ!」
エルが得意げにしながら花火をお見舞いすると再び3人は歓喜の光で照らされる。すごく素敵な花火だ。ユラがそう思うとガサゴソと後ろから妙な音が聞こえてきた。
「お前ら……3人揃って外出届が出て何事かと思って見てみれば……ここで何をしている?」
「何って、花火の観測だけど?」
「……火遊びは校則では認められていないはずだが?」
「火は使用してないから問題ないはずだが……?」
「……エルの魔法か……」
現れたのはクロノス先生。どうしてここに来たのか聞いてみるとどうやら爆発音がしたのを心配になって様子を見に来たとの事。
「まあ……たまにはいいか……息抜きも大事だからな……皆、帰りは遅くなるなよ?」
「「「はーい」」」
クロノス先生がそう話すと踵を返しその場から離れていく。何事かと思って焦った。とユラ達が一安心つくとお互いの照らされた光の色に思わず笑みがこぼれた。




